The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

文字の大きさ
8 / 69
第一章:ローズ街工場地区の事件録

1-8

しおりを挟む

 地面とは違う歩きにくい通路に何度か足がもつれた。
 白杖も、網目に引っかかり挟まってしまうので、使用する方が危ないと紐を腕にかけて手すりを持っている。

 (……1、2……3、4……)

 歩く度に歩数を数え、靴底を滑らせて小さな段差で道の繋ぎ目を確認する。  その、数も。
 
 そんなセラフィエルの腕を後ろから支えているジェイクは周りを眺めていた。

 ゴゥン……ゴゥン……と響く稼働音。
 何かを焼いている焦げ臭い匂いがセラフィエルの感覚を少し惑わせる。

 今は稼動してないはずなのに、ゴウンゴウンと音が鳴っていて煙突から煙が溢れるように出ている。
 これは悪魔が音や煙を再現していて、実際に稼働しているわけではない。
 
 熱風が工場から風に乗って来て、じわじわと温度を上げていた。
 小さくセラフィエルの「熱い……」と呟く声に、ジェイドがチラリと視線を向ける。
 さらさらの柔らかな髪が風に吹かれて、ふわりと揺れる。
 依頼人と話をした時の突然の熱風と、腕に這うような熱の塊、ジクジクと内側から切るような痛みを思い出した。

 熱風を生み出して、周りに響く音を鳴らしているのを黙って聞く。
 近付くにつれて音がより大きく響き、体にビリビリと響いた。

「………………ここに、本当に悪魔はいるのか」

「いますっ! ね!!」

 まだ何も調べていないので存在の確認をしていないのに、自信満々にニールは答えた。
 やる気に満ち溢れているのはわかるが、それは違うだろうとジェイクが呆れる。
 不可思議な現象が起きているから安易に言っているのだろうが、その返答は良くなのだ。
 
 悪魔は現象を遠隔で行うことが出来る。
 必ずしもその場にいるかと言われるとそうでは無いので、それを調べるための捜査、あぶり出しが必要になる。
 だから、安易に「いる」と発言してはいけないのだ。

 それを理解し、依頼主と情報を擦り合わせるのも試験を受けるニールの仕事なのだが、やる気が見事にから回っていた。
 昇進試験の審査をする役割を担う別バディのセラフィエルとジェイクは揃って苦笑したのだった。


「そういえば、ジェシカさんとジョージさん今日はいらっしゃらないんですね」

「ジェシカと…………ジョージ?」

「依頼に来たおふたりっす」

 ヴィクターが聞くと、足を止めて振り返りマシューが不思議そうにゆっくりと右に首を傾げる。
 眉を顰め、目を細めて何かを考えてるように足元を見るが、やはり首を振った。

「ジェシカには、たしかに依頼を頼んだとアンジェリカから聞いているが、ジョージという名に覚えはないぞ。依頼を頼むなら、それなりに地位のあるやつに頼む。すくなくても、俺はジョージというヤツをしらん」

「……え、じゃあ、あの人はただ着いてきただけっすか? でも、ジェシカさん秘書って言ってたっすよね?」

 ヴィクターを見上げて聞くニールは、心底不思議そうにしていた。
 それに頷くヴィクターは、悪魔からの介入が何かしらあったのかもしれない、と目を細めてニールに言った。

 セラフィエルは、ジェシカが悪魔の影響下にあるのを知っている。
 だから、その可能性もあると理解している。

「今日、ジェシカさんはおやすみですか?」

「いや……出勤のはずなんだが、まだ来ていないんだ。本来なら、この案内にジェシカも来るはずだったんだがな」

 顎に手をあて険しい顔をするマシューに、セラフィエルがジェイクを見上げた。  掴む手に、少しだけ力が入る。 


「…………まぁ、だろうな」


 セラフィエルの無言の質問に答えたジェイクはニールを見て警告した。

 
「少し、注意した方がいいかもしれないぞ」


 笑みを浮かべていたニールの顔が一気に引き攣った。





───





「ここが通路の扉だ。開けるぞ」


 マシューの鍵束を持った手が動き、シャラシャラ音を鳴らす。
 それにニールは思い切り振り向いて、まだこちらを見ているマシューの前に進み出た。
 訝しげに見てくるマシューに、今までになく真剣な表情で十字架を出して見せるように持ち、話し出す。

「これから調査、悪魔祓いを行います。この先は自ら確認をする為に同行することも可能ですが、その際に危険が伴います。怪我、命の危機に陥る、または死亡する可能性もあります。できる限りこちらでも守る為に動きますが、悪魔の強さによってそれが出来ない可能性もあります。いかがしますか?」

 今までのニールの軽い話し方とは違う、形式に乗っ取った契約で相手を縛る言葉。
 これは好奇心からついて行こうとする依頼人やその周囲の人間に向けた危険行為が含まれることを示す。
 書類がなくても効果を発揮する言葉の力をマシューにかけた。
 
「………現状の把握も俺の仕事だ。一緒に行こう」

「わかりました。では、これより先は、我々の指示に従い行動してください」
 
 マシューが頷いたのを見て、ニールも頷き鎖のついた十字架をマシューの前でギュッと握る。

「天にまします我らが神よ。この者を護る為の慈悲を与え給え」

 十字を切り目を瞑り頭を下げたニールは、その十字架をマシューに渡した。

「これ、必ず持ってて下さいっす! あなたを守ってくれるから、肌身離さず!」

 マシューの手の平にしっかりと握らせて強く警告するニール。 悪魔祓いや祓い師を信用していないマシューはチラッと十字架を見てから、フン……と鼻を鳴らした。
 乱雑に上着のポケットに入れるのをセラフィエル以外の3人が見ていた。 それにマシューが、不安になったのかヴィクターをこっそりと見る。
 特に表情を変えずにいるから、ニールも気を引きしめるだけに留まった。

 
「じゃあ、開けるぞ」


 ジャラ……と鍵束が擦れる音が響いた。 耳に残る金属音と、鍵を開ける擦れる音。
 セラフィエルは、鍵を動かす音を静かに聞いていた。
 
「………………25」

 小さなセラフィエルの言葉は、ジェイクがしっかりと聞いていて、視線を向けたジェイクは最後の一服を諦めた。


 
 
 重いのか、ずっしりと引きずるような音がして、扉が開いていくのがわかる。
 蝶番の微かなキキキキ……と軋む音が重なり、それを聞いたニールは無意識に緊張で喉を鳴らした。
 
 隙間が開く度に中から熱風が流れてきて、熱すぎる熱が頬を撫で、セラフィエルの瞳が細くなる。

 
「………………うわぁ、あっつ!!」

 思わず腕で顔を隠すニールに、マシューは鼻で笑った。
 ほかの工場でも、これくらいの熱風はあるからだ。
 たしかに熱いが、これくらいでか? と言葉なく伝えてくる。
 そんな中で、セラフィエルとジェイク、ヴィクターは無表情で周りを見渡した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす

河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。 悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

お腹いっぱい、召し上がれ

砂ねずみ
BL
 料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。    そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。  さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。

【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ  異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。  頭は良くない。  完結しました!ありがとうございますーーーーー!

処理中です...