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7.メロンカッパンとピンクの猫又

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「キングメロンカッパンとかいるんだね。僕、知らなかった」
「別のエリアには、あんカッパンがいるけど、そいつを大量に倒した場合は、殿様あんカッパンが出てくるらしい」
「そんなカッパまでいるの?」
「まあ、俺の部屋からもレインボーのカッパが見下ろせるくらいだし。いるところにはいるんだろ」

 うっと、思わず言葉に詰まってしまう。俺の部屋というのは、現実世界のコロの部屋ということだ。つまりリアルの情報ということになる。
 そういう話は、基本的にしないようにしていた。ネット上で不特定多数に向けて個人情報を流すことの危険性は、それなりにわかっているつもりだし、メイくんにも「気をつけるように」と、口を酸っぱくして言われている。
 だから今のコロのセリフも、聞かなかったことにしたほうがいいんだろう。僕が返す言葉に迷っていると、察してくれたらしいコロが困ったように自分の髪をわしゃわしゃした。

「……あー、今のは俺もうっかりしてた。でも、まあ、ハルキなら別に教えてもいいかなって」
「え?」
「ハルキとなら、現実世界で会っても楽しそうだしさ」

 そう言ってもらえるのは、素直にうれしい。自分という人間を少しでも信頼してもらえてると思うと、ちょっと照れくさくなる。そこまで考えて、僕はあることに気づいてしまった。

 ――そういえば僕、自分が現実世界では女の子じゃないってこと、コロに話したっけ?

 さあっと全身から血の気が引いた。心臓がバクバクする。
 別にヒノモトで出会う人みんなに、いちいち正直に説明する必要はない。そもそも最初は、コロとこんなに関わることになるとは思ってなかった。だから、僕は悪くない。悪くないはず。ただ、タイミングがめちゃくちゃ悪かった。告白する機会を完全に逃してしまった。
 別に中身が男だからといって、コロがてのひらを返して急に冷たくなるとは思えない。でも結果的に嘘をついていたことは事実だ。だましていたと怒られても、それはそれでしかたない。
 うん、そうだ。それでも言おう。ちゃんと話そう。
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