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第2章
2話 逃亡失敗のち、連行
時間になってレティリアの就業時間が終わった。
足音を鳴らしながらプリプリ怒り狂っている姿に同僚たちは笑って見送る。
「今日、自分から行くと思うか?」
「行かないわね、賭けてもいいわ。おつまみ1袋」
「行かねぇに酒1杯」
「賭けにならないでしょ」
同僚たちは、今出ていったレティリアの可愛い怒り具合に笑う。
治療の為に向かうのは魔物討伐部隊宿舎があり、騎士たちが日々鍛錬する修練場。
そこにいる回復術師であるアレクセイと毎日治療をする為に訪れることを約束されていた。
そのため、最初の2日間はレティリアも大人しく一人で行っていた。
だが、どうにも我慢ならなくて3日目から行かなくなった。
それは、好奇心から集まる視線のせい。
あの広場での見事な解体する姿に、興味を集めてしまったのだ。
その視線がストレスになりボイコットした3日目。
最初予定時間に来ないレティリアを心配して、義兄が発狂し、数人の騎士が探しに外を駆けずり回るといった事件が発生した。
当の本人は頬をリスのように膨らまして食事中だったのだが。
バングルでのお会計が出来ない現金支払いの場所で、パンパンなお財布を持ちながら山盛りの食事を購入し、もきゅもきゅと咀嚼している様子に力が抜けて座り込んだのはヴェルクレア。
そのため、翌日からも当たり前にボイコットするレティリアを、ヴェルクレアがお迎えに来るようになったのだった。
ギルド裏口に出ると、ヴェルクレアが壁に寄りかかっていた。
気づいた瞬間、レティリアは一瞬だけ逃げ道を探したけれど、向こうの視線に気づいて、諦めるように息をついた。
「こぉーら。……また来ないつもりだったでしょ」
腕を組んだヴェルクレアの声は穏やかで、でもちゃんと怒っているのが分かる。
気まずそうに目を逸らすと、ふっと笑う気配がした。
「……ヴェルさん、なんでいつも待ち構えてるの」
「そりゃあ、レティが来ないからだよ」
嫌そうに口を尖らせるレティリアは困った子だと優しく見てくるヴェルクレアを見あげた。
そして、差し出された手に黙って腕を乗せる。
毎日のことだから、もう何も言わなくても分かってる。
「痛みは?」
「今は……無い、かな」
「日中、何回くらい痛んでる?どれくらいの間隔で、どのくらい続く?」
「……んー。一時間に一回か、二回……? あんまり数えてない」
「計ってないのかぁ」
ふむ……と見ているヴェルクレアの、柔らかな雰囲気がほんの一瞬だけ空気感が変わった。
さっ……と、レティリアの背中に腕が回り、体が引き寄せられる。ぐっと抱きしめられたレティリアは何が起こったのか分からないままとっさにしがみついてしまった。
ヴェルクレアの腰に腕を回してしがみついたままキョトンとするレティリア。そのまま支え、ヴェルクレアは誰かの腕をひねり上げた。
「いっ……たぁぁぁ……は、離してぇ……!」
か細い女性の声にヴェルクレアは、ん? と首を傾げる。
殺気は無いものの、突然襲いかかってきたので、レティリアを守るのを優先した。
怪我をしてからでは遅いからだ。
だが、掴んだ腕は予想以上に細く折れそうで、鍛えていない一般人の女性のそれだと悲鳴が上がった瞬間認識した。
「……ちょっ……君だれかな?」
手を離していいのかどうか、レティリアに確認しようとしたら何故か一心不乱に背中や腰を撫でていてヴェルクレアは酷く困惑した。
「………………えーと、レティ?」
レティリアは、服に隠れたむっちりとした筋肉を無断で触りまくっていた。
そんな状況じゃないのに、自分を守るために抱き寄せたヴェルクレアの鍛え抜かれた体は魅力的で、腰に回した腕を離せないでいる。
回復術師であっても戦場を駆け回るのだ。身体能力や危機察知能力は高いし、綺麗に着く筋肉で分かるようにかなり鍛えている。
レティリアが反応する程の好みの体をしている魅力的な筋肉。指先で背筋をなぞった。
襲いかかってきた女性、マリーウェザーと何か話しているのをいい事に、レティリアはヴェルクレアの背中を堪能する。
「…………おーい、レティさん?」
「……はっ!」
意識が戻ってきた。
ふわりと柔らかな生地の、肌触りがいい回復術師専用の服。
その上から、まるで魔物の体を触るように遠慮なく筋肉の付き方や骨の位置などを記憶するように触っていたレティリアは顔を上げた。
「……ギルドの受付の子で……魔物討伐隊の…………何とかって人の幼なじみ……」
「…………あー、うん。そうかぁ」
この微妙な今の状況を、ヴェルクレアはどうしよう……と悩んでいる。
片手で女の子の腕をひねり上げ、片手で女の子を抱きしめる。
その抱きしめられている女の子は、おっさんの身体を撫で回しているのだ。
「……とりあえず、離していいのかな」
いやいや、と首を振るマリーウェザーと、真正面から抱き着いた形で背中を撫でるレティリアという2人の女性にこっそり困惑しながら呟いた。
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