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第三章:中央銀行前・悪魔遭遇事件録
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しおりを挟むあれから30分が経過した。
数枚の資料を片手に、今後の動きを最終確認する。
これは、急遽手伝いに入ったジェイクのためのものだが、サラッと資料を見たジェイクは早々に興味を無くした。
あくまで本日限定の手伝いだから、今日分を理解出来たらそれで良いというスタンスだ。
「……聞いてるの?」
「ああ、大体はわかった」
「まったく。本当にセラ以外どうでもいいんだから」
「あ、あの……セラさんは今日お休みですか?」
勇気をもって聞いた元バディに、ジュディは、あら……と驚いて見つめる。緊張から青ざめていてカタカタと震えているティアは、今にも倒れそうになっていた。
顔面蒼白、動機息切れ、今にも失神しそうと三コンボ見せるティアにジュディが眉尻をさげる。ティアは目つきが悪く態度も悪いジェイクが怖いのだ。
怖いと思っているから話すこともなく、人となりを理解する前に恐怖が先にきて逃げているティアにしては頑張ったほうである。
「……休みだ」
頑張りは褒めたいが、ここまで怖がらせる事したか……?と、ジェイクは頬を引き攣らせた。
ジュディも、なんかしたの?と不躾な視線をよこされ、理不尽にも睨みつけられる。
だから、当たり触りない返事だけを簡潔に返したのだが、なんとも落ち着かない雰囲気にジェイクは今すぐ一服したい気持ちになってため息を吐いたのだった。
_____
「失礼します」
緊張気味な声がノックと共に静かな室内に響いた。
ゆっくりと開かれた扉から顔を出したのは、はちみつを溶かしたような髪色の男性だった。
随分と見た目が印象的な人物で、少し長めの髪は肩につくくらいで軽く結んでいる。綺麗な顔をしていて、柔らかな女性にも、かっこいい男性にも見える不思議な人。その外見に似合わず185cm近い高身長はとても目立つ。
「……男よね」
思わずオブラートに隠す事なくポロリ漏れた疑問に、移動してきた新人のテオは穏やかに笑った。
「男ですよ。確かめてみます?」
指さすのは下半身で、可愛らしい笑みと声で初対面から随分な事を吐き出す。
そんなテオに、ジュディは顔を引き攣らせた。
「結構よ」
「そう? これが手っ取り早いと思ったんだけど」
「……また、濃いヤツ来たな」
「わ、私のバディ、この人なの?」
ティアは呆然と呟き、テオはそれに気付いてニッコリと笑った。
「俺のバディはお姉さんなの? よろしくお願いします」
先程のインパクトの強すぎるテオに、ティアはオロオロしていた。だが、思いのほか穏やかに行儀よく挨拶されて、ティアは目をパチクリとする。
「よ、ろしく、おねがいします」
カタンと音を鳴らして立ち上がったティアは頭を下げる。
まるでテオの方が先輩のような様子にジュディは頭を抱えて息を吐き出した。
「まず座りなさい。この第七支部の話や仕事について。後、貴方の試験についても話をするから」
「はい」
にこやかに頷いたテオは、当然のようにティアの隣に座り、驚き跳ねながら小さく悲鳴を上げる。
そんな様子を、テオはまるで少女のように害のない笑みで見つめていた。
「…………どうしようかしら、本来ならニコ・ディコルソンも一緒に教えるべきなんだけれど」
「居ないものは仕方がないだろう」
「あとで二度手間になるじゃない」
「まぁ、そうだが。それもお前の仕事だろう」
「…………はぁ。初日から遅刻とか、いい度胸ね」
頭を抱えるジュディに、ティアが眉尻を下げて見ている。
頭が痛いわ、と呟くと、ティアはすかさず立ち上がり部屋を出ようとした。
「ティアさん? どこに行くんですか?」
「えっ、あの……チョコレートを……」
テオに呼ばれて振り向いたティアは常備している1口サイズのチョコレートを取りに行こうとしていたが、俯き気味だったジュディが目線だけをティアに向けた。
「いいわ、大丈夫よ。それに、これからは私のチョコレートを常備しなくていいわ」
疲れたり、悩みすぎて頭痛が始まった時、良くチョコレートを好んで食べていたジュディ。
その為にティアは常備していたのだが、それをもう要らないと言った。振り向きティアは泣きそう顔を歪ませてジュディを見る。
瞳に涙の幕を作り、クシャとさせる顔を見たジュディが、立ち上がって扉の前にいるティアの前まで行った。
フリルのついた青いスカートがひらめく。
「もう……泣くんじゃないの。バディを解消してずっと一緒にいる訳じゃないんだから。私が食べなかったら勿体ないでしょ? 貴方食べないんだから」
ハンカチを出して泣き出したティアの顔を丁寧に拭く。
眉尻を下げて困ったように笑うジュディにティアは余計に泣きそうになった。
仕方ないことだとわかってはいるのだが、気持ちが整理できないと少しうつむく。
来たばかりのテオも、自分のバディが他の人と組みたがっているのがわかって、困ったように笑った。
その時だった。
少し離れた事務所から、話し声が響いてくる。
いつもよりも緊迫感があってジェイクとジュディの眼差しが鋭くなった。
足音が響き、次第に応接室に近づいてくる。気持ち程度のノックオンが鳴った後、扉が開いた。
ジェイクが体を起こしてどうした?と聞くと、ヴァンガード級のフリーの祓い師がホットラインと伝えてくる。
「大通りの銀行付近に、悪魔出没情報。報告書がかなり混乱しているから詳しくはわからないけど、実体化してるかもしれないよ。周りにも被害出てるみたいだね。他の祓い師は出払ってるけど、どうする? 俺が誰かと組んで行こうか?」
それを聞いてジェイクは直ぐに立ち上がった。
ギシ……とソファのきしむ音にジュディが振り向きジェイクを見ると特製祈祷煙草の確認をしている。
「……ジェイク?」
「凌雅、俺とこいつらで行く。テオ、お前はどうする?」
「行きますよ」
呼びに来た男性、凌雅はにこやかに笑って頷き「了解」と答えてから事務所に戻っていった。
そのあとをジェイクが追いかけるように、応接室を出て事務所に向かう。
きょとんと見送ったジュディは、すぐにティアたちと追いかけると、自分の机に無造作に置いているガンベルトを持ち、準備しているジェイクに話しかけた。
「ちょっと待って、どうしたのよ」
珍しく急いでいるジェイクにジュディが聞くと、顔だけ振り向き完結に言った。
「セラがいる」
「……え、セラフィエルさんが?」
「アイツ、久々に買い物行くって言ったてからな」
大丈夫だろうと思ってはいるが、やはり側にいない不安感が強い。
これによって、センチネル二人、ヴァンガード一人がいる随分と気前のいいメンバーでの悪魔祓いが決行されることが確定したのだった。
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