[完結]お布団バースはだっこして期。

くみたろう

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私はお布団バース

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 ガタンガタン……ガタンガタン……

 学校が終わり帰宅時間。いつもの様に電車に揺られるのは何処にでもいる平凡な女子高生、松浪 椛。
 今日は体育があったから、余計に疲れて電車の揺れに眠気を誘う。

 (……眠たい。でも、まだあと6駅……遠いなぁぁ)

 はぁ……と思わずため息を吐いた。
 満員電車で座れるはずがなく、椛は端の方で押し潰されないように耐えていると、ふわりと甘く落ち着く香りがした。
 それは、後ろに立つ人の香りで椛の体が熱を持つ。
 背中に感じるその人の体温に、鞄を持つ手が勝手に力む。
 
 (ひ……ひぇ)

 後ろは騒がしい男女の声。
 チラッ……と見ると、予想通りのクラスメイトが6人いた。
 かっこいい人や可愛い人、綺麗な人などが集まって出来た集団で、地味で平凡な椛には同じクラスメイトだとしても話す機会はない。 
   
 だというのに。


「……っ!」

 背中側から指先が足を撫でる。
 人が沢山いて揉みくしゃになる小柄な椛は、足を優しく指先で撫でられても誰にも気付いて貰えない。
 窓から外を見ている椛はギュッ……と体に力を入れた。
 
 寄りかかるように椛の背中にクラスメイトの背中が触れ合っていて、気付かれないように注意しながらクラスメイトの指先が後ろ手に椛の内側の太ももを撫でる。

 足に力を入れてその手を掴むと、何故か指を絡めて握られるのもいつもの事。
 握ったまま椛の足にただ触れているのだ。

 (なんなの?! なんで?! 何でいつも手を握るの?! その前に、痴漢だよね?! ち、ちかんだよ?! わかってるんですかー!!)

 そんな荒ぶる心など知らない絶賛痴漢中のクラスメイトは楽しそうに友達と話をしている。

「ねぇ啓、明日カラオケ行こうよ」

 女子の声に、椛の手を握る指先に力が入る。
 親指で手の甲を優しく撫でながら、悩む素振りを見せた。

「…………ん、どうするかな」

「いいじゃん、行こうよ」

「…………んー」

 きゅっ……と、また力が入る。
 そして指が離れたと思ったら、スカートの中に手が入ってきて、いつもよりも上の方に手が上がってきた。
 慌ててスカートの上からその手を掴むと、小さく笑う気配がある。

「啓?」

「そうだな、たまにはクラスのヤツらも呼ぶ?」

「え? ……私は啓がいれば要らないんだけどな」

 体を寄せてくる女子の肩を掴んで引き離した啓は、不機嫌そうに「近い……」と文句を言う。

 (近いから、あなたも離れた方がいいと思うんだがー?!)

 ひぇん! と泣き言を言いたくなる椛は、必死にクラスメイトである秋月啓の手を下に下げようとしていた。
 
 細い椛の足を片手でがっしりと掴んで、柔らかく揉み込む啓の手を押すが、まったく動かない。
 ペチペチと軽く叩くと、笑ってるのか触れる背中が揺れて伝えてくる。

 不思議なことに、こういった啓からのセクハラは毎日帰宅時に行われるのだが、不快感がない。
 人目があるから離してと抵抗するが、人目がなかったらそのまま身を委ねてしまいそうなのだ。

 これは、バース性に由来するものだと分かっている。

 この世界には、第三の性別がある。
 思春期に発現する男女の性ではないものだ。
 ‪α‬、β、Ωといったポピュラーなものが普通だが、どうやらそれだけではない。
 ヒートだけが強く作用するヒートバースなんてなった人はもう、地獄だろうし、ケモノバースや獣化バースなどもある。
 どの性も、強い欲を掻き立てて我慢が出来ないバースばかりだが、その中でも椛が授かったバースは穏やかなものだった。


 
 布団バース。


  
 バース性はまだまだ新たな発見があって、全てが解明されていない。
 その中で、まだ新種のうちに入る布団バース。
 どうやら強い性を求めるよりも安らぎを求めるもので、椛も元々強い性欲はない。

 暖かな布団に包まれるのを至高の幸せと感じるのは、布団バースの敷布団だからだろう。

 (そう、私は敷布団。寝るのが1番の幸せ…………なのに)

 なのに、椛はこの手を心地よいと思ってしまっている。
 暖かく大きな手が椛を撫でる度に、ふわふわした心地を感じてしまうのだ。

 (気持ちいい)

 モチモチと足を揉まれる度に、啓の手を抑えていたはずの椛の手から力が抜ける。
 次第に体が傾き、椛は啓の背中に寄りかかると、足を撫でていた手が離れて、また椛の手を握った。

 優しく撫でる親指にうっとりする頃、ゆっくりと手がはなされる。
 思わず振り向くと、啓達が降りる駅に付いていて、小さく「あ……」と声が漏れる。

「あれ、松浪さん? 乗ってたんだ!」

「あ、はい……」

「また明日ね」

 バイバイ、と手を振る金髪のクラスメイト山下乙葉は弾ける笑顔を浮かべて電車を降りた。
 ゾロゾロと降りていく後ろ姿を見て、思わず「ぎゃるぅ……」と呟くと、小さな笑い声が隣から聞こえる。
 顔を向けると、口元を腕で隠して笑う啓が椛を見ていた。

「あ……」

「また明日な」

「う、うん」

 優しく笑う啓が電車を降りて、全員で歩いていくのを見送った。  きっと、どこかに行くのだろう。

 それより椛は、今の出来事に心臓をバクバクと高鳴らせていた。
 既に痴漢行為が始まって3ヶ月たつ。
 クラスメイトがすぐそばにいるのに、啓は必ず椛を見つけて、背中合わせに体を合わせて足や腕、手を触る。
 
 向き的に不自然にならないように触れる場所は限定しているが、2人の接触はここだけで、顔を見合わすのも言葉を交わすのも、椛は初めてだった。
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