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第1章 はじめまして幻想郷

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立ち上がった少女は見覚えがあった。
ふわふわのピンクの髪を揺らしてふわりと笑うこの少女はゲームを始めたばかりのスイに声をかけてくれた少女だ。
動きに合わせてピンクの髪をフワリと揺らしながら、椅子を避けて驚き目を見開くスイへと早歩きで近づく。

「スイさん!」

「リィンさん……」

リィンさん、 どうしてここに…そうか、 仲間ってやつか
呆然としながらもそんな事が頭に浮かぶスイの前に来たリィンは嬉しそうにスイの手を両手で握った。

「スイさん、INしたんですね!……あら?どうしてこちらに?」

ニコニコ顔から一転その様子はリィンの心情を、そしてここに居る全員のプレイヤーの疑問を代弁する言葉だ。
不思議そうにするリィンに、 スイはこの状況で「いやぁ、 なんか成り行きで……」なんて言えるはずもなく苦笑のみ返した。
答えが返ってこないことに軽く首を傾げるも手を握ったまま小さく揺するリィン。
そんな後ろではリィンが零した飲み物を男性……だろうか、 髪の長い人がサッと拭き掃除をしてくれていた。

「リィンちゃん知り合い?」

「はい!さっきお友達になったんです」

ふわふわ笑って振り返り、聞いてきた女性に答える。
しかし、 笑っていたリィンはすぐに表情を変えてテーブルに駆け寄った。

「アレイスターさん!すいません!!」

「あら、 いいのよ。」

うふふ、 と笑ってテーブルを拭く男性?は、 その綺麗な手でピカピカに磨き上げていた。

「へぇ、 アレイスターすごい。さすがオトメン」

「まぁ、 ありがとう!イズナちゃんにもお掃除の仕方教えましょうか?」

「……………イズナ、掃除下手」

「ナァァズゥゥナァァァ……」

そっくりな2人が近づき片付けをしているアレイスターに話しかける。
そのうちの一人は先程声を掛けた無表情の少女である。
ほのぼのと話す姿はとても仲がいいのだろう、 楽しそうだ。
しかし、話が脱線した為所在なさげに立ち尽くすスイは困った様に話し掛けた人とリィンを見比べた。
女性はもう……と呟いてからリィンに声をかけた。

「ほら、 あの子放置してるわよ、 リィン」

「あ!すみません!!」

アレイスターに頭を下げて慌ただしくスイの隣に戻るリィン。
そんなリィンを見ていたクラーティアが椅子に座りながら話し出す。

「あらー、まさかのフレンドさんがリィンちゃんなんて偶然ですねー」

そうですよね、 ビックリしました。
そう返事を返したリィンはすぐにスイを見上げる。

「スイさんはどうしてここに?」

本題へと話が戻る。
噴水広場での勧誘からファーレンの話を掻い摘んで説明したクラーティア、 その場にいるプレイヤー達は次第に困ったように中には頭を掻き、 口元を覆い、 等のそれぞれがアクションをとる。

「あーあのね少年。 悪いけど他当たってくれないかな。知らなかったみたいだけどウチは加入募集してないのよ」

女性が困ったように言うが、 ファーレンは少し泣きそうになりながらも頭を下げる。役に立ちます、ここに入る為に前衛から盾職に変わりました。
粘る少年を見ながら、 リィンはスイに話しかける。


「災難でしたね、巻き込まれてしまって」

ファーレンを見ながらリィンは無表情に言い放った。
これは、困る以外の何物でもない状態である。
なんとも答えづらく曖昧に返事を返すと、先程リィンの隣に座っていた男性が、会話の途中だというのに席を立ちスイ達の方へと歩いてきた。

「それにしてもかっわいーねー!名前なんてーのー?あ、オレはタクだよ!」

まるでナンパのようなノリの男性に、 スイは警戒しながら見るがただ単に男性はデレデレと鼻の下を伸ばしながらスイを見ているだけだった。
相変わらずサイテーですねー、と隣からクラーティアの冷たい言葉が降ってきていたが、男性は微塵も傷付いてはいない様子だ。

「は、はぁスイです。」

「よろしくスイちゃん!……本当にかわいい、結婚しない?オレ強いよ?」

「…………は?」

グイグイくるタクに後ずさると、グレンがスイを庇うように羽織でスイの体を隠した。
近づくグレンを見上げるスイ。

「やめろ」

「セクハラで訴えますよ、タク。 あと緊急事態なんですからちゃんと話聞いた方がいいです」

グレンが止めリィンが珍しく怒って言うと、タクはえーと、口を尖らせながらスイを見つめた。
ただ単に、ゲームを全力で楽しんでいる男性は新たなシステムに乗ってみたかったのもある。







