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第1章 はじめまして幻想郷

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1人になったスイは、さて、どうしたらいいのか
と悩まされる。
特にどこへ行け、何をしろなどの指示がないため何をすればいいか分からないのだ。

メインクエストと先程出たが、それでどうすれと?状態である。

このゲームでプレイヤーの探索クエストが始まった時に必ずしなければいけないことがあった。
それは、職業に合った武器を手に入れること。
ゲーム開始時に持っているものは、初期装備に短剣、小さな道具袋に現金と少量の回復薬である。
これは、公式サイトにも乗っていて推奨している最初の行動であった。
もちろん、公式サイトなんて見ないスイはそんなこと知らない。
うむむ……と悩んでからとりあえず歩こう!と食事を取った露店から離れたのだった。



武器屋などが立ち並ぶ店の前を歩く。
民家は無いんだな、違う所かな?
キョロキョロ見ている時だった。
音符が書かれた看板に楽器屋と書かれている。


「あ、楽器だ…」


店先に並ぶギターなどの楽器類。種類も豊富でそれを見つめてから、この街にも楽器があるのか、むしろこの世界に音楽があるのかとスイはちょっと感動していた。
趣味ではあるがヴァイオリンを小さな頃から弾いていたのだ。
ふらりと店先に入るとそこには様々な楽器が並んでいる。


「ギターにドラム、フルートピッコロ、トロンボーンにトランペット、あ、ホルンもある。」

所狭しと飾られる楽器達にスイは無意識に微笑んでいた。
室内は落ち着いた雰囲気でゆっくりと見ることが出来そうと、 この店自体を気に入ったスイは、 店の中を見てまわる。
そんなスイを奥に居た店員が気付き出てきた。

「おぅ、いらっしゃい。珍しいな楽器が気になるのか?」

40代くらいだろうか、青い表示で頭上に店主となっている。
プレイヤーではないようだ。

「あ、はい。好きです」

「おー、趣味か?それとも奏者か?」

「趣味で……」

スイの横に立って聞いてきた店主にスイは趣味ですと言おうとした。
そして、思いとどまる。
今言われた奏者、それは職業を決める時にナビゲーターに言ったのと一緒ではないだろうか。

自分のプロフィールを出すと、名前の横には職業奏者の字が。

完全サポート職、そして、その職業の武器が楽器であることがスイには決め手になっていたのだった。

「………あ、奏者っぽい」

「お!?奏者か!?珍しいな!いや、いい事だいい事だ!しかし、奏者っぽいってなんだ!」

スイの背中を叩いて嬉しそうに話す店主にスイは思わずむせこんだ。
最初は微妙なスイの言葉にどっちだ?と言う顔をしていたが、結果とても嬉しそうに笑っている。

「いや、実はよ俺も奏者なんだがな。でもこの職は不人気だろー?奏者にあったのも久々だわ」

はっはっはっ!と笑う店主にスイは乾いた笑みを浮かべた。
不人気って………

「で?楽器が欲しいのか?見た感じもってないもんな」

椅子に座ってそう言う店主に、武器がなくては困るんだろうか、と曖昧に頷く。
よしよし。と頷く店主は再度立ち上がり説明を始めた。

「ここらは全体的に軽いヤツだな、持ち運びも便利だし戦闘中の行動もしやすい。ただし響きは小さいからな注意だ。」

「ここらはまあまあな大きさ、止まって弾くことも動く事も出来てそれなりに響く」

「で、ここらは大物だな。動く事は難しいが、その分響きは断然いい。後方からの支援が出来るが攻撃されても逃げることも出来ないからデメリットも多いな」


…………言ってる事の半分も理解出来なかった。



ん?と首を傾げて聞く店主に、スイも同じく首を傾げていた。






「そうか、奏者初心者だったか。じゃわかんねーよな」

はっはっはっ!と笑いながら頭を掻くその人はサーヴァと名乗った。
豪快な人だが、とても親切なのはよく分かる。

「まぁ、数少ない同じ奏者だ。お前が望むなら奏者とは何なのか教えてやらんこともないぞ。どうする?」

[突発クエスト・奏者の心得1が始まります]

突如として始まったクエスト開始の合図に、迷いながらもはいを押した。

「おーし、じゃ奏者とは何たるかを教えてやるよ」

「お願いします」


「奏者はまぁ、簡単に言ったらサポート職にはいる。おい、バフデバフってのはわかるか?」

「わかりません」

ふるふると首を横に振りすぐ答えると、サーヴァは頷き立ち上がった。
そして、カウンターから何かを持ってきた。

「こいつは笛って名前の楽器だ。1番小さなサイズだな。同じ楽器でも大きさから性能様々なやつがある。覚えとけー」

そう言ってサーヴァは笛を吹く準備を始めた。

「まずは、バフだ。」

それだけ言ってから奏でた音は優しいメロディだった。
暫くして口を離したサーヴァは、スイにステータスを見るようにいう。
言われた通りにステータスを見ると、そこには明らかな違いがあった。


