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第1章 はじめまして幻想郷

ただいま現実世界

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ゆっくりと目を開けた翠は頭にかぶったVRを外して体を起こした。
小さく息を吐いて伸びをした後、ゲームのケースを手に取る。
ついさっきまで見ていた噴水広場が描かれていて、確かにさっきまで翠はここにいた。


「凄いな、ゲームって。」


初めて体験したゲームの世界。
なるほど、 これはハマる人が沢山いるのもわかる。
現実に近い風景、 味覚も同じくあって。
まだ翠が見ていない、体験していない冒険はまだまだあるのだろう。
ただ、 何事も限度はあるからゲームにのめり込み過ぎるのもな、とどこか冷静な自分もいた。

ケースを置いて携帯を取ると、そこには着信とLINEの未読メッセージがたっぷりと溜まっている。
ギョッとして確認すると、一気にシラケてしまった。

ごめん
一緒にゲームしたかったんだ
もう1回やりなおそう
なぁ、連絡くれよ

そんな内容が延々と着ていたが、12時半を境にピタリと止まっていた。
Anotherfantasiaのメンテナンス、アップデートが終わった時間だろうか。
なんてわかりやすい。
ゲームが始まった途端に元、ではあるが彼女を放置でゲームを始める彼氏。

「なんてクズ。男運ないのかなぁ」

思わず吐き出して、すぐに画面をホームに戻した。
そして少し考えた後にある公式サイトを開く。
もちろん、Anotherfantasiaだ。

正直、システムとかよく分かっていない。
だから、ちょっとだけ見てみよう。
基本のお勉強だ。







Anotherfantasia
もう一つの仮想現実で生きる世界に溶け込み、創造主天帝様の御使い様としてこの世界に降り立つのがこのゲームのスタートらしい。
決められたシナリオとかは無くてそれぞれで目的や目標を作り現実では出来ない生活を自分で選択する。
無限に広がる広大な世界で生きていくのを、推参しているようだ。

始まりは街の噴水。ここは設定が何もされていなかったらログイン時にその場所に現れる事になっている。

これは、街中限定である。
もし、 フィールドに出ていた時にログアウトした場合は、その場にゲーム内での自分の体を置き去りする事になる為、確実に死に戻りが確定する。
必ず街中に戻るか、セーフティエリアまで行く。
もしくは、テントなどフィールドで使えるセーフティエリアを作り出すアイテムを使う必要がある。

プレイヤーの名前の表示は緑、ゲームの中に存在する人達は青。
そして敵は赤に表示されるようだ。

「だから、最初にあった女の子やサーヴァさんは名前青だったんだ………ゲームの登場人物……信じられない」

まるで私たちと変わらなかった。
クエストと表示はあったが、言動も何もかも違和感なんてなかったのだ。
こんなにも現実と同じなんて………首を振って続きに目を通す。

街中での武器の携帯は違反行為になり、警備員に捕まる………

え?

「は、犯罪とかもあるんだ……」

その為、常にプレイヤーは武器を解除している。解除すると、武器自体は持っているが使えない、 又は完全に仕舞うかの選択をする。
持っている場合は、 武器のどこか見やすいところに解除時の刻印が現れる。
いわゆる、 オブジェクト化するのだ。
しかし、 重量は変わらない為、あの時楽器を持っていたスイを周りは驚いて見ていたのだ。

「…かさばるし、 次からは楽器は持たないことにしよ…」


楽器と僧侶の杖だけは街中で装備していても捕まらないものだった。殺傷能力がないからだ。

他にも窃盗やセクハラ対策など様々な違反行為があり、見つけ次第警備員に捕まる。
その際プレイヤーはペナルティがある。
牢屋システムがあって決められたゲーム時間を拘束されたり、罰金扱いなど様々だ。
もちろん、殺人の罪は重罪である。

「なんてリアル」

思わず苦笑が漏れた。でもあれだけリアルに作られているからこそ違和感なんてないなぁ。と頷いた

ゲーム自体は協力ゲームの推しが強い。
職業毎に振り分けられる能力値はソロ向けでないものも多いし、パーティに欠かせない職業もある。
集まれば何倍にも跳ね上がる火力だが、いかんせんチームプレイ。
人同士が集まればいざこざも起こるもの。
どううまく付き合うかも、このゲームの醍醐味だろう。

そして、死亡時に発生するペナルティ

「死亡………」

そっと指でなぞる死亡の文字。
ペナルティは残金の1割とアイテムのランダムロスト
目覚めたら全てのステータスの最大値の減少で、これは道具やスキルを使っても、その期間の最大値のアップは出来ないことになっている。
現実世界では半日、Anotherfantasiaの世界では1日以上ステータスの減少がある。


…………………ん?
Anotherfantasiaの世界では1日以上?

どうやら、現実とゲームの時間経過は同じではないらしい。
確かに、プロフィール画面の下に2つ日付と時間が記されていた。
なるほど、現実とゲーム内の時間なのか…

「何でもありなのか……」

でも、確かにキャラメイクから街中散歩、食事に楽器探し。
かなりの時間を費やした筈なのに、VRを使ってから数時間しか経過してない。

「…凄いなぁ、ゲームって。…………まってよ?じゃ宏は倍以上の月日を休み無しにゲームしてたってこと?」

まじか、ありえない。

彼女の中の宏の評価はどん底に落ちていったのだった。



パタリと倒れ込んでゲームをチラチラと見た。
うまい具合に今日から三連休である。
なら、私も初めてのゲーム三昧なるものをしてみようか。
指先でVRをつついた。

あれほど嫌がっていたゲームをしようとしている自分自身に少しの驚きを感じながらも、 つついていたVRを手に取ったのだった。
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