「どうしてもダメですか?…おれフェアリーロードにしか入りたくないんです。盾職、 頑張りますから」

「……いや、 盾なら俺いるし」

「2枚!居た方がいいと思います!!」

ファーレンはフェアリーロードのメンバーに頭を下げている。
どうしても、どうしてもと。
たしかに盾は1枚より2枚の方が安全性は高い。
だが、このクランの盾は1人でも十分にやって来れていた。
だが、今後のクエストの難易度が上がるのも必須。
全員が顔を合わせて眉を下げている。
トップランカーではあるが確かに人数は少なくぎりぎりで回っているのも事実ではあるが、ずっと同じメンバーでやっていて今さら入れるのも……とも思ってしまう。

「………じゃ、 こうするか?」

奥にいる男性が鋭い目をファーレンに向けて話し始めた。















どうやら、 ファーレンの粘り勝ちで話し合いは幕を閉じたようだ。
フェアリーロードの人数が少ないのも、 盾が1人なのも事実だし、 実際盾職がインしてない時のクエストは難易度が一気に上がる。
それを考慮して出されたのは条件付きのクラン入りだった。



一つ、 このクランは仲良くが基本。どのメンバーとも揉め事などは禁止。もし揉め事や喧嘩をした場合は仲直りをしたら良しとする。(人間関係、 何も無い仲良しこよしは無理だから)

一つ、 クランメンバーの危機には手を貸すこと

一つ、 自分のジョブは使えるようになる事(理解し動けるように。助け合いのゲームだから自分のできる最善で動けるように)

一つ、 レベル上げはしっかりと






「まぁとりあえずは、 フェアリーロードの加入を認める。ただ、 今は仮加入である事を忘れるな」

「………はい!」

「わるい」

ファーレンはグッと手に力を込めて頭を下げ、 グレンが片手を上げて謝った。
ファーレンの話を聞いていた全員が首を横に振ったあと、 未だに頭を下げているファーレンを見ていた。

ゲームにここまで必死なこの少年は、 一体なにを考えているんだろう……





「…………さて、じゃあ次はその子ね」

ファーレンの話をとりあえず纏めたあと、 女性はスイを見ながら言った。
先程ファーレンの加入を決定した男性がこの仲間たちのリーダーである。
 彼を中心に話し合いをしているが良く意見を出したりサポートする女性、 サブリーダー的存在である女性がスイを手招きした。

リィンをチラッと見てから歩きだし、 リーダーの男性の前に立つ。
そんなスイをファーレンは入るのにきたのでは無いのか?……と首をかしげていた。


「え………っと……」

「言った通り、うちはメンバーの加入はしてないの。………まぁ、仮で1人入っちゃったけどね。」

唐突に言われた女性の言葉にスイは反応しない。
よく分からないうちに巻き込まれて何が何だかの状態である。
ただ、 先程の少年の様子を見て予測は立てていた。

チラっと見られたファーレンはちょっと体を小さく丸めて居心地悪そうにしている。
しかし、 その様子とは裏腹にフェアリーロードに入れるのが嬉しい!と唇が勝手に笑みを作る。
堪えては変顔する少年に全員が苦笑である。 流石に理由がわかるのだ。

「流石にリィンちゃんのフレンドだからって入れる理由にはならないのよね」

だって、そうしたらフレンドみんな入れないといけないでしょ?
正論である。
スイには特に入る要素がないのだ、何かに特化しているとか今のスイにはわからない。

「セラさん………」

リィンがチラチラとスイを見て声を掛けるがセラと呼ばれた女性はじっとリィンを見た。

「じゃ、リィンちゃんはその子どう思う?クランに入れるべきかしら?」

「…………………………」

少し話をしただけでスイの職すらリィンは知らない。
俯き答えられないリィンに、ため息を吐き出した。


「……そうねぇ、 正直な所あんまり人は増やしたくないわ。今が1番安定してるから。元々増やさない方向性だったじゃない?」

「…………えーっと、 これってクラン?に入る話なんですか?」

「「「「え?」」」」

女性とリィンが話す中、 スイは恐る恐る手を挙げて話し出した。
まず、 私なんでここにいるの?

「……ほぼ無理やり連れてきたから理解してないぞ。」

「えぇ?じゃあなんで連れてきたのよ」

「それは、 ファーレンくんがちょっとスイちゃんを敵意むき出しで見てたから危ないと判断した結果ですよー」

「え!?お、俺!?」

クラーティアがサラッと答えると、 全員が呆れた顔をした。

「……君、 危ないわよ。」

「ゲームっつっても対人間に代わりかーからな。それに、 このクランでは喧嘩は勿論垢BANなるような事は勿論禁止だ。」

「は…はい」

ファーレンは俯きながらも返事を返した。
まだ子供か……?
フェアリーロード達はちょっと落ち着くのに時間かかるかもしれないな、 とファーレンを見ながら思った。

「あの、 仲間募集してないって言ってましたし私とりあえず1人でやってみるので…あの……」

ファーレンを見るフェアリーロードに声を掛ける。
すると、 全員が振り向きスイを見た。

「え?1人で?ソロってこと??」

「はい」

「……………だ、 だめですよ!スイさんゲーム自体初めてって言ってたじゃないですか!このゲーム協力ゲームですから1人は厳しいんですよ!とにかく誰かと一緒に動かないと戦闘確実に死にますよ!!」

