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「ヤンキーDKの献身」番外編
Morning Relay 2
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午前7時の京都。
盆地である京都の冬は底なしに寒い。
宮内敦は震えながらサンダルをつっかけて坪庭に出ると、物干し竿に布団を干した。
祖父が退職金で買った町屋に一人暮らし。
学生の一人暮らしと言えば万年床が定番だが、武道を嗜んでいる敦にはそんなずぼらは出来ない。整理整頓がなされていないと気持ち悪いのだ。
台所のある土間は表から裏口まで続いていて、風がびゅうびゅう通り抜ける。
蛇口の水は氷る寸前の冷たさだ。震えながら顔を洗い、年季の入ったアルミの薬缶で湯を沸かす。
「朝飯どうすっかな」
年末年始は賄い付きのバイトと飲み会三昧だったので、冷蔵庫はほぼ空だ。
そもそも敦は料理が出来ない。
米を炊く、インスタントラーメンをゆでる、目玉焼きを作るの3択だ。
結局、冷凍ごはんを温めて生卵を落とし、醤油をかけた。TKGという単語ができるずっと以前から、日本人の国民食だ。
こたつに潜り込んで朝食を掻きこみ、熱いほうじ茶で一息ついた。
散髪に行って、昼飯は「ハイライト」でカラフルチキンカツ定食を食べて、大学の研究室で実験の進捗を確認して、飲み会用の酒とつまみを買って、6時までに家に戻る。
完璧な本日の計画を立て、外に出た。
家と玄関前の掃除をして散髪屋で髪を切ってから、大学のある百万遍に向かった。
神社だらけの京都の新年は人だらけだ。
インバウンドの観光客が戻ってきて、観光客は住宅街や学生街にまで入り込んでくる。京大の周りにも観光客らしき外国人がいて、何が珍しいのか大学の写真を撮っている。
ふと思い立って、敦は吉田神社に足を向けた。
大学受験の下見の際に来たきりだ。参拝客はいるが、4日ともなれば混雑はしていない。
信心深くもなんともないが、神社に来ると空気が清らかに感じるから不思議だ。
朱色の本宮で5円玉を投げ入れて柏手を打ち、巫女さんに貰った甘酒を飲んでいると、「宮内君?」と声をかけられた。
工学部准教授の沢口だった。
ひょろっとした長身に、黒ぶちの丸眼鏡。妙に可愛らしい紺色のダッフルコートを着ている。
「沢口先生。明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」
新年の挨拶を交わし、沢口は敦の頭に視線を向けた。
「髪、さっぱりしたやん」
「今切ってきたばかりで。結構刈ったので、頭が寒いっす」
「はは。宮内君もこの後大学か?」
も、ということは沢口もなのだろう。自宅よりも大学にいる時間の方が長い人種だ。
「はい。家にいてもすることないので」
正直に言うと、沢口は笑った。
「実は俺もや。これも何かの縁やな。ちょっと早いけど昼飯でも食おか」
京都で生まれ育った沢口は、柔らかな本物の京ことばを話す。
いいですねと同意して並んで歩き出した。
百万遍の交差点で、どちらに向かおうかと立ち止まる。
「俺、今日は「ハイライト」の気分だったんすけど」
「あの馬鹿デカいチキンカツか。若いな」
「先生だって、まだ20代でしょう」
そう返すと、沢口はちらりと敦を見て言った。
「昨日で30になったわ」
思わぬ返答に、敦はぺこりと頭を下げた。
「おめでとうございます」
「ありがとう。今晩、坂井先生らが研究室で軽く祝ってくれるらしいから、夜まで残ってるんやったら来たらええわ」
沢口の誘いは嬉しかったが、生憎今日は予定がある。
「あー、すみません。今夜は高校のダチと飲む約束があって」
「その子らも京大なんか?」
「いえ。大学ばらばらなんで、オンライン飲みです。東京とスペインとマレーシアと、あと1人はどこから参加するんだか」
彼らのことを言葉にすると、あのなんでもないような高校生活の1コマ1コマがどれほど貴重な時間だったのかを今になって思い知る。
「それは楽しみやな。そや、研究室に「月の桂」の純米大吟醸があるから、やるわ」
「いいんですか」
「もらいもんやし。ええよ」
長かった赤信号が青に変わったので、揃って大通りを渡る。
「御礼とお祝いに、チキンカツは俺が奢りますよ」
そう申し出ると、沢口は人差し指の第2関節で敦の頭をこづいた。
「あほ。学生に奢らせられるか」
「そう遠慮しはらんでも」
「下手な京都弁使わんとってくれ」
京都の町は昼近くになってもきりりと冷えている。
笑いを含んだ二人の息は煙のように白く、風に流されていった。
盆地である京都の冬は底なしに寒い。
宮内敦は震えながらサンダルをつっかけて坪庭に出ると、物干し竿に布団を干した。
祖父が退職金で買った町屋に一人暮らし。
学生の一人暮らしと言えば万年床が定番だが、武道を嗜んでいる敦にはそんなずぼらは出来ない。整理整頓がなされていないと気持ち悪いのだ。
台所のある土間は表から裏口まで続いていて、風がびゅうびゅう通り抜ける。
蛇口の水は氷る寸前の冷たさだ。震えながら顔を洗い、年季の入ったアルミの薬缶で湯を沸かす。
「朝飯どうすっかな」
年末年始は賄い付きのバイトと飲み会三昧だったので、冷蔵庫はほぼ空だ。
そもそも敦は料理が出来ない。
米を炊く、インスタントラーメンをゆでる、目玉焼きを作るの3択だ。
結局、冷凍ごはんを温めて生卵を落とし、醤油をかけた。TKGという単語ができるずっと以前から、日本人の国民食だ。
こたつに潜り込んで朝食を掻きこみ、熱いほうじ茶で一息ついた。
散髪に行って、昼飯は「ハイライト」でカラフルチキンカツ定食を食べて、大学の研究室で実験の進捗を確認して、飲み会用の酒とつまみを買って、6時までに家に戻る。
完璧な本日の計画を立て、外に出た。
家と玄関前の掃除をして散髪屋で髪を切ってから、大学のある百万遍に向かった。
神社だらけの京都の新年は人だらけだ。
インバウンドの観光客が戻ってきて、観光客は住宅街や学生街にまで入り込んでくる。京大の周りにも観光客らしき外国人がいて、何が珍しいのか大学の写真を撮っている。
ふと思い立って、敦は吉田神社に足を向けた。
大学受験の下見の際に来たきりだ。参拝客はいるが、4日ともなれば混雑はしていない。
信心深くもなんともないが、神社に来ると空気が清らかに感じるから不思議だ。
朱色の本宮で5円玉を投げ入れて柏手を打ち、巫女さんに貰った甘酒を飲んでいると、「宮内君?」と声をかけられた。
工学部准教授の沢口だった。
ひょろっとした長身に、黒ぶちの丸眼鏡。妙に可愛らしい紺色のダッフルコートを着ている。
「沢口先生。明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」
新年の挨拶を交わし、沢口は敦の頭に視線を向けた。
「髪、さっぱりしたやん」
「今切ってきたばかりで。結構刈ったので、頭が寒いっす」
「はは。宮内君もこの後大学か?」
も、ということは沢口もなのだろう。自宅よりも大学にいる時間の方が長い人種だ。
「はい。家にいてもすることないので」
正直に言うと、沢口は笑った。
「実は俺もや。これも何かの縁やな。ちょっと早いけど昼飯でも食おか」
京都で生まれ育った沢口は、柔らかな本物の京ことばを話す。
いいですねと同意して並んで歩き出した。
百万遍の交差点で、どちらに向かおうかと立ち止まる。
「俺、今日は「ハイライト」の気分だったんすけど」
「あの馬鹿デカいチキンカツか。若いな」
「先生だって、まだ20代でしょう」
そう返すと、沢口はちらりと敦を見て言った。
「昨日で30になったわ」
思わぬ返答に、敦はぺこりと頭を下げた。
「おめでとうございます」
「ありがとう。今晩、坂井先生らが研究室で軽く祝ってくれるらしいから、夜まで残ってるんやったら来たらええわ」
沢口の誘いは嬉しかったが、生憎今日は予定がある。
「あー、すみません。今夜は高校のダチと飲む約束があって」
「その子らも京大なんか?」
「いえ。大学ばらばらなんで、オンライン飲みです。東京とスペインとマレーシアと、あと1人はどこから参加するんだか」
彼らのことを言葉にすると、あのなんでもないような高校生活の1コマ1コマがどれほど貴重な時間だったのかを今になって思い知る。
「それは楽しみやな。そや、研究室に「月の桂」の純米大吟醸があるから、やるわ」
「いいんですか」
「もらいもんやし。ええよ」
長かった赤信号が青に変わったので、揃って大通りを渡る。
「御礼とお祝いに、チキンカツは俺が奢りますよ」
そう申し出ると、沢口は人差し指の第2関節で敦の頭をこづいた。
「あほ。学生に奢らせられるか」
「そう遠慮しはらんでも」
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