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第4章
7話 劣情の果て
目の座ったヴェルクレアの表情にビクっと肩が跳ねた。
普段と違う男性の欲が前面に押し出された熱に浮かされた眼差しが抱きしめ運ばれるレティリアを射抜く。
いつもの穏やかさを潜めたヴェルクレアの捕食したそうな視線にゾクリと未知の感覚を覚えて、今すぐにでも逃げ出したい気持ちがふつふつと湧き上がるが、スイッチが入った男の手を上手に離すことは難しそうだ。
一人暮らしの大きすぎる家の廊下を静かに歩く男の様子がすでに不穏だと感じる。腕を擦りながら、抱き上げられている状態で覗き見る顔は眉に力が入り険しい表情をしていた。
何かが吹っ切れたのだろう。ヴェルクレアに戸惑いはない。
だが、レティリアは違うのだ。たとえあの場所で体を重ねたとはいえ、特別仕様の精神体であり、この体はまっさらな初物なのだ。
なにをどうするのか、その先にある感覚を知っているからこそ、今更痛みや恥ずかしさに耐えてすべてをさらけ出すには戸惑いがあるし、唐突すぎる。
なによりヴェルクレアの足の間にあるヤツのサイズは小さなレティリアが受け入れるのに苦労どころではない。
「ま……って、性急すぎる……」
背中を軽く叩くが、まるで大丈夫だよと言うように優しく腰を擦られるだけで言葉での返事はない。
あまりにも早すぎるのだ。心の準備も体の準備も出来ていない。
「(今日、下着可愛くないし……)」
22歳、レティリア。
解体に食事に筋肉だけ興味があると思われがちだが、ちゃんと女性的な感覚も持ち合わせている。
上下違うとか、仕事だから結構使い古している……とか、見られて良い姿をしていないと今更ながらに思い出したレティリアは、ヴェルクレアに運ばれながら足をバタバタと動かした。
毎回仕事終わりにはシャワーを職場で浴びてからの退勤であるとはいえ、色々と気になってしまうのだ。
「まっててばぁ!」
「待てないって言ってるでしょ」
いつものレティリア優先の優しい男はそこにはいない。今すぐにでも自分の大事な女性を食べつくしたいと舌なめずりする動物のように、少しの余裕もなく足で扉を開けた。
連れられて入った室内の大きなベッドが目に入り、少し足をバタバタと動かすと、困った子供を見るように優しく顰められたヴェルクレアの眼差しがレティリアに落ちてくる。
「そんなに心配しなくてもいいよ。レティが訳わからなくなるくらいにトロトロに溶かして気持ちよくしてあげるからね」
普段言わないような欲情を孕んだ直接的な言葉に目を見開いた。
驚いた。あの時ですら、常にレティリアの感情と体を気にして優しく優しく触れていたというのに、今そっとベッドに降ろして肩に触れる大きな手の持ち主は、配慮も何もなくその柔肌に触れようとしているのだ。
優しく押し倒して大きな枕にレティリアの頭を埋める。
その瞬間、ふんわりと頭を支える枕の感触と、ヴェルクレアの香りが強制的に胸いっぱい広がり、顔を真っ赤に染め上げた。
ドクンと強く心臓を叩き、体中に熱が走った。肘を立ててすぐに起きようとしたが、マウントを取られて腹部にずっしりとした重みを感じた瞬間、自身のトップスの裾を掴むヴェルクレアを見て、抵抗しようとしていた動きが止まった。
少し厚手のトップスを裾からまくり上げて、見せつけるように、ゆっくりと脱ぐ男の眼差しはずっとレティリアをとらえている。
少しずつ上がっていく洋服から現れる引き締まった腹部を惜しげもなく晒す均整のとれた肉体美、そして、獲物を狙う眼差しをレティリアは下から見たのだった。無意識に喉が鳴った。それは恐怖からか、それとも興奮からか。
無意識に見てしまう男の裸体に、頭の中が真っ白に支配された。
「……レティ」
身を焦がすような熱を孕んだ眼差しがレティリアを見下ろす。ゾクリと這い上がる感覚に喉を鳴らして、ゆっくりと降りてくる手をただ見つめた。
その大きな手は、レティリアの頬を優しく撫でる。暖かな温度を頬に移してから、親指が耳をそっと撫でた。
甘く熱を与えるように、やわやわと揉みこむ。
「ふ……ぅ」
耳からもたらされる感覚が熱を生み、熱い息を無意識に吐き出した。
日常生活の中では感じることのない性を実感させる耳からの快感に首をすくめて目を細める。首を振って手から逃れようとすると、頬を掠める髪に、ハッと目を開けると、耳のすぐそばから優しくも熱い声が響く。
「……耳、弱かったんだね」
「やっ……ん! そこで話さない、で……」
「レティの気持ちいい場所を探さないといけないんだから、隠さないで素直に教えてね?」
「い、やぁ……」
耳に絡みつくようなぬるりとした生暖かい感触にビクッと震える。
今日は、女子会が終わったらヴェルさんの家に行って、少しゴロゴロしたら食事をして、寝るまでまったりするはずだったのに……と、今日の予定をまるで現実逃避のように考えてしまったのだが、耳から下に下がり首に顔を埋めて肌を堪能していたヴェルクレアが、少しだけ顔を上げた。
「……何か、余計な事考えているね? 俺だけ見て、感じてほしいんだけどなぁ」
少しだけ低く重くなったヴェルクレアの声に、ジュッと強く肌を吸い付く感覚。それに、ひっ……と引きつった声が喉から漏れた。
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