『魔物解体と奢られ飯』 今日も回復術師のおっさんに奢られる。

くみたろう

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第4章

14話 《鎧蟲皇グラン=バルド》解体開始


 3分の1程終わらせていた解体を、レティリアは意識して集中する。
 全体を見つめながら、いつも以上に鋭くスピードを上げて魔物の体を分離させていく。
 何度となく解体してきた魔物だからこそ、集中さえすれば失敗などしない。
 必要な工具を準備し、専用の硬いエプロンや顔や頭を守るガードを用意している先輩二人を今は意識の外に追い出した。

「……よし、やろう」

 目標10分。
 その間に、優秀な先輩達は全ての準備を終えて待っていてくれることだろう。


 ――――
    

「お待たせしました」

 解体を終えて搬送の職員に引き継ぎを終わらせたレティリアは、急ぎ着替えをして2人に合流した。
  全身を覆う分厚いエプロンにグローブ。
 首にかけているゴーグルに、すぐ隣に置いている頭をカバーするヘルメット。
 そして、二人の前にドンと置いている大きな機械。もう工具とは言えな代物に、遅ればせながら集まってきた人たちが顔を引きつらせた。
 他の地方の魔物がまた現れたと聞いて、ギルド上層部は勿論情報共有の為に騎士や回復術師も集まってきていた。
 おおよそ解体作業に見えない大掛かりな道具に、魔物の解体だよな……とボソボソ声が聞こえる。
 そこに合流したレティリアが来ると、騒めきが強くなった。
 S級や危険な魔物対応の隔離された解体場所。最近多いな……と思いながら、一緒に用意してくれていたエプロンなどを身に着けていく。

 「解体は先輩たちで、私はサポート?」

 出来たら解体したいところだが、すでに書類のサインはウィリアムとマギーの連盟になっている。
 少し離れている台にある書類に目を通しているレティリアを、外から見ている見学者たちが、あれがレティリアか……と見たことない人たちが目を細める。
 各分野に多岐にわたる知識量を保持していると知れ渡り、幼いことに危険視されていたレティリアの使い道を検討され始めているのだ。
 そんな怪しげな眼差しを、鋭く睨む複数に眼差しに晒されて、慌てて咳払いをして目線を逸らしていた。

 「まったく、こまったもんだよねぇ」

 ヴェルクレアの緩い話し方に反して、その眼差しはキツい。他にもレティリアの義兄やアレクセイなど、騎士や回復術師達も如実だ。
 解体員たちは、だれが発言したのか、その良すぎる目を暗記が得意な脳に刻み込んでいる。
 いつも賑やかな解体員たちの変わった雰囲気に、騎士たちが震えあがる程の殺気を発していて、ヴェルクレアは怖いねぇ……と言いつつ唇の端が上がる。

 レティリアがぎゅっとグローブを嵌めた。黄色いゴーグルをつけて魔物全体を眺めた。
 解体場の中央に横たわるそれは、もはや“蟹”という言葉で括っていい存在ではなかった。
 脱皮を五十回以上繰り返した巨体は何度も無くなった足を再生しているのだろう、太さが結構違う。
 淡い薄桃色の甲殻は鈍い光を放ち、ところどころに重なった層が年輪のように見える。一体、どれくらいの年月を生きて来たのだろうか。
 死後硬直により、脚はすべて腹部へ折り畳まれ、巨大な甲羅がそれを覆うように閉じている。
 まるで最後まで腹部を守ろうとしたかのような姿だった。

 「聞いてた通り、棘が鋭いな」

 三人で足の近くに集まり、見つめる。棘を利用し土をかき分けてものすごいスピードで前進するのだが横向きにも前方にも移動可能である。
 脚の一本一本に、逆向きの棘が生えていて、移動にも攻撃にも使える代物。刃のように鋭く、しかも魔力を帯びているため、死後も微弱に震えている。
 
「まずは脚から」

 レティリアの言葉に三人が頷く。
 本当なら、魔物の背中に乗り上げ上から断ち切るのが一番楽なのだが、この棘が邪魔をして乗りあがることも出来ない。
 そういった時ように用意される足台にウィリアムが乗って、フルフルと揺れる棘が満遍なく付いた足の付け根を確認する。

 「根本からいっていいか?」

 「ううん、体に接触している場所を切ると流れてる魔力は反応して一斉攻撃しているから、10センチくらい離したほうが安全だと思う」

 「……核に魔力溜めの組織があんのか?」

 「事件経過で減少するけど、このサイズだとかなりため込んでいるかな」

 「最悪だな」

 二人の会話を聞きながら、マギーも嫌そうに顔を歪ませる。どれくらい溜めているか分からないが、それは生前とあまり変わりない動きを体が記憶していて、魔力によって行動可能という事になるのだ。
 最悪、この解体場所が戦場になる。

