[完結]お布団バースはだっこして期。

くみたろう

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私はお布団バース 3

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 4時間目が終わって昼休憩に入り、椛は椅子の背もたれに体を預けて息を吐いた。
 ぼんやりと天井を眺めていると、いつも一緒に食べる友達二人がお弁当を持ってくる。

「椛、お昼だよ?」

「今日は朝からずっとボーッとしてるね」

 机を近付けて椅子を引きずる2人に顔を向けると、その先には啓や、その友達がいる。
 啓が、ふと椛に気付いた。 口の端を上げて笑い、頬杖を付く啓に分かりやすく心臓が跳ね上がると、楽しそうに笑う女子が啓の腕に触れる。
 それを見た椛は、ざわっ……と震えた。

 
 (それは私のお布団なんだから、触らないで!!)


 衝動が湧き上がった。危なく叫びそうになった。 この教室内で、クラスで人気なイケメン、秋月啓を、独占欲で縛り付ける言葉を発する所だったと、バクバクする胸を抑える。
 しかも、その理由が最低すぎたと身悶える。

「私のお布団って…………いやだぁぁぁ」

 ゴン! と机に頭を打ち付ける椛は、ぐちゃぐちゃとかき乱される胸の内に泣きそうになった。
 これはない……と内心悶絶している椛を、また小さく笑いながら啓が見ている。

「けーい、さっきから何見てるの?」

「いや、なんでもない」

「えー」

 椅子に座る啓の隣に来たのは、昨日の電車でも啓に近付いていた狭山明穂。
 見るからに啓が好きで、ボディータッチ多めに接近中。
 見た目よし、何をしても優秀な成績を取る啓は、どのバースか分からないが明らかに‪α‬なのはわかる。 明穂はΩで、余計に‪α‬性の啓に惹かれていた。 

「明穂ちゃーん! なぁなぁ、これどうよ?」

「えぇ? …………んー」

 あからさまに顔を歪めて、呼んだ男子を見る明穂。  見た目が可愛い為男子ウケはいいが、明穂は興味が無い。
 明穂は啓のそばにいたいからこのグループにいる。 だから、他の興味が無い男子に分かりやすく冷たいのだ。
 そんな明穂に、乙葉はなんとも言えない顔をしていた。

「グループ内は仲良くやろうよー」

 だが、乙葉も困ったように笑うくらいで深い付き合いはしない。
 それくらい同じグループにいても、明穂は啓とその他を分けて見ている為、心の距離がある。
 そんな乙葉と机から顔を上げた椛の目が合った。  一気に見開かれる乙葉の目。

「ちょっ……松浪さん?! 顔真っ赤だよ?! 大丈夫?」

 慌てて近付いてきた乙葉が、椛の頬に両手を当てた。
 いつもより火照っている自覚はあるが、色々考えすぎた知恵熱だろうと、少しトロンとしている目で乙葉を見る。

「…………大丈夫」

「本当に?! え、保健室行く? 行く?」

「…………いかない、よ」

「……そう? 大丈夫??」

「うん」

 ぼんやりとする頭を振って、霧がかかったような思考の中、頷いた。
 友達は、そんな椛の様子よりも突然現れた乙葉に興味津々であった。


 こうして、まだぼんやりとしながら5時限目が終わり、今日の授業はここまで。
 昨日言っていたクラスメイトみんなでカラオケに行く話は本気だったのか、皆でカラオケだー! と騒いでいるクラスメイトに流されるように、大半がカラオケに向かっていった。

 それは、椛と友人2人もで。  ちょっとテンションが高い友人2人はキャッキャと嬉しそうに笑っている。
 自分達からはあまり話しかけられない啓グループと遊べる、普段にはない日常に興奮しているようだ。

「椛、なにか歌う?」

「椛歌うまいしね」

 そんな2人のヒソヒソした声がカラオケの大部屋の端で繰り広げられてた。
 楽しそうに話をしている人達がいる中、啓は相変わらず沢山の人に囲まれている。

 ぼんやりとその様子を見ている椛は、気に入らない……と目を据わらせていた。
 私のお布団なのに……といった欲求が強く、不機嫌を隠せない椛に、友人2人は気付き首を傾げる。

「椛? どうしたの?」

「顔、赤いよ?」

 朝から感じている熱は、未だに椛の体内に残っていた。 椛の中にある抗いようもない熱はヒートだと今ではわかっている。
 本当なら、今すぐにでも帰らないといけない。
 お布団バースの性に対する感情は低いとはいえある。 だがなにより、椛を支配する感情に振り回されていた。

 (…………なんで、抱きしめてくれないの)

 その感情が強い。 だから、欲望に負けてこんな所にまで着いてきたのだ。
 なのに、肝心の啓は周りに囲まれている。

 グズグズと泣きそうになり俯くと、ドクン! と心臓が高なった。

 
 (ああ……まずい。クラスメイトがいるのに。ダメなのに……)

 
 立ち上がった椛は、フラフラと啓の方に歩いていく。涙目で眉をしかめ、下唇を噛む椛に、また乙葉が声を上げた。 
 
 
「わっ! かわい……いや、違った!えっ、うん! 可愛いね?!」

 ちょっとパニックになりながら言う乙葉に、クラスメイトの視線を集めた。
 
 いつも地味な椛が、妙な色気を放っている。

 それを見た啓が立ち上がり、2人に近づく。

「大丈夫? …………ん、軽いヒートか?」

 乙葉の手を避けて頬を触る啓にクラスメイト達は目を丸くした。
 自分から女子に触った?! と、どよめきが起きる中、乙葉は少し遅れてヒート?! と声を上げる。

「……登校中に電車でヒート事故が起きたんだよ。近くにいたから……今日1日ずっとこうだったのか?」

 緩く首を横に振る椛の手を優しく握る啓。
 話しているところ等見たこと無かった2人の何故か親密な雰囲気に、全員が静まり返って見ていた。
 ただ、カラオケの曲だけが大きな音で流れている。

「ヒート事故、しかも電車って……大変だったねぇぇぇぇ」

 まさか人がいっぱいいる密室でヒート事故なんてぇ……と、乙葉が身体を震わせる、絶望にも似た声で話をする。
 それから色んなところで、電車でのヒート事故はキツイな……なんて囁きが漏れ聞こえた。
 少し慌てながら乙葉は、椛の鞄を漁り出す。

「ごめんね、 鞄見るよ。薬あるかな~?」

 えーと……と見ながらピルケースを探している乙葉に目もくれず、椛は啓を見る。

「………………だっこ」

「ん?」

「だっこして、お願い」

 両手を広げてお強請りする椛に、ぐらりと啓の理性が揺れた。
 
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