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第一章:ローズ街工場地区の事件録
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しおりを挟む地面とは違う歩きにくい通路に何度か足がもつれた。
白杖も、網目に引っかかり挟まってしまうので、使用する方が危ないと紐を腕にかけて手すりを持っている。
(……1、2……3、4……)
歩く度に歩数を数え、靴底を滑らせて小さな段差で道の繋ぎ目を確認する。 その、数も。
そんなセラフィエルの腕を後ろから支えているジェイクは周りを眺めていた。
ゴゥン……ゴゥン……と響く稼働音。
何かを焼いている焦げ臭い匂いがセラフィエルの感覚を少し惑わせる。
今は稼動してないはずなのに、ゴウンゴウンと音が鳴っていて煙突から煙が溢れるように出ている。
これは悪魔が音や煙を再現していて、実際に稼働しているわけではない。
熱風が工場から風に乗って来て、じわじわと温度を上げていた。
小さくセラフィエルの「熱い……」と呟く声に、ジェイドがチラリと視線を向ける。
さらさらの柔らかな髪が風に吹かれて、ふわりと揺れる。
依頼人と話をした時の突然の熱風と、腕に這うような熱の塊、ジクジクと内側から切るような痛みを思い出した。
熱風を生み出して、周りに響く音を鳴らしているのを黙って聞く。
近付くにつれて音がより大きく響き、体にビリビリと響いた。
「………………ここに、本当に悪魔はいるのか」
「いますっ! ね!!」
まだ何も調べていないので存在の確認をしていないのに、自信満々にニールは答えた。
やる気に満ち溢れているのはわかるが、それは違うだろうとジェイクが呆れる。
不可思議な現象が起きているから安易に言っているのだろうが、その返答は良くなのだ。
悪魔は現象を遠隔で行うことが出来る。
必ずしもその場にいるかと言われるとそうでは無いので、それを調べるための捜査、あぶり出しが必要になる。
だから、安易に「いる」と発言してはいけないのだ。
それを理解し、依頼主と情報を擦り合わせるのも試験を受けるニールの仕事なのだが、やる気が見事にから回っていた。
昇進試験の審査をする役割を担う別バディのセラフィエルとジェイクは揃って苦笑したのだった。
「そういえば、ジェシカさんとジョージさん今日はいらっしゃらないんですね」
「ジェシカと…………ジョージ?」
「依頼に来たおふたりっす」
ヴィクターが聞くと、足を止めて振り返りマシューが不思議そうにゆっくりと右に首を傾げる。
眉を顰め、目を細めて何かを考えてるように足元を見るが、やはり首を振った。
「ジェシカには、たしかに依頼を頼んだとアンジェリカから聞いているが、ジョージという名に覚えはないぞ。依頼を頼むなら、それなりに地位のあるやつに頼む。すくなくても、俺はジョージというヤツをしらん」
「……え、じゃあ、あの人はただ着いてきただけっすか? でも、ジェシカさん秘書って言ってたっすよね?」
ヴィクターを見上げて聞くニールは、心底不思議そうにしていた。
それに頷くヴィクターは、悪魔からの介入が何かしらあったのかもしれない、と目を細めてニールに言った。
セラフィエルは、ジェシカが悪魔の影響下にあるのを知っている。
だから、その可能性もあると理解している。
「今日、ジェシカさんはおやすみですか?」
「いや……出勤のはずなんだが、まだ来ていないんだ。本来なら、この案内にジェシカも来るはずだったんだがな」
顎に手をあて険しい顔をするマシューに、セラフィエルがジェイクを見上げた。 掴む手に、少しだけ力が入る。
「…………まぁ、だろうな」
セラフィエルの無言の質問に答えたジェイクはニールを見て警告した。
「少し、注意した方がいいかもしれないぞ」
笑みを浮かべていたニールの顔が一気に引き攣った。
───
「ここが通路の扉だ。開けるぞ」
マシューの鍵束を持った手が動き、シャラシャラ音を鳴らす。
それにニールは思い切り振り向いて、まだこちらを見ているマシューの前に進み出た。
訝しげに見てくるマシューに、今までになく真剣な表情で十字架を出して見せるように持ち、話し出す。
「これから調査、悪魔祓いを行います。この先は自ら確認をする為に同行することも可能ですが、その際に危険が伴います。怪我、命の危機に陥る、または死亡する可能性もあります。できる限りこちらでも守る為に動きますが、悪魔の強さによってそれが出来ない可能性もあります。いかがしますか?」
今までのニールの軽い話し方とは違う、形式に乗っ取った契約で相手を縛る言葉。
これは好奇心からついて行こうとする依頼人やその周囲の人間に向けた危険行為が含まれることを示す。
書類がなくても効果を発揮する言葉の力をマシューにかけた。
「………現状の把握も俺の仕事だ。一緒に行こう」
「わかりました。では、これより先は、我々の指示に従い行動してください」
マシューが頷いたのを見て、ニールも頷き鎖のついた十字架をマシューの前でギュッと握る。
「天にまします我らが神よ。この者を護る為の慈悲を与え給え」
十字を切り目を瞑り頭を下げたニールは、その十字架をマシューに渡した。
「これ、必ず持ってて下さいっす! あなたを守ってくれるから、肌身離さず!」
マシューの手の平にしっかりと握らせて強く警告するニール。 悪魔祓いや祓い師を信用していないマシューはチラッと十字架を見てから、フン……と鼻を鳴らした。
乱雑に上着のポケットに入れるのをセラフィエル以外の3人が見ていた。 それにマシューが、不安になったのかヴィクターをこっそりと見る。
特に表情を変えずにいるから、ニールも気を引きしめるだけに留まった。
「じゃあ、開けるぞ」
ジャラ……と鍵束が擦れる音が響いた。 耳に残る金属音と、鍵を開ける擦れる音。
セラフィエルは、鍵を動かす音を静かに聞いていた。
「………………25」
小さなセラフィエルの言葉は、ジェイクがしっかりと聞いていて、視線を向けたジェイクは最後の一服を諦めた。
重いのか、ずっしりと引きずるような音がして、扉が開いていくのがわかる。
蝶番の微かなキキキキ……と軋む音が重なり、それを聞いたニールは無意識に緊張で喉を鳴らした。
隙間が開く度に中から熱風が流れてきて、熱すぎる熱が頬を撫で、セラフィエルの瞳が細くなる。
「………………うわぁ、あっつ!!」
思わず腕で顔を隠すニールに、マシューは鼻で笑った。
ほかの工場でも、これくらいの熱風はあるからだ。
たしかに熱いが、これくらいでか? と言葉なく伝えてくる。
そんな中で、セラフィエルとジェイク、ヴィクターは無表情で周りを見渡した。
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