The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第三章:中央銀行前・悪魔遭遇事件録

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 早朝出勤だったジェイクは、空を見上げた。
 朝早い時間のどんよりとした雲間から覗く、うっすらとした光が差し込む空。
 ジェイクは朝から、そんな空と同じような重たいため息を吐き出した。
 
 セラフィエルが休日で、本日はジェイクのみの出勤となる。
 バディがいない祓い師は当然外回りが出来ない。 依頼が来ても二人セットでの悪魔祓いを前提としているため、現場に行くことが出来ないのだ。

 そのため、こういった場合はフリー対応となる。
 
 階級によるのだが、相棒が休みの場合、祓い師はフリーとなる。
 別の祓い師と代わりに組んだり、未熟な祓い師の援護として現場に赴いたり、事務所に残り書類整理をしたりと、その役割は様々あって日により変わる。
 ジェイクは祓い師の序列も高いため、様々な役割が課せられやすい。
 こういった時は完全にフリー対応が出来、どの仕事も請け負える貴重な人材とも言えた。

 通常、日勤帯でフリー専用の祓い師が5人駐屯している。
 同じように何でもできる祓い師でサポートしているのだが、ジェイクがフリーでいる時は人材が増えると喜ばれる。
 今日もこき使われるのだろうなと、肩を落とした。

「はあ」

 今日の仕事を考えてジェイクのため息は尽きない。
 聞きなれた白杖をつく音もなければ、隣を歩く小さな姿も無い。
 慣れ親しんだ姿が無いのがこんなにも不機嫌になるのは今更な事なのだが、気に入らないことには変わりなく、ジェイクはまだ半分程しか吸っていない煙草を揉み消した。



 

 本日のジェイクの仕事は、新しく来る新人二人の対応である。
 元々はジュディの仕事なのだが、急遽フリーとなったことで新人研修の手伝いを押し付けられたのだ。
 ジェイクはため息を零しながら使う資料を見る。

 資料はニ人の新人祓い師について書かれていた。
 
 テオ・アンダーソン、27際男性。
 祓い師として勤務三年、現在アプレンティス級Noviceノービスの階級を得ている。
 階級を上げて資格習得をする為の実地試験中に悪魔の等級を見誤り、テオを守ってバディの女性が殉職した。
 その後、第五支部は人員不足もありテオの相棒となる人物が決まらなかった。
 アプレンティスはヴァンガード級以上とのバディが決まっているので、安易に組めないのだ。
 その為、第七支部への移動となったのだった。

 そして、もう1人は侵蝕痕を受けた女性、ニコ・ディコルソン。
 悪魔課のサポートを受けて日常生活が出来るまで回復したニコは、祓い師の職業を選択した。
 自分以外の家族全員を殺した悪魔を根絶やしにすると自ら修羅の道を選択したのだ。

 そんな新人女性は、出勤1日から遅刻していた。

「おはようジェイク」

「……あぁ」

「今日は貴方がフリーだって聞いて助かったわ。私1人でしないといけないのかと思った」

 はぁ、とため息をついて応接室の革張りのソファにゆっくりと座るのはジュディ・オルセン。
 薄ピンク色の髪をなびかせて、背もたれに寄り掛かるジュディをジェイクがチラリと見る。

「……お前がバディか」

「ちょうど解消したばかりだから。手が空いてるのよ」

「どっちだ?」

「ニコ・ディコルソン」

 チラッとジェイクの資料を見てから答えたジュディに、なるほどと頷く。
 テオはちょうど出勤したところで、今は事務所で右往左往しているところだ。

「テオ・アンダーソンは誰だ?」

「ティアよ」

「……そうか」

「なによ、不満? 私が育てたヴァンガードが心配なのかしら」

 ジロリと睨み付けたジュディに肩を上げて首を振った。
 不機嫌になった訳ではないジュディは、頬杖をついて、窓から見えるどんよりと重たい空を見上げる。

「…………喜ばしい事だけど、バディ解消はやっぱり悲しいわね」

「……そうだろうな」

 ジュディは、バディだったティア・ワトソンとつい最近バディを解消した。
 イニシエイトだったティアが、ヴァンガードに昇格したのだ。
 その為、センチネルのジュディと組めなくなり解消。
 昇進を喜んでいたが、その反面、新人から手塩に育てたティアが傍を離れ寂しさもあった。

「あんたはいいわね、セラを昇進させないから解消はないもの」

「羨ましいか?」

「セラが可哀想」

「なんでだよ」

 呆れたように首を振ったジュディに、眉をはね上げて背もたれに腕をかけ尊大に座った。

 コンコンコン……。

 控えめなノック音が響く。
 それにふたりが同時に顔を向けると、金髪の女性が扉から顔を出した。
 そっと覗き込む綺麗な女性は眉尻を下げて自信なさそうに室内を見ている。

「……あ、ジュディ先輩」

「おはようティア」

「おはようございます……ジェイク先輩も、おはようございます」

「あぁ」

「挨拶くらいちゃんとしなさいよ」

「うるせぇ」

 パタパタと足早に入っていたティア・ワトソン。
 ジュディの前バディである。
 柔らかそうな女性的な体つきで、ジュディにはないふくよかな胸元を持っている。

 そんなティアは不安そうにジュディを見た。

「先輩……」

「情けない顔しないの。自信持ってバディを組みなさい」

 ティアにしたら初めてジュディ以外と組むことになるし、ヴァンガードとして下位の祓い師を見る責任が生まれる。
 元来気の弱いティアは自信が無いとジュディに助けを求めたいところだが、こちらも新しくバディを組むので難しい。

「そんな顔をしないのよ、大丈夫だから」

 そう言って、自分よりも年上のティアの肩を叩いた。
 
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