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第七章 罪の記憶よ、はじめまして
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マコトが驚いて目を瞬いている間にも、少女はマコトを連れて、どんどんトンネルの奥へ進んでいく。目まぐるしく変わる映像の中を、振り返ることなく、まっすぐに。
「どうして、氷の女王を倒すことをためらったの?」
「……氷の女王に、言われたんだ。自分を倒したら仲間たちの記憶は失われる、って」
それは、人を揶揄うことが大好きな氷の女王の、いつもの戯言だと思った。それでも、マコトの足を止めるには十分すぎた。振り上げた拳を止めるには、十分すぎる痛みだった。
「最後の最後で、ボクは迷ってしまった。いつかみんなと離れ離れになったとしても、みんなのことを忘れたくなんてなかったから」
異世界に来たことで、仲間たちとの接点が初めて生まれた。記憶をなくして現実世界に戻ってしまったら、もう二度と巡り合えないかもしれない。マコトにとって、それはなによりの恐怖だった。
「そのボクの弱さが、カナエちゃんを犠牲にした。氷の女王を倒す、たった一度だけのチャンスを不意にしてしまったボクに、彼女が提案してくれたんだ。縁者である自分の中に氷の女王を封印する、って……」
トンネル内の映像が、そのときのカナエの笑顔でいっぱいになる。そうだ、こんな風に笑っていた。怖くて堪らないはずなのに、カナエは笑っていたのだ。
――マコトくん。私、頑張るね。
悲劇の前夜にカナエが口にした決心の、本当に意味するところがわかったのは、そのときだ。カナエは既に覚悟を決めていた。いざというときに、自分が犠牲になる覚悟を。
「そんなことを、してほしかったわけじゃなかったのに……!」
腹の奥底から、唸るような声が這い上がった。重くなった足を止め、カナエの笑顔から目を逸らし、少女とつないでいないほうの手を強く握り込む。
「ボクが弱かったから、ボクがみんなを信じることができなかったから、だからカナエちゃんは今も苦しんでる。ボクたちと離れて、一人になることを選んでる。そんなのって、そんなのってないよ……っ」
「マコト……」
こちらを見上げる少女の視線を感じて、マコトはゆっくりと顔を向ける。心配そうな瞳を無言のまま見つめ返してから、ずっと気になっていたことを口にした。
「……キミは、誰?」
「どうして、氷の女王を倒すことをためらったの?」
「……氷の女王に、言われたんだ。自分を倒したら仲間たちの記憶は失われる、って」
それは、人を揶揄うことが大好きな氷の女王の、いつもの戯言だと思った。それでも、マコトの足を止めるには十分すぎた。振り上げた拳を止めるには、十分すぎる痛みだった。
「最後の最後で、ボクは迷ってしまった。いつかみんなと離れ離れになったとしても、みんなのことを忘れたくなんてなかったから」
異世界に来たことで、仲間たちとの接点が初めて生まれた。記憶をなくして現実世界に戻ってしまったら、もう二度と巡り合えないかもしれない。マコトにとって、それはなによりの恐怖だった。
「そのボクの弱さが、カナエちゃんを犠牲にした。氷の女王を倒す、たった一度だけのチャンスを不意にしてしまったボクに、彼女が提案してくれたんだ。縁者である自分の中に氷の女王を封印する、って……」
トンネル内の映像が、そのときのカナエの笑顔でいっぱいになる。そうだ、こんな風に笑っていた。怖くて堪らないはずなのに、カナエは笑っていたのだ。
――マコトくん。私、頑張るね。
悲劇の前夜にカナエが口にした決心の、本当に意味するところがわかったのは、そのときだ。カナエは既に覚悟を決めていた。いざというときに、自分が犠牲になる覚悟を。
「そんなことを、してほしかったわけじゃなかったのに……!」
腹の奥底から、唸るような声が這い上がった。重くなった足を止め、カナエの笑顔から目を逸らし、少女とつないでいないほうの手を強く握り込む。
「ボクが弱かったから、ボクがみんなを信じることができなかったから、だからカナエちゃんは今も苦しんでる。ボクたちと離れて、一人になることを選んでる。そんなのって、そんなのってないよ……っ」
「マコト……」
こちらを見上げる少女の視線を感じて、マコトはゆっくりと顔を向ける。心配そうな瞳を無言のまま見つめ返してから、ずっと気になっていたことを口にした。
「……キミは、誰?」
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