「え!?ゲーム自体が初めて!?いらっしゃいませ!鬼畜運営の素晴らしきゲームへ!!俺が一緒に遊ぼうか!?」

「タクさん!不安煽るようなこと言うのやめてください!そして誘うのもだめです!」

「初心者イビリ……エロタクお仕置きする?」

「とりあえず、 今はやめておきましょうか、ね?ナズナちゃん!」


素晴らしきカオスである。
スイ、  困惑しながら話す人の顔を見る。

「あー、 なるほど完全初心者かー。」

「その外見でゲームも初ならちょっと男性プレイヤーから目を引いちゃう可能性があるのですよー」

ふわふわと全体的に白い服や肌をしている女性が頬に手を当てながら言った。

「……………放り出して大丈夫だと思うか?」

「………獲物認定されそうね。しかも今はクラン制度始まってハイエナばりに新人獲得してるじゃない?」

「セラ……ハイエナってお前…」

「間違いないじゃない?」

全員がジーッとスイを見る。
え?え?と髪をふわりと揺らしながら全員を見る。


「……これはだめだな。おい、 あー、 スイって言ったか?」

「はい!?」

「まぁ、 なんだ。初心者にはちょっと難しいと言うかハードなゲームになっててな。とりあえず少し強くなるか、 ゲームに慣れるまで俺達のクラン入るか?俺らと上手く出来そうならそのまま仲間になっててもかまわねーし。」

「いいん…ですか?」

「みぃんなで仲良く遊びましょう。ね?」

ふふっと笑って言った女性は、 スイを優しい目で見つめた。
教えてくれる人が居るのはスイにとっては嬉しい以外にない。

じわじわと理解していったスイは笑顔爆発!嬉しそうに笑った。

「ありがとう、 ございます!よろしくです!」

「よろしくぅぅー!!スイちゃぁぁぁ……」

「ああぁ、 新人さんいるからちょっと待ってぇ!ナズナちゃぁぁん!!」










こうしてファーレンに言った条件をスイにも伝えてクランメンバーには加入の再確認をした。

まずは自己紹介をしよう。
そんな声にフェアリーロードの自己紹介が始まった。

「はい!はい!オレはタク!職業は前衛剣士だよ!あと、スイちゃんの花婿候補!よろしく!……いて!」

元気よく手を挙げて言ったタク、 そのままスイにジリジリと近づきグレンに叩かれた。
クラーティアとリィンにそっと引き寄せられるスイ。

「私は後衛魔術師ですー、 あ、 クラーティアですよー。グレンも魔術師ですよー。 タクに何か言われたらすぐに言ってくださいねー1発KOしますから!……ナズナちゃんが!」

「…………まかせろ」

俺のも言うのか…とグレンが呟き、クラーティアの最後の一言にタクがそりゃないよー!と叫ぶ
そしてナズナと呼ばれた無表情の少女がサムズアップしながら答えた。

「わたしは僧侶、 回復専門です」

すぐ隣からリィンがニコニコしながら言った。

「私も同じ僧侶よ、 セラ二ーチェというの。セラって呼んでね」

次々自己紹介をされて目が回るスイ。
ファーレンは全員を把握しているらしく、 毎回頭を下げてよろしくお願いします!と声を張り上げる。

他にいたのは盾職1人
前衛2人
中間職2人と、 全体的にバランスが整っていた。
クランの人数としては少なめではあるがβ版の時はこの人数で十分動けていたのだ。


「オレはファーレンっす!盾職!よろしくお願いします!」

「あ、 私はスイ」

ファーレンの自己紹介の後全員の視線が集まった為、スイは頭を下げながら言った。
全員がニコニコしている、 職業を言うまでは。

「奏者です」

静まりかえる場の空気にスイが戸惑うと、 ファーレンはスイを見てえー…と声に出した。

「奏者って、マジかよ。 ガチでつかえねーやつじゃん」

「…は?」

「…あー、 うんスイちゃん。まだ始めたばかりで悪いけど転職を視野に考えてもらえるかしら?」

困ったようにセラニーチェが言った。

「奏者……奏者かぁぁぁ……俺はあんたとパーティは………ああぁぁぁ………」

セラニーチェと同じテーブルに座る男性が言った。
リーダーで盾職のカガリ。
均等の取れた体に少しつり目の男性。
黒を基調とした服を着るカガリは黒髪をガリガリと掻きながらスイから視線をそらした。
歓迎ムードだったクラメンたちが、 一気に手のひらを返したような対応をしてきたのだ。
仲良く、一緒に遊ぶ。
そう言っていたのに……困ったように笑うみんなにスイは困惑した。

仲間が大事。それは今までの話で何となく分かった、
スイは今入ったばかりだからまだそこには含まれていないのも仕方ないのかもしれない。
スイの人柄がまだ知られてないのだから。


でも、 だからって………
奏者って、 そんなにダメ??


クランメンバーの対応に困惑してリィンを見るが、 リィンも困ったように微笑むだけだった。



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