59 / 77
9.レインボーのカッパ
9-10
しおりを挟む
「仕合の件は、ごめんね。僕の厄介ごとに巻き込んじゃったせいで、コロに無理させた」
「いつものことだって言ってんだろ。ハルキのせいじゃねぇよ」
「でも……」
「ああ。それで責任感じて、こんなとこまで探しに来たのか。……だいじょうぶだよ。一度発作が出ると、しばらくは安静にしてなきゃダメってだけ。当然、その間はヒノモトも禁止される」
「そっか。じゃあ、ヒノモトをやめたわけじゃないんだね?」
「うん」
よかった。僕はきっと、コロの口から、その一言が聞きたかったのだ。ずっと胸に詰まっていた石をはき出すように、僕は大きく息をつく。
「……あ! いまさらだけど、ごめんね! 現実世界で約束もなしに会いに来るなんて、マナー違反だよね! それに、あ、僕、実は女の子じゃなくて、でも別にだましてたわけじゃ――!」
「落ち着けって。ハルキなら別にリアルで会ってもいいって言ったよな、俺。それに、ハルキが女の子じゃないことは何となく知ってたし」
「え!?」
「ずっと自分のこと『僕』って言ってただろ。仕草とか話題とかも、あんまり女の子っぽくなかったから、俺はフツーに男友達みたいな感覚で付き合ってた」
「え、そ、そうなんだ……。よ、よかった」
「まさか、見た目がそっくりそのままだとは思ってなかったけどな。いつも自信がなさそうだったけど、意外に自分のこと大好きだったりするの?」
からかうような声が、うなじをくすぐる。心臓に冷たい水をかけられたような気がして、僕はひゅっと息をのんだ。
「……違う。違うよ、そんなことない」
自分のことが大好きだなんて、そんなことは絶対にない。心の中で強く反論した僕に、コロは「ふうん」と短い言葉を返しただけで、それ以上は追求してこなかった。
「……そっちこそ、俺を見てがっかりしたんじゃねぇの?」
「はえ?」
寝耳に水のような言葉に、僕は思わずおかしな声を上げてしまう。がっかり? なにが?
「なんのこと?」
「ヒノモトのコロウと、現実の俺は全然違うだろ。鬼面を被ってサッソウと物怪をなぎ倒すカッコいい歌舞伎役者の中身が、こんなひょろひょろの小学生なんだってわかったら、フツーは幻滅するだろうが」
「じ、自分で、サッソウと、とか、カッコいい、とか言っちゃうあたり、やっぱりキミはホントにコロなんだね……ぷくくく」
「おい、笑うな。どこで本人確認してんだ。ってか、大事なとこはそこじゃねぇし」
げしげしと、背中の男の子が抗議の蹴りをしてくる。「ごめんごめん」と謝ってから、僕はコロを軽く背負い直した。
「がっかりなんかしないよ」
「……そっか」
「うん」
「もういいから、降ろせよ」
「いや、せっかくだし」
「なんだよ、せっかくって」
「いつもヒノモトでは抱えられるばっかりだったから、たまにはそっち側の恥ずかしさというものをコロに知ってもらおうと」
「いらねー」
二人でちょっと笑い合ったあとに訪れる、心地よい沈黙。いつの間にか、周囲から車の音がなくなっていた。代わりに潮の匂いと、海の風が強くなる。このまま見晴らしのいい広い公園に入れば、レインボーのカッパまであと少しだ。
「いつものことだって言ってんだろ。ハルキのせいじゃねぇよ」
「でも……」
「ああ。それで責任感じて、こんなとこまで探しに来たのか。……だいじょうぶだよ。一度発作が出ると、しばらくは安静にしてなきゃダメってだけ。当然、その間はヒノモトも禁止される」
「そっか。じゃあ、ヒノモトをやめたわけじゃないんだね?」
「うん」
よかった。僕はきっと、コロの口から、その一言が聞きたかったのだ。ずっと胸に詰まっていた石をはき出すように、僕は大きく息をつく。
「……あ! いまさらだけど、ごめんね! 現実世界で約束もなしに会いに来るなんて、マナー違反だよね! それに、あ、僕、実は女の子じゃなくて、でも別にだましてたわけじゃ――!」
「落ち着けって。ハルキなら別にリアルで会ってもいいって言ったよな、俺。それに、ハルキが女の子じゃないことは何となく知ってたし」
「え!?」
「ずっと自分のこと『僕』って言ってただろ。仕草とか話題とかも、あんまり女の子っぽくなかったから、俺はフツーに男友達みたいな感覚で付き合ってた」
「え、そ、そうなんだ……。よ、よかった」
「まさか、見た目がそっくりそのままだとは思ってなかったけどな。いつも自信がなさそうだったけど、意外に自分のこと大好きだったりするの?」
からかうような声が、うなじをくすぐる。心臓に冷たい水をかけられたような気がして、僕はひゅっと息をのんだ。
「……違う。違うよ、そんなことない」
自分のことが大好きだなんて、そんなことは絶対にない。心の中で強く反論した僕に、コロは「ふうん」と短い言葉を返しただけで、それ以上は追求してこなかった。
「……そっちこそ、俺を見てがっかりしたんじゃねぇの?」
「はえ?」
寝耳に水のような言葉に、僕は思わずおかしな声を上げてしまう。がっかり? なにが?
