1 / 4
私はお布団バース
しおりを挟むガタンガタン……ガタンガタン……
学校が終わり帰宅時間。いつもの様に電車に揺られるのは何処にでもいる平凡な女子高生、松浪 椛。
今日は体育があったから、余計に疲れて電車の揺れに眠気を誘う。
(……眠たい。でも、まだあと6駅……遠いなぁぁ)
はぁ……と思わずため息を吐いた。
満員電車で座れるはずがなく、椛は端の方で押し潰されないように耐えていると、ふわりと甘く落ち着く香りがした。
それは、後ろに立つ人の香りで椛の体が熱を持つ。
背中に感じるその人の体温に、鞄を持つ手が勝手に力む。
(ひ……ひぇ)
後ろは騒がしい男女の声。
チラッ……と見ると、予想通りのクラスメイトが6人いた。
かっこいい人や可愛い人、綺麗な人などが集まって出来た集団で、地味で平凡な椛には同じクラスメイトだとしても話す機会はない。
だというのに。
「……っ!」
背中側から指先が足を撫でる。
人が沢山いて揉みくしゃになる小柄な椛は、足を優しく指先で撫でられても誰にも気付いて貰えない。
窓から外を見ている椛はギュッ……と体に力を入れた。
寄りかかるように椛の背中にクラスメイトの背中が触れ合っていて、気付かれないように注意しながらクラスメイトの指先が後ろ手に椛の内側の太ももを撫でる。
足に力を入れてその手を掴むと、何故か指を絡めて握られるのもいつもの事。
握ったまま椛の足にただ触れているのだ。
(なんなの?! なんで?! 何でいつも手を握るの?! その前に、痴漢だよね?! ち、ちかんだよ?! わかってるんですかー!!)
そんな荒ぶる心など知らない絶賛痴漢中のクラスメイトは楽しそうに友達と話をしている。
「ねぇ啓、明日カラオケ行こうよ」
女子の声に、椛の手を握る指先に力が入る。
親指で手の甲を優しく撫でながら、悩む素振りを見せた。
「…………ん、どうするかな」
「いいじゃん、行こうよ」
「…………んー」
きゅっ……と、また力が入る。
そして指が離れたと思ったら、スカートの中に手が入ってきて、いつもよりも上の方に手が上がってきた。
慌ててスカートの上からその手を掴むと、小さく笑う気配がある。
「啓?」
「そうだな、たまにはクラスのヤツらも呼ぶ?」
「え? ……私は啓がいれば要らないんだけどな」
体を寄せてくる女子の肩を掴んで引き離した啓は、不機嫌そうに「近い……」と文句を言う。
(近いから、あなたも離れた方がいいと思うんだがー?!)
ひぇん! と泣き言を言いたくなる椛は、必死にクラスメイトである秋月啓の手を下に下げようとしていた。
細い椛の足を片手でがっしりと掴んで、柔らかく揉み込む啓の手を押すが、まったく動かない。
ペチペチと軽く叩くと、笑ってるのか触れる背中が揺れて伝えてくる。
不思議なことに、こういった啓からのセクハラは毎日帰宅時に行われるのだが、不快感がない。
人目があるから離してと抵抗するが、人目がなかったらそのまま身を委ねてしまいそうなのだ。
これは、バース性に由来するものだと分かっている。
この世界には、第三の性別がある。
思春期に発現する男女の性ではないものだ。
α、β、Ωといったポピュラーなものが普通だが、どうやらそれだけではない。
ヒートだけが強く作用するヒートバースなんてなった人はもう、地獄だろうし、ケモノバースや獣化バースなどもある。
どの性も、強い欲を掻き立てて我慢が出来ないバースばかりだが、その中でも椛が授かったバースは穏やかなものだった。
布団バース。
バース性はまだまだ新たな発見があって、全てが解明されていない。
その中で、まだ新種のうちに入る布団バース。
どうやら強い性を求めるよりも安らぎを求めるもので、椛も元々強い性欲はない。
暖かな布団に包まれるのを至高の幸せと感じるのは、布団バースの敷布団だからだろう。
(そう、私は敷布団。寝るのが1番の幸せ…………なのに)
なのに、椛はこの手を心地よいと思ってしまっている。
暖かく大きな手が椛を撫でる度に、ふわふわした心地を感じてしまうのだ。
(気持ちいい)
モチモチと足を揉まれる度に、啓の手を抑えていたはずの椛の手から力が抜ける。
次第に体が傾き、椛は啓の背中に寄りかかると、足を撫でていた手が離れて、また椛の手を握った。
優しく撫でる親指にうっとりする頃、ゆっくりと手がはなされる。
思わず振り向くと、啓達が降りる駅に付いていて、小さく「あ……」と声が漏れる。
「あれ、松浪さん? 乗ってたんだ!」
「あ、はい……」
「また明日ね」
バイバイ、と手を振る金髪のクラスメイト山下乙葉は弾ける笑顔を浮かべて電車を降りた。
ゾロゾロと降りていく後ろ姿を見て、思わず「ぎゃるぅ……」と呟くと、小さな笑い声が隣から聞こえる。
顔を向けると、口元を腕で隠して笑う啓が椛を見ていた。
「あ……」
「また明日な」
「う、うん」
優しく笑う啓が電車を降りて、全員で歩いていくのを見送った。 きっと、どこかに行くのだろう。
それより椛は、今の出来事に心臓をバクバクと高鳴らせていた。
既に痴漢行為が始まって3ヶ月たつ。
クラスメイトがすぐそばにいるのに、啓は必ず椛を見つけて、背中合わせに体を合わせて足や腕、手を触る。
向き的に不自然にならないように触れる場所は限定しているが、2人の接触はここだけで、顔を見合わすのも言葉を交わすのも、椛は初めてだった。
32
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
【完結】遅いのですなにもかも
砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。
王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。
数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。
結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。
四季
恋愛
結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる