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第八章 寂しがりやに、さようなら
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「……え?」
「カナエは、諦められるの?」
少女の熱い光を湛えた目が、カナエをじっと見つめている。
「マコトは、みんなは、諦めてないのに?」
マコト。みんな。一緒に戦った大事な仲間たちの顔が、次々と浮かぶ。一緒に過ごした大事な思い出が、次々と蘇る。
「……諦めないよ。諦めるわけないっ、諦められるわけ、ないよ……!」
あの場所に帰りたい。また、あの場所で笑いたい。
まるで駄々をこねる子どものように、何度も何度も頭を振り続ける。
皮肉にも、氷の女王の封印が溶けたことで、一緒に閉じ込めていたはずのカナエの希望が再び目を醒ました。山頂の雪で嵩を増した川の水のように、もはや止めようもなく激しく溢れ出す。
「ねえ、カナエ。氷が溶けると何になるか、知ってる?」
――ねえ、カナエちゃん。氷が溶けると何になるか、知ってる?
異世界で聞いたマコトの声と、目の前の少女の声が重なった。「わたしは知ってるよ」と、嬉しそうに胸を張る少女を見つめながら、カナエは震える唇を開く。
「……知ってるよ。私も、知ってる」
氷が溶けると、何になるか。
そう、氷はいつか溶ける。
氷が溶けることを、畏れなくてもいい。
そうだ。なぜなら。
「……でも、氷の女王。あなたは、知らないでしょう。あなたがいる世界は、凍ってしまうから。あなたは、氷が溶けたあとの世界を見ることができない」
満面の笑みを浮かべた少女が、そっとカナエの手を握った。刺すような冷たさ。けれど、それこそが彼女の温もりだ。紛れもない優しさに背中を押されて、カナエはゆっくりと顔を上げる。
「私があなたに、春を見せてあげる」
氷の女王への、宣戦布告。三年も一緒にいて、今、ようやく立ち向かえた。
不気味に蠢く白い腕も、ひび割れて崩壊する白い繭も、異様な熱を帯び始めた空間も。カナエはもう、何も怖くはない。傍らの少女と目を合わせ、少女と同じように微笑む。そうして。
――カナエちゃん!
「!」
雷に打たれたかのように、全身が跳ねた。顔が上がる。胸を逸らす。足を踏み出す。
マコトの声が聞こえた。ヒカリの声も聞こえた。たくさんの声援が聞こえた。ライブ会場で咲くファンの笑顔が、光のトンネルを抜けた先に広がっていた。
「――歌って!!」
そうだ。仲間が、メンバーが、ファンが、みんなが、待ってくれている。
本当の自分を表現できる曲を。
自分の心からの想いを込めて。
カナエは――歌う。
「カナエは、諦められるの?」
少女の熱い光を湛えた目が、カナエをじっと見つめている。
「マコトは、みんなは、諦めてないのに?」
マコト。みんな。一緒に戦った大事な仲間たちの顔が、次々と浮かぶ。一緒に過ごした大事な思い出が、次々と蘇る。
「……諦めないよ。諦めるわけないっ、諦められるわけ、ないよ……!」
あの場所に帰りたい。また、あの場所で笑いたい。
まるで駄々をこねる子どものように、何度も何度も頭を振り続ける。
皮肉にも、氷の女王の封印が溶けたことで、一緒に閉じ込めていたはずのカナエの希望が再び目を醒ました。山頂の雪で嵩を増した川の水のように、もはや止めようもなく激しく溢れ出す。
「ねえ、カナエ。氷が溶けると何になるか、知ってる?」
――ねえ、カナエちゃん。氷が溶けると何になるか、知ってる?
異世界で聞いたマコトの声と、目の前の少女の声が重なった。「わたしは知ってるよ」と、嬉しそうに胸を張る少女を見つめながら、カナエは震える唇を開く。
「……知ってるよ。私も、知ってる」
氷が溶けると、何になるか。
そう、氷はいつか溶ける。
氷が溶けることを、畏れなくてもいい。
そうだ。なぜなら。
「……でも、氷の女王。あなたは、知らないでしょう。あなたがいる世界は、凍ってしまうから。あなたは、氷が溶けたあとの世界を見ることができない」
満面の笑みを浮かべた少女が、そっとカナエの手を握った。刺すような冷たさ。けれど、それこそが彼女の温もりだ。紛れもない優しさに背中を押されて、カナエはゆっくりと顔を上げる。
「私があなたに、春を見せてあげる」
氷の女王への、宣戦布告。三年も一緒にいて、今、ようやく立ち向かえた。
不気味に蠢く白い腕も、ひび割れて崩壊する白い繭も、異様な熱を帯び始めた空間も。カナエはもう、何も怖くはない。傍らの少女と目を合わせ、少女と同じように微笑む。そうして。
――カナエちゃん!
「!」
雷に打たれたかのように、全身が跳ねた。顔が上がる。胸を逸らす。足を踏み出す。
マコトの声が聞こえた。ヒカリの声も聞こえた。たくさんの声援が聞こえた。ライブ会場で咲くファンの笑顔が、光のトンネルを抜けた先に広がっていた。
「――歌って!!」
そうだ。仲間が、メンバーが、ファンが、みんなが、待ってくれている。
本当の自分を表現できる曲を。
自分の心からの想いを込めて。
カナエは――歌う。
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