「なんのこと?」
「ヒノモトのコロウと、現実の俺は全然違うだろ。鬼面を被ってサッソウと物怪をなぎ倒すカッコいい歌舞伎役者の中身が、こんなひょろひょろの小学生なんだってわかったら、フツーは幻滅するだろうが」
「じ、自分で、サッソウと、とか、カッコいい、とか言っちゃうあたり、やっぱりキミはホントにコロなんだね……ぷくくく」
「おい、笑うな。どこで本人確認してんだ。ってか、大事なとこはそこじゃねぇし」
げしげしと、背中の男の子が抗議の蹴りをしてくる。「ごめんごめん」と謝ってから、僕はコロを軽く背負い直した。
「がっかりなんかしないよ」
「……そっか」
「うん」
「もういいから、降ろせよ」
「いや、せっかくだし」
「なんだよ、せっかくって」
「いつもヒノモトでは抱えられるばっかりだったから、たまにはそっち側の恥ずかしさというものをコロに知ってもらおうと」
「いらねー」
二人でちょっと笑い合ったあとに訪れる、心地よい沈黙。いつの間にか、周囲から車の音がなくなっていた。代わりに潮の匂いと、海の風が強くなる。このまま見晴らしのいい広い公園に入れば、レインボーのカッパまであと少しだ。
0
あなたにおすすめの小説
【奨励賞】花屋の花子さん
●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】
旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。
そこには『誰か』が不思議な花を配っている。
真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。
一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。
『あなたにこの花をあげるわ』
その花を受け取った後は運命の分かれ道。
幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。
「花子さん、こんにちは!」
『あら、小春。またここに来たのね』
「うん、一緒に遊ぼう!」
『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』
これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。
レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか
宮崎世絆
児童書・童話
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。
公爵家の長男レイルーク・アームストロングとして。
あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「僕って何かの主人公なのかな?」と困惑するレイルーク。
溺愛してくる両親や義姉に見守られ、心身ともに成長していくレイルーク。
アームストロング公爵の他に三つの公爵家があり、それぞれ才色兼備なご令嬢三人も素直で温厚篤実なレイルークに心奪われ、三人共々婚約を申し出る始末。
十五歳になり、高い魔力を持つ者のみが通える魔術学園に入学する事になったレイルーク。
しかし、その学園はかなり特殊な学園だった。
全員見た目を変えて通わなければならず、性格まで変わって入学する生徒もいるというのだ。
「みんな全然見た目が違うし、性格まで変えてるからもう誰が誰だか分からないな。……でも、学園生活にそんなの関係ないよね? せっかく転生してここまで頑張って来たんだし。正体がバレないように気をつけつつ、学園生活を思いっきり楽しむぞ!!」
果たしてレイルークは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?
そしてレイルークは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか?
レイルークは誰の手(恋)をとるのか。
これはレイルークの半生を描いた成長物語。兼、恋愛物語である(多分)
⚠︎ この物語は『レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか』の主人公の性別を逆転した作品です。
物語進行は同じなのに、主人公が違うとどれ程内容が変わるのか? を検証したくて執筆しました。
『アラサーと高校生』の年齢差や性別による『性格のギャップ』を楽しんで頂けたらと思っております。
ただし、この作品は中高生向けに執筆しており、高学年向け児童書扱いです。なのでレティシアと違いまともな主人公です。
一部の登場人物も性別が逆転していますので、全く同じに物語が進行するか正直分かりません。
もしかしたら学園編からは全く違う内容になる……のか、ならない?(そもそも学園編まで書ける?!)のか……。
かなり見切り発車ですが、宜しくお願いします。
ボクはスライム
バナナ男さん
絵本
こんな感じだったら楽しいなと書いてみたので載せてみましたઽ( ´ω`)ઽ
凄く簡単に読める仕様でサクッと読めますのでよかったら暇つぶしに読んでみて下さいませ〜・:*。・:*三( ⊃'ω')⊃
野良犬ぽちの冒険
KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる?
ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。
だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、
気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。
やさしい人もいれば、こわい人もいる。
あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。
それでも、ぽちは 思っている。
──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。
すこし さみしくて、すこし あたたかい、
のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。
その怪談、お姉ちゃんにまかせて
藤香いつき
児童書・童話
小学5年生の月森イチカは、怖がりな妹・ニコのために、学校でウワサされる怪談を解いてきた。
「その怪談、お姉ちゃんにまかせて」
そのせいで、いつのまにか『霊感少女』なんて呼ばれている。
そんな彼女の前に現れたのは、学校一の人気者——会長・氷室冬也。
「霊感少女イチカくん。学校の七不思議を、きみの力で解いてほしい」
怪談を信じないイチカは断るけれど……?
イチカと冬也の小学生バディが挑む、謎とホラーに満ちた七不思議ミステリー!
童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)
カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ……
誰もいない野原のステージの上で……
アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ———
全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。
※高学年〜大人向き
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる