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6.橋の上のコロウ

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「……ぜぇ、はあ。い、いない……」

 だいたい予想はしていたけど、マルキヨに鬼面をつけたアバターはいなかった。息を切らせて入ってきた僕に「麗春祭の特別セールだキヨ! 回復系アイテムがお得なんだキヨ!」とオススメしてきた着ぐるみへ「医者いらずなので!」と断ってから店を出る。
 辺りを見回しても、やっぱり目的の人物の姿はない。「間に合わなかった……」と、がっくり肩を落としたところで、ふと我に返る。

「いや、探してどうするんだ?」

 あのあと冷静になって考えてみたけど、やっぱり鬼面は毒のダメージを利用して死に戻りをしようとしていたんじゃないかと思う。メイくんにも「例えばの話なんだけど」と、事実をぼかして意見を聞いてみたところ、僕の推測と似たような考えが返ってきた。ということは、もし会えたとしても「あのときはよくも邪魔してくれたな!」と怒られる可能性のほうが高いわけで。
 だから、むしろ会わないほうがいいし、なかったことにしたほうがいいんだろう。そう思っても、なにかがどうしても引っかかる。
 だって、楽をするためにわざと死のうとしている人が、あんなさみしそうにたたずんでいるだろうか。


 そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか橋の上にいた。このまま進めば北側のイベント会場に出る。ちょうど特コスも着ていることだし、最初の予定どおり、お祭りを楽しむことにしよう。気持ちを切り替えて一歩を踏み出した僕だけど、すぐにある違和感に気づいた。

「なんだろう……」

 お祭りのにぎやかさとは、あきらかに違う種類の音が聞こえる。人の声だ。歓声ではなく、怒号や制止のような声。なにか事件でも起きてるんだろうか。思わず橋の真ん中で足を止めて様子をうかがっていた僕の耳元で、不意にカタンという乾いた音が響く。
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