The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第一章:ローズ街工場地区の事件録

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 広く複雑な工場地帯は、工場だけがあるわけではない。事務所、危険物貯蔵施設などもあり、その種類は多岐にわたる。
 また、一定規模以下の店舗や、工場に付随する診療所や保育所なども建てられていて、さまざまな職種の人たちが、この工場地帯で働いていた。

 だが、その中でも初めて見る──と視線を集めるのがセラフィエルたち祓い師。

 白と黒、2種類のロングコートを着ている祓い師たちは、この姿と祓霊庁を表す十字架と25の数字が書かれた丸い形のブローチで存在感を表す。
 これらは祓霊庁に所属している祓い師であるという証拠だった。

 とはいえ、必ず着用しなくてはいけないのがコートとブローチのみで、それ以外は比較的自由だったりする。
 実際に女性だったら可愛らしいワンピースを着ていたり、男性だったらおしゃれなスーツだったりと、自分の好みに合わせた服装を楽しんでいるのだ。
 厳格に見えて、彼らも普通の人間の感性を持っている。

 セラフィエルは白のコート。ジェイクは黒のコートを着ていて、足元に絡まる裾をさばきながら先に進む。
 入り組んでいるため距離があるのは仕方がないのだが、随分と暑いな……とジェイクは眉をひそめていた。
 まだ春先で肌寒いのに、この場所はひどく暑い。

 セラフィエルも暑さを感じていて、詰襟のコートに指先をかける。
 脱ぎたいとは思っても、それは難しいのだ。
 このコートには、対悪魔へのさまざまな防御が組み込まれているから。

「…………随分と暑いな」

「熱に強い悪魔なんすかね」

「どうだろうなぁ」

 三人が話をしているのを静かに聞いていると、わずかにある段差。
 ジェイクですら気づかなかったそれに足を取られた。

「わっ……」

「セラ」

 すぐ隣から伸びてくる腕が腰に回り、倒れそうになる体がぴたりと止まる。

「悪い、段差があったか」

 支えられながら、すりすりと足の底で地面をなでる。

「……ごくわずかな段差ですね」

 それが無数にあるこの工場地帯、セラフィエルには足場が悪いと感じてしまう微かな差。

「…………見えないって不便っすね。こんな気にならないくらいなのに」

 ニールの言葉には悪気はない。
 ただ、思ったままを言葉に乗せる配慮のなさが、人を時に傷つける。
 ヴィクターは慌てて後ろから頭を叩き、セラフィエルに謝るのだが、セラフィエルはくすくすと笑っていた。

「いえ、気にしないでください」

 セラフィエルにとっては日常なのだが、周りからは視覚障害者として憐れまれる。
 言葉を濁し、ちらりと向けられる奇異の目。
 だが、ニールは純粋に「不思議っすねー」と首を傾げるのだ。
 それはセラフィエルにとっては心地よいほどに。

 さらりと、頭を撫でられる感触があった。
 細く長い、いつも触れる手が無言で「良かったな」と伝えてきて、小さく笑った。

 ──────

「失礼します。祓霊庁から来ました祓い師です。詳しい内容をお聞かせ願えますか」

 工場地帯を統括する統括監(General Superintendent)アンジェリカ・ロウ。

 引っ詰めた髪の女性は、入ってきた四人に吊り上がり気味の目を向けた。
 パンツスーツを着こなしたその女性は、手に持っていた二冊のファイルを机に置いて向きを変える。

「よく来てくれました、迅速な行動に感謝するわ」

 冷ややかな声が部屋に響く。
 アンジェリカの性格なのか、随分と堅苦しい。
 無表情で淡々としているアンジェリカに、外ヅラを張りつけたニールが小さく頭を下げた。
 今回の祓い師の責任者はニール。昇進試験が頭にちらつきながらも、真っすぐにアンジェリカを見た。

「詳しい話をするわ。こっちに座って」

 部屋の端にあるソファを指さしてから、紅茶の準備をするアンジェリカは、四人を見たがセラフィエルに視線を留めることはなかった。

 ソファに座る四人に、自ら準備した紅茶を出したアンジェリカはそのまま椅子に座る。
 すぐ近くにテーブルがある場合は自分で取れるが、距離感が測れない場所にある紅茶には手を伸ばせないセラフィエル。
 それを分かっているジェイクは紅茶を取り、セラフィエルの手に持たせる。
 それを見てアンジェリカが口を開いた。

「…………少しぬるくしてるけど、大丈夫かしら」

「ええ、お気遣いありがとうございます」

 両手で持つカップの温度は熱すぎず、口にした紅茶も程よい熱を保っていた。
 目が見えないセラフィエルは、事前に指先で温度を確認するのだが、熱すぎるのに気づかず指先を火傷することがある。
 お節介な気質があるジェイクがいる場合は、先にセラフィエルの腕を掴み注意されることの一つ。
 そんなジェイクが渡したのだ。火傷の危険はない。

 ニールがそんな二人の様子をキラキラした目で見ていると、ヴィクターが脇腹を肘で押した。
 ハッ!としたニールは、咳払いをしながらアンジェリカを見る。

「じゃ、じゃあ。詳しい話をお願いします」

 それを聞いたアンジェリカは、隣にある資料をばさっと開いて四人に見せはじめた。
 
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