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第4章
15話 《鎧蟲皇グラン=バルド》解体開始 2
球体になって確保された魔物の足は、そのままうにょうにょと動いていているが危険な行為はしないようだ。
数分その様子を見てから、三人顔を見合わせる。
「解体はそのまま継続だな」
「レティ、こっちで足の確保して」
「ん、準備大丈夫」
棚から足の個数分と予備二枚持って頷く。それを見てから《鎧蟲皇グラン=バルド》を見た。
暴れた足が拘束している杭にぶつかり歪んでいる。今後本体も動く可能性があるのでまずは先に打ち直そうと一度抜くと、血液が流れて作業台を汚していった。
床に流れる血液を水で流していると、外にいる見学者たちが三人の動きに興味を持っている。
「……すごいわね、本当に解体員なのかしら。捕獲武器の正確な使い方や、少しの変化を見抜く目。何より危険だとわかった時の指示や二人の反応速度は、騎士に匹敵するとも劣らないわ」
関心したように声を出すのはヴェルクレアと共にネラフィーネ討伐に向かった隊長レイノルド。
杭を打ち込み解体を再開した三人の様子を食い入るように見ている。
どの魔物も、解体時危険なことが多く、A級以上ともなると、生前の行動に似た動きを取る事も珍しくない。
だから、A級解体師以上はそれなりに対応できるスキルが必要となる。
その為、遅くてもB級になると魔物と応戦する為に体を鍛えるのは勿論様々なスキルや特技を磨いていくのだ。
これが出来なくては、知識や技術があっても昇級出来ない仕様となっている。
それを知らない多くの見学者たちが、生きている魔物と対峙しているような緊迫感を目の当たりにしていた。
騎士たちだって知らない魔物相手に怯むというのに、この三人は時計を見て時間確認をしながらも声を掛け合いタイミングを合わせて解体し、足を切り離していく。
「……解体員って、こんなにすごかったのか」
まだ戦いに躊躇する騎士の一人が、いくら死んでいる魔物とは言え人間より数倍大きな魔物の攻撃を搔い潜りバラしていく姿に、驚愕しかし出来ない。
特に捕縛武器の扱いが苦手なその騎士が、二人の動きに指示を出しながら魔物の状態を確認し、切り離された足が暴れる隙を与えず正確に確保するレティリアの技術に舌を巻いた。
「どうやったらあんな広い視野で動けるんだ……」
まだベテランとは言い難い騎士の力ない声に、ヴェルクレアやレイノルド達が苦笑する。まだ22歳のレティリアが簡単にやってのけるのも、経験を積んでいるからなのだが、この解体だけを切り取ってみたら嫉妬するしかない。
幼いころから包丁を握って魔物を解体し、知識を頭に詰めているなんて、だれもわからないだろう。
少し後ろにいるカイトも目を見開いて見ていた。以前見ていた公開解体ショーよりも動きが激しく騎士に近い動きをする三人に茫然とした。
レティリアは、以前読んだ《鎧蟲皇グラン=バルド》の特記事項を思い出す。死後神経が太く残留魔力で数分間は暴れる。
マギーが脚を一本ずつ切り落とした。それを捕縛武器を投げて球体にすると、熱を持つ断面あ床に触れて焼け焦げた。
どんどんと数を減らしていき、胴体部分うを隠す足がなくなってきたことで真っ白な腹部が少し見える。予想通り、弱点だろう。
振動鋸の音と、甲殻が裂ける鈍い衝撃。
五本目を切り落とした瞬間、腹部側から低い振動が伝わった。それを二人が感じてレティリアへ振り向く。
「内部圧が変わった」
実際に見ているわけではないし、その感覚を体で感じているわけではないから、レティリアにもわからない。とりあえず慎重に足を切り離そうという話になり、二人は火花を散らしながら足に切断していった。
「……どうする」
腹部は、弱点ではあるが、この場所が一番危険でもある。
まだひっくり返していないが、守られていた場所には巨大な中央腹板があるのだ。
最も価値の高い部位だが、最も危険でもある。
脱皮を繰り返した影響で、腹板内部は魔力蓄積層になっている。不用意に開けば、内部圧力で内臓が破裂する可能性が高いのだ。
甲羅はまだ上を向いたまま。
脚を失った今、ようやく本丸へ入れるのだが、危険な行為に変わりはない。
「腹部のところに大きな魔力溜まりがあるから、不用意につつくと内臓破裂すると思う」
「……爆発するな。ここが爆心地かぁ」
はは……と力なく笑うウィリアムにマギーはやめてよと嫌そうに顔を歪めた。
そして、解体にそんな危険が付きまとうのかと見学者たちは怖気付いていた。
「じゃあ、上殻を外すぞ」
今度は外すために大型楔を甲羅の隙間へ打ち込む。隙間に挟みこんで慎重にハンマーを振り下ろすと、薄桃色の殻にひびと火花が走る。
カァンと甲高い音を鳴らすハンマーと杭は少しずつ中に入り込んでいくと、杭が半分ほどになった時、いきなり柔らかくなって一気に刺さった。
それに驚いたマギーが目を見開いてから、ウィリアムを見る。ちょうど対面の場所で同じくハンマーを叩いている。
「ウィリアム。ちょうど杭の半分くらいで中の感覚が変わるわ。かなり柔らかくなってて、同じ力加減だと危ない」
「……なる程」
声をかけられた瞬間に手を止めたウィリアムは慎重にハンマーを叩く。二回あとでそれはやってきて、柔らかな豆腐に杭を刺しているような感じがした。
その感覚を忘れないように、ぐるっと杭を打ち付けて行った二人はギギギ、と嫌な音をたてる。
五十回の脱皮を経て積層した殻が、ゆっくりと軋んだ。最後の楔を打ち込んだ瞬間、ドン!と鈍い音を立てて上殻が持ち上がった。
「開いたな」
体に乗っている状態で、隙間から蒸気のようなものが微かに漏れている。熱を感じるから、外すと熱気が上がることが予想できる。
「外すよ」
「まって、少しだけ冷却する」
カシャカシャと巨大な冷却スプレーを必死にふって、レティリアは空気中に冷却スプレーを振り、魔物の体がびっくりしない程度に室内を冷やして内部の熱を少し取る。
「いいな、よし開けるぞ」
ウィリアムとマギー二人が掛かりでゆっくり上に上げて内部を確認できるまで持ち上げる。
かなり熱を持っているのか、白い蒸気があふれ出し、視界不良になるのを目を細めて見つめた。
室外で見学している人たちは、まだ中の様子を見られていない。
話し声も聞こえないため、何が起きているんだ。もう危なくないなら入っちゃ駄目か? と無責任な会話をしているのをレティリアたちは知らない。
「……ふぅん、綺麗だね」
マギーとウィリアムが見つめている隣にレティリアも飛び乗った。
解体されて哀れな姿になった蟹のような魔物は、外殻を剥がされ横たわっていた。
晒された腹部は、外殻とは違い艶を帯びた柔らかな質感。だが触れればすぐ分かる。この柔らかさは罠だ。
魔力を孕んだ神経束が、腹板の裏に蜘蛛の巣のように張り巡らされている。
「神経束を先に断つ。順番を間違えるなよ」
ウィリアムの静かな声にマギーは頷いた。
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