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第3章
14話 2度目の訪問はお泊まりで 4
玄関から戻ってくる足音は一定のリズムを刻んでいて、思ったよりも早い戻りに緊急性は無かったんだなと、レティリアはぼんやり思った。
クッションから背中を離して見ていると、戻って来たヴェルクレアがひょっこりと顔を出す。
その手には、見慣れた手に馴染む仕事道具があった。
カチャリと音がなり、それなりの重量があるそれをヴェルクレアは大事に持ってレティリアの前に来る。
「…………あ」
「レティ、今、君の仕事道具を持ってきてくれたよ」
ふわりと目の前に膝をつけて笑みを浮かべるヴェルクレアが、レティリアの仕事道具を見てから顔を上げる。
どうやら、ヴェルクレアの自宅を知る同僚がわざわざ持ってきてくれたようだが、なぜレティリアがヴェルクレアの家にいるのを知っているのだろうと首を傾げた。
「…………どうしてヴェルさんの家に来るの」
「俺が連れ帰るって言ったからかな。あの状態のレティを1人にすることはないって、同僚は分かっているしねぇ」
にこやかに笑うヴェルクレアは、先程のぎこちない雰囲気を取り払って言う。
それで納得する部下も、レティリアの同僚もどうなっているんだ、大事な仕事道具だぞ? と思いながらも差し出されるレティリアの大事な道具を見つめる。
どうやら、この道具はギルバートが運んでくれるように頼んだらしい。
それを大事に受けとり、袋から取り出す。
手入れはされていなく簡単に血を拭き取っただけの道具は、全て柔らかな布で一つ一つ保護されている。
他には、ベルトポーチと、仕事道具をしまう大きなポーチがあった。
「いつも腰に着けてるのだよね」
「うん……毎日夜に手入れするから」
「解体師は全員するの?」
「大体はそう。血や油がつくから綺麗に手入れしないと。 切れ味が全然違う」
これは、刃物や武器を扱う人……いや、何らかの器具を使う人は全員当てはまっているだろう。
解体は、一日に何度も魔物を捌く。
解体を終わる度に簡単な手入れはするのだが、ベテランや解体上手の人は、あまり刃物を汚したり刃こぼれをさせることもせず魔物を解体する。
レティリアもそのうちの一人ではあるが、暴れるリバイアサンをいなしたりしたから、今回は刃こぼれしているのが分かる。小さくため息を吐いて、布に包んだ。
「ヴェルさん。向こうで手入れしてもいい?」
「ここでもいいよ?」
「広げちゃうから、真ん中だと邪魔にならない?」
「大丈夫だよ。ほら、テーブルいるかい?」
折りたたみ式のローテーブルを出してくれたヴェルクレアは、「上でやりなさいね」と仕事道具をわざわざテーブルに乗せてくれた。
小さく頷いてから、レティリアは一つ一つ確認していく。
ポーチの中には手入れ用の道具が1セット入っていて、柔らかなタオル数枚や、研ぎ石などもポーチに入っていた。
「…………刃こぼれ、結構してるなぁ」
1番大きな出刃包丁に似た形の包丁を取り出して見つめる。
「包丁、なんだ」
「名前? うん。刃物は全部基本的には包丁。小さいのはナイフとかになるけど」
果物ナイフほどの大きさのナイフを見せて、教えるレティリアにヴェルクレアは、へぇ……と目を細めていた。
それからは静かな時間が続いた。
響くのは手入れをする時になる器具のこすれる音と、2人の息遣い。
風に揺れて鳴る、可愛らしい風鈴の音。
そんな中で、頬杖をついてヴェルクレアが穏やかに見つめてくる。
心地いいはずなのに、何処か胸がざわめく。
恥ずかしい、の、だろうか。
集中出来ないレティリアが1度手を止めてヴェルクレアを見上げた。
柔らかく目を細めて笑うヴェルクレアに、ふっ……と視線を逸らす。
「…………見すぎ」
「見ていたいんだよねぇ」
「だめ」
「だめ……なのかい?」
伸びてきたヴェルクレアの手が優しく頬を撫でると、燃えるように体が熱くなる。
前世も今世も感じたことのない感情のうねりに目を見開いた。
「………………うぅ」
「レティ?」
感じた事はない。
だが、知識として知っている感情。 なんなのこの気持ちは……なんてピュアな乙女が戸惑うような純粋さは、レティリアには無かった。
「…………あぁぁー……」
項垂れながら唸るレティリアに、ヴェルクレアがまた名前を呼ぶ。
優しく顎を持ち上げられて顔を見られると、みるみるうちにヴェルクレアの目が見開かれていった。
「…………レティ」
「見な、いで!!」
今、真っ赤になっているのは自覚している。
恥じらい、感情のままに目を潤ませ、だが、何かを懇願するような甘えた顔。
声色も甘く、自分から発せられたと思えないほどに。
さらに羞恥が膨れ上がり、ヴェルクレアの胸を押しながら顔を背けると、強引に引き寄せられた。
「っ……レティ……その顔は、駄目」
ぎゅっ……と抱き締められて、ヴェルクレアの胸に閉じ込められた。
レティリアの小さな体を隙間なく抱き締めたヴェルクレアは、やはり、以前よりも距離感が近すぎる。
今更ながらに強く『好き』という感情を自覚してしまったレティリアには刺激が強すぎるのに、発せられる言葉はさらに甘く、レティリアを翻弄する。
「……そんな顔をされたら……無理やりにでも、唇を……塞いでしまいたくなるでしょ……」
その言葉に心臓がさらに高鳴る。
痛いくらいに、体内から暴れるように脈打つ心拍に息も絶え絶えになりながら、思わずヴェルクレアの背中に腕を回した。
それは、まるで了承にもとれて。
「んっ……んぅ…………ン……」
後頭部を大きな手が支えるように抑えて、レティリアの唇をヴェルクレアが塞いだ。
ビクッ! と体が跳ねて、驚きで固まるレティリアの背中を優しい手が撫でていく。
震える手が崩れ落ちないように、必死にヴェルクレアの服を握りしめると、笑う気配がした。
「………………あぁ、可愛いなぁ」
少しだけ離れた唇から放たれた、甘ったるい声色に力が抜ける。
砕ける腰を、支えていたヴェルクレアが「まだだよ……」と、優しく囁きながら、また唇を塞いできた。
あれだけ、年の差などでごちゃごちゃと悩んでいたのに、彼女の表情ひとつで簡単に理性を崩されたヴェルクレアは、まるで味わうようにレティリアの唇を堪能した。
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