 「なおさら、早く足を切り離さないと駄目ね」

 「うん」
 
 三人によって特殊固定杭が四方に打ち込まれ、巨体が固定される。内側に折られた足が、この解体の際に動かない事を祈るのみだね……と不穏な言葉を零しながら。
 そして、通常の包丁では歯が立たないため、使うのは魔導振動鋸。解体用に作られた甲殻等硬いものを切り離す専用の断殻刃だ。
 厳重にケースにしまわれているそれをレティリアが取り出して、試験的にスイッチを押す。まるでチェーンソーみたいにギュルギュルと動き出した刃を確認してから止めて、ウィリアムに渡す。
 同じく確認しているマギーが、問題ないねと言いながらレティリアを見た。

 「まずは、確認でレティは見てて。なんかあったら逐一報告」

 「ん、任されたよ」

 頷いたレティリアを確認してから、二人は足台に乗りあげて動き出した断殻刃を慎重に足に当てた。
 甲殻に刃を当てた瞬間、ギィィィィィンッ! と耳を劈くような金属音が響く。
 それは酷く不快な音で、外では顔を歪めて耳を抑える人も多々出ている。

 「すごい音ですね」

 「そうだね、レティがさっき言っていた五十回の脱皮で硬くなっているのが本当なら、この討伐はかなり難しかったんじゃないかな。まるで鉄を切っているような音だ」

 「甲羅切断の専用機材でしょうか……普段のナイフ……ですかね。あれでも凄まじい切れ味なのにまったく歯が立たないなんて」

 何度か見ていたレティリアの解体風景。何度ともなく倒してきた強い魔物の皮膚を、まるでケーキを切り分けるように包丁を差し込んでいる様にアナスタシアは見えていたから、驚いた。
 そう見えるくらいに筋肉を付けたレティリアの体幹が良いのだ。上手に体重移動をして、少ない力で無駄なく筋組織を切り分けていくのは、同じ解体員でも難しいのをアナスタシアは知らない。

 ギィィィィィィィィィィィンと金属を切るような音が解体場所の密閉空間に響き、あまりの煩さに三人の眉が寄る。
 火花ではなく、魔力の火粉が散る。
 薄桃色の殻は硬い。だが硬いだけではない。幾重にも重なった脱皮層が振動を吸収する。
 
「このままじゃ埒があかないな。三段階振動数を上げろ」

 「わかったわ」

 ウィリアムの言葉に頷きマギーが振動数を上げた。調整を入れると、ようやく鉄のような殻に白い線が走る。
 そのまま指示通り十センチ開けて足に刃を滑らせると、棘が引っかかり金属を削るような嫌な感触が伝わる。飛び散る火花が体にも跳ねて、防護されているエプロンに飛ぶのを視線の端で確認した。目元を保護していなかったら、その瞬間失明していただろう。
 慎重に、だが一気に。
 力を込めてズン……と切り離すと、鈍い衝撃が腕に走り一本目の脚が落ちた。
 断面は甲殻の層がはっきりと見え、まるで積層金属のよう。
 内側は意外なほど淡く柔らかい色味をしているが、触れるとまだ熱を帯びている。間違っても手を出してはいけない。
 その断面が気付かないくらいに震えた。それを認めたレティリアが眉を寄せながら後ろに下がる。
 
「神経反射に注意。動くよ」
 
 鋭い警告がレティリアから飛んだ。
 切り離したウィリアムも、半ばまで切っていたマギーも、すぐさまスイッチを止めて台から飛び降り後方に避難する。
 どんな動きをするのかわからない三人は、いつでも対応できるように腰を落として構えていると、床に転がりだ断面を見せる切断された脚が痙攣した。棘が地面を削りながらすごいスピードで動き出し、固定杭に激突する。

 「っ、随分と元気な足だね!」

 マギーが叫び、動きを止めない足の動きを見る。まだ断面に熱を持っているので触れると爛れる可能性があるから、簡単に手が出せない。
 まずは暴れる足の確保が先だとウィリアムが棚に並んでおる様々な道具の中から耐熱タイプの捕獲武器を掴んだ。
 網目状のペロンとした紙のようなものだが、魔物に触れると球体に変わる騎士たちも良く利用するものだ。

 「まったく、事前情報が欲しい、ね!!」

 ペラペラの見た目に似合わず、その捕獲武器は魔物の足まで飛んでいき、ギュルと巻き付いて球体に変わった。
 
 
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