「………あれ?」

スイのステータス、体力の最大値が増えていた。
表示は最大値の数字の色が黄色に変わっていて、下にプラス値が書いてあった。

「これがバフだ。ステータスを上げたい対象をロックして音楽を奏でる。それを聞いた人は限定で指示したステータスが上昇する。もちろん、自分自身も含まれるぞ。」

最大体力が30増えていた。
たった数秒音楽を奏でただけでだ。

「あとデバフはバフの逆、最大値を下げる。これは敵を周囲ロックして音楽を奏でればOKだ。」

「凄いんですね…」

「まぁな、奏者は皆が思う以上に奥が深いぞ!」

満足そうに笑うサーヴァはその瞬間眉をひそめた

「まぁ、周りからは不人気だがなー」

「なぜですか?」

「奏者の能力と武器である楽器がなぁ、もう少し使い勝手が良かったらなぁ………奏者の能力はな、音だ。音楽だからな。音を聴かなくちゃならねぇ」

頷き先を促すと、サーヴァからは奏者の決定的な欠点を突きつけられた。

「楽器の音ってのはよ、届く範囲があるだろ?小さなサイズだと、音が響かねぇんだ。しかも命を掛けた戦闘中だ、 誰だって音楽に耳を傾ける余裕なんてねぇわな。」

どんなに音楽を奏でてもよ、 聴いてないんじゃ意味がねぇ。
それに、 完全サポートな奏者は基本攻撃はできねぇからな。
まぁ、 お荷物扱いもいいところさ。


苦笑しながら言うサーヴァに困ったように首を傾げた。
これが、 奏者が地雷職と呼ばれる由縁だった。
また、 奏者が使う楽器にも問題があった。

小さなサイズの楽器は響かない変わりに小回りがきく。すなわち、ステータスを上げたい人の側に寄り添い奏でるのだ。
しかし、それが前線だったら?バフ効果の必要な前線に出て立ち回りもわからないままただ邪魔になる。
これではパーティ全員を危険に晒す。

じゃ、中距離では?
立ち回りもそれなりに出来てなかなか響く楽器。
中間に立ち前衛後衛のサポートも可能。
しかし、広いフィールドだったり仲間が離れすぎている時は全然使えない。
まだ、奏者として1番使えるタイプではあるが。

最後に後衛
持って動くのも出来ないくらい大きな楽器、地面に置いて使うものだ。
その分広範囲に響かせられるため、後方からの支援が十分に出来る。
しかし、武器を持って動けず1回1回武器解除が必要になる。
ロスが出来るのだ。
前衛の敵が突破されたら?魔法攻撃を受けたら?弓や銃で攻撃されたら?
ひとたまりもないのだ。

一長一短。
むしろ、悪い事ばかりが目立つ奏者はなる者も仲間にするパーティもほぼいないだろう。

「そう……なんですか」

力なく言ったスイに、サーヴァは深く頷く。

「しかもなぁ………」

「(まだあるの!?)」

続きを話そうとするサーヴァにスイはげんなりする。
そんなにやる気はなかった、確かになかったのだ。
でも、少しだけこの世界に触れてリィンにもあった。
ちょっとだけ頑張ってみようかと思った矢先のこの話だ。
だが、スイは気づいていない。
このクエストがゲーム開始1ヶ月以上立つのに誰も立ち上げることの出来なかったクエストだということを。
職業クエストは、かなりの低確率で発動する。
店で行われる会話の選択や、 キーポイントを上手くしないとこのクエストは始まることすらないことをスイは知らない。
クエストが開始されても、その受け答えが上手くいかないと直ぐに失敗する可能性もある。
その職業クエストをする相手の好感度が下がったらその瞬間にもクエストは終了だし、 なにより全ての店員が対象ではない。

かなりの奇跡的な偶然が重なりクエストを行っていることを、スイはまだ知らなかった。

「どんな武器や防具にも耐久値ってもんがあるだろ?」

「耐久値……?」

「おー、あ、その服はなんでか知らんが耐久値ないもんな。これ、見てみろ」

「服?」

差し出されたのは先程奏でた笛だった。
手に持ちマジマジと笛を見ると、笛とだけ書かれたその楽器がサーヴァの笛と変換された。
そしてその下に書かれた耐久値100をマックスにして、今は80となっていた。

「耐久値80?」

「そ、それがこの笛の寿命だ。」

「寿命!?」

笛から顔を上げてサーヴァを見ると、一瞬驚いた顔をしたあとニヤリと笑った。

「どのやつにも耐久値はあってな、0になるとそれは負荷がかかりすぎて壊れちまう。
武器も防具もな。」

「嫌です!楽器を壊すなんて、冗談じゃない!!」

叫ぶように言ったスイに、 サーヴァは嬉しそうに、 しかしニヤリと笑った。
楽器を大事にする奴は好きだぞ。
満足そうに言ったサーヴァは、 続きを口にした。

「そこでだ、 武器防具救済として耐久値復活、 上昇ってのがある」

「どうするんですか」

食い気味に聞いてきたスイに、 サーヴァはくっ!と喉を鳴らして笑った

「簡単なことさ、この世界にいる楽器屋、 防具屋、 武器屋に依頼して渡せばいい」

「……渡したくない時は?」

「そらぁ…武器とかを諦めて次を買うしかねぇな。実際違う武器のがいい性能の時もある」

「そんなのいや。」

「いやって、 お前…」

スイの頑なな様子に呆れるサーヴァ。
自分で耐久値をなおす方法はどうすればいい?と聞くとサーヴァは険しい顔をした。

「そりゃーお前無理って話だよ。」


そう言ったサーヴァの前に浮かび上がる。

[耐久値復活、向上スキルへの説得を開始しますか?]

すぐにはいを押したスイに、サーヴァは困ったように笑った。

「これはなぁ、 店を持つ店主のみが使えるやつなんだよ。伝承させていくもんでなぁ、 簡単には渡してやれん」

「でも、 私は自分の楽器は大事にしたい。人に渡すんじゃなくて自分の手でメンテナンスして使っていきたい。」

『お願い、 私にその方法を教えて下さい』

じっと見て言ったスイの前に浮かぶ文字

[説得に成功しました。派生クエスト耐久値復活、向上を開始しますか?]

はい。

[スキル・魅了を手に入れた]

なにそれ。



サーヴァは困ったように笑ってから頭を項垂れた。
そしてスイの希望の言葉をもぎ取ったのだった。




[スキル・耐久値復活、向上を手に入れた]
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