23 / 588
混乱のち唐揚げ
しおりを挟むメディトークの話を聞いた芽依は自分がまさか食べる為の獲物になるとわかりゾクリと身体を震わせた。
セルジオは精霊だしシャルドネは妖精だから疑問や質問を聞くことははばかれるし、不安にかられ相談したくても人間には知られてはいけない内容だからとアリステアに話す事も出来ない。
芽依はメディトークから話を聞いてから何を信じればいいか分からなくなっていた。
あんなに細かく教えてくれていたセルジオは一切対価を請求しない。
それはなんでだろう、どうして優しくしてくれるのだろう。
知らない世界で優しくしてくれた人は芽依にとって極わずかであり、セルジオはその筆頭だ。
シャルドネだって、積極的に話はしないが会ったら世間話はするし優しく微笑んでくれる。
それが嘘なのだろうか、全ては私を食事として見ているからなのだろうか。
「……もうなんだか、わからないな」
優しくガガディの背に櫛を入れて手入れをする芽依は、グルグルと考えていた。
上手く自分の中で消化出来なく体調が悪くなっている気がする。
明らかに気落ちしている芽依を気にしたセルジオが、1日の終わりに部屋にココアを持ってきてくれた日は嬉しいやら不安やらで、喰うためなのか?と邪推してしまった。
そんな日々を数日過ごしていると、メディトークが手に何かを掴み現れた。
『おい、食いどきだぞ』
「わーお、ぐろーい」
絞めた鳥の首を掴みウキウキで言ってきたメディトークに返り血が掛かっている。
しかし、本人はとても満足そうだ。
2人で世話し可愛がった鳥が今にも唐揚げにされようとしている。
「…………ああ、そうか。わかった」
『どうした?』
「今私たちがしてる事と、精霊や妖精とかがしてる事は同じなんだね。世話をして信頼させ近づきいっぱい食べさせて肥えさせて……そして唐揚げ」
『精霊がするのは唐揚げじゃねーけどな』
「じゃあ、私は美味しい所だけ貰う事にする。いっぱい来たらいいよ。貢ぎ物持って来て私の前に来るといい。タダで唐揚げにはならないよ。だって私は食べる側だからね!精霊でも妖精でもなんでも来てみろ!酒の肴にしてやるからな!!」
よし、すっきりしたー!と両手を上げてメディトークが住むには小さめな家に向かっていく芽依を見る。
その小さな体は最初の時のようなハツラツさが戻っていて、メディトークはハハッ!と声を出して笑った。
『精霊を喰う、か。そんなん言うのはお前だけだぞ。そうだな、お前はいつまでもそうやって楽しそうに笑って酒のために生きればいい。そんなお前との時間の為に俺が守ってやるからよ』
「メディさーーん!早く来てー!活きのいい鳥さんの唐揚げ食べようよー!!」
『おー、今行くから待ってろ』
ノシノシと足音を立てて鳥を片手に歩くメディトークはなんの味付けにしようかと料理法を考えていた。
じゅわわわわわわわ…………
黄金色の油の中に味付けされた1口大の肉の塊が入っていってはクルクルと踊っている。
高音に温められた油はキラリと反射して光っていた。
この油はベントーレと呼ばれる丸くフワフワしたピンクの毛玉生物な幻獣が毎日小さな手で作る最高級品質な油らしく、前日の鳥の様子を見たメディトークがいそいそと買いに行ってきたらしい。
ここから乳製品や卵以外の商品の誕生である。
「メディさん、出荷はいいんですか?食べちゃっていいんですか?……いい匂い、ジュウジュウ食欲をそそる音に涎が止まらんよぉ」
『口拭け。まずは試食して品質確認からだ、いつもしてるだろーが』
「楽しみすぎて吹っ飛んでた」
揚げたての肉をバットに上げたメディトークの隣でじっと見ているが、2度揚げだから待てとまだお許しはでない。
見るからにカリッカリな唐揚げに食テロ……と呟いた芽依はすぐにお皿や箸の用意をすると、メディトークに言われ冷蔵庫を開ける。
「っあああああぁぁぁ!!お酒さまぁあ!こんな所に隠れていらっしゃったんですねぇぇぇ!!」
冷蔵庫の前に座り込み震える手でお酒が入った瓶を握りしめると、キンキンに冷えている。
『ぬるくなるから2本だけにしろよ』
全て揚げ終わったメディトークは栓抜きと冷凍庫から冷えたグラスを2個取り出し、それを見た芽依はいそいそと唐揚げが乗ってるテーブルに行ってワクワクと栓抜きで開けられるビール瓶を眺めていた。
「うわわわわ!たまらん!」
極限まで冷えて曇っているグラスに冷えたお酒が注がれ小麦色の液体の上に真っ白な泡が溢れるギリギリまでくると瓶は離れていった。
「………………まさか、ビール?」
『これはエピリだ、飲んでみろ』
「……どうしよう、美味しすぎる……」
味が正しくビールだった。
あのこちらに来る時に飲もうとしていた缶ビールよりも味わい深い瓶ビールの懐かしい香りと味に芽依はホロリと涙を流した。
『……どうした』
「大好きなお酒の味がする」
『そうか。これからもコイツは何時でも飲めるからよ、笑って飲もうや』
「……うん!」
涙を拭いもう一度ぐいっ!と飲む芽依を見るメディトークは口にコップを持っていきながらニヤリと満足そうに笑った。
『唐揚げも食えよ』
「うまぁ!……たまらん、唐揚げにビールとか神か」
無事胃袋を掴まれた芽依は素晴らしいメディトークの昼食に舌鼓を打ったのだった。
「と言うことで、出荷準備が出来た鶏肉で作ったメディさん作の唐揚げです。もも肉とムネ肉の2種類」
夕食の食卓にドドーンと乗った2種類の唐揚げの量にアリステアとセルジオ、シャルドネの手が止まった。
「これはこれは、凄い量ですね」
「試食や味付け、柔らかさなんかの試作で大量に作っちゃいまして。これも味が2種類ずつありますよ」
「そうか、鶏肉が出荷出来そうなのか」
アリステアのホッとしたような様子に芽依は首を傾げながらも頷く。
「そうですね、毎日沢山は数的に難しいんだけど、雌鳥を追加しながらお安め雄鳥も多量買い付けして飼育中なので後々数増える予定です。品質も良いみたいでメディさんのお墨付きですよ!」
美味しいから食べてみてくだかい、と唐揚げをすすめる芽依にセルジオは箸を伸ばした。
「……ほぉ、美味いな。味付けも中々だ」
そうしてまた料理評論家となったセルジオは全ての味を1つずつ味見してはスパイスや揚げ方なども考察しているのだが、セルジオは料理を作るのだろうか?と首を傾げた。
79
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる