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Sorano: 再生回数は既に二桁
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雨の中、学校まで猛ダッシュした。
「お、三沢っち、おはよー」
すれ違ったピンク頭は悪友の小倉弥彦だ。空乃は走るスピードは落とさずに、「おう」と弥彦の肩を叩いて駆け抜けていく。
「なに急いでんのー」
追いかけてくる弥彦の声に、「充電!」と大声で返した。
正門を抜け、校庭を突っ切り、傘を畳み上履きに履き替えるのももどかしく、階段を二段飛ばしで駆け上がり、教室に駆け込んだ。
机から充電器を取り出し、教室の隅のコンセントに突っ込んだ。防ぎれなかった雨が髪から滴り落ちるが、それどころではない。
「来い来い来い」
真っ暗だったスマホに充電マークが現れ、やがて画面が立ち上がる。
ラインを開くと、朝の6時に行人からメッセージが届いていた。連絡が来ていたことに、空乃は安堵の溜め息をつく。
今朝、いつもどおりに行人の部屋の呼び鈴を押したが、いくら待っても応答がなかった。部屋からは物音も聞こえず、在室の気配もない。空乃がまだ寝ている間に出勤してしまったのだろう。
充電器を借りそびれたままだったので、スマホはブラックアウトして、連絡も取れない。
空乃は恐る恐る行人のトーク画面を開いた。
「ごめん、恥ずかしいから、今日は来ないで」
メッセージを二度読み返す。
「……っ!」
ヤンキー座りでスマホを握りしめたまま、空乃は震えた。
良かった。怒ってる感じじゃない。
昨夜、行人の性的な姿を目にして、衝動を抑えきれず、勢いで行人のアレをアレしてしまった。
震えながら感じていた行人の濡れた睫毛、噛みしめられた唇、染まった頬。押し殺された喘ぎ声と、達する時の声。
映像も音声も完全に脳内録画した。ちなみに再生回数は既に二桁だ。
空乃は存分に楽しんだが、怒らせて嫌われていたらどうしようと気が気じゃなかったのだ。
にやつきながら、メッセージを何度も読み返した。
恥ずかしいって、可愛すぎかよ。
「こら、三沢!」
ばこんと頭頂部を叩かれた。
振り仰ぐと担任の多田塚先生が出欠簿片手に睨んでいる。
「おまえ、電力も財物だって知ってるか?」
ヅカセンの叱り方はいつも回りくどい。
「刑法245条だろ」
空乃が答えると、ヅカセンは頷いた。
「つまり無断使用は窃盗罪だ」
「刑罰は10年以下の懲役または50万以下の罰金デス」
ヅカセンは苦笑して、出欠簿を軽く空乃の頭に当てた。
「おまえ、本当に生意気だな。ほら、早く抜け。ホームルーム始まるぞ」
電池残量はまだ7%だが、仕方がない。
「ユキ、何時に仕事終わる?」
手早く返信して、席に戻ると、やりとりを聞いていた弥彦がモバイルバッテリーを差し出してきた。
「三沢っち、使っていーよ」
「お、サンキュ」
遠慮なく借りて充電を開始すると、スマホがメッセージを受信する。
「8時頃には出られる。朝、勝手に行ってごめん」
仕事場で、昨夜を反芻して照れながら返信を打つ行人を想像すると、どうしたって口元が緩んでしまう。
教室は湿度が高く窓は白く曇っている。指先で窓を拭うと、覗いた外は一層強く雨が降っている。
空乃は一時間目の古文の教科書を取り出した。百人一首を詠みながら思う。
早く、放課後になんねーかな。
「お、三沢っち、おはよー」
すれ違ったピンク頭は悪友の小倉弥彦だ。空乃は走るスピードは落とさずに、「おう」と弥彦の肩を叩いて駆け抜けていく。
「なに急いでんのー」
追いかけてくる弥彦の声に、「充電!」と大声で返した。
正門を抜け、校庭を突っ切り、傘を畳み上履きに履き替えるのももどかしく、階段を二段飛ばしで駆け上がり、教室に駆け込んだ。
机から充電器を取り出し、教室の隅のコンセントに突っ込んだ。防ぎれなかった雨が髪から滴り落ちるが、それどころではない。
「来い来い来い」
真っ暗だったスマホに充電マークが現れ、やがて画面が立ち上がる。
ラインを開くと、朝の6時に行人からメッセージが届いていた。連絡が来ていたことに、空乃は安堵の溜め息をつく。
今朝、いつもどおりに行人の部屋の呼び鈴を押したが、いくら待っても応答がなかった。部屋からは物音も聞こえず、在室の気配もない。空乃がまだ寝ている間に出勤してしまったのだろう。
充電器を借りそびれたままだったので、スマホはブラックアウトして、連絡も取れない。
空乃は恐る恐る行人のトーク画面を開いた。
「ごめん、恥ずかしいから、今日は来ないで」
メッセージを二度読み返す。
「……っ!」
ヤンキー座りでスマホを握りしめたまま、空乃は震えた。
良かった。怒ってる感じじゃない。
昨夜、行人の性的な姿を目にして、衝動を抑えきれず、勢いで行人のアレをアレしてしまった。
震えながら感じていた行人の濡れた睫毛、噛みしめられた唇、染まった頬。押し殺された喘ぎ声と、達する時の声。
映像も音声も完全に脳内録画した。ちなみに再生回数は既に二桁だ。
空乃は存分に楽しんだが、怒らせて嫌われていたらどうしようと気が気じゃなかったのだ。
にやつきながら、メッセージを何度も読み返した。
恥ずかしいって、可愛すぎかよ。
「こら、三沢!」
ばこんと頭頂部を叩かれた。
振り仰ぐと担任の多田塚先生が出欠簿片手に睨んでいる。
「おまえ、電力も財物だって知ってるか?」
ヅカセンの叱り方はいつも回りくどい。
「刑法245条だろ」
空乃が答えると、ヅカセンは頷いた。
「つまり無断使用は窃盗罪だ」
「刑罰は10年以下の懲役または50万以下の罰金デス」
ヅカセンは苦笑して、出欠簿を軽く空乃の頭に当てた。
「おまえ、本当に生意気だな。ほら、早く抜け。ホームルーム始まるぞ」
電池残量はまだ7%だが、仕方がない。
「ユキ、何時に仕事終わる?」
手早く返信して、席に戻ると、やりとりを聞いていた弥彦がモバイルバッテリーを差し出してきた。
「三沢っち、使っていーよ」
「お、サンキュ」
遠慮なく借りて充電を開始すると、スマホがメッセージを受信する。
「8時頃には出られる。朝、勝手に行ってごめん」
仕事場で、昨夜を反芻して照れながら返信を打つ行人を想像すると、どうしたって口元が緩んでしまう。
教室は湿度が高く窓は白く曇っている。指先で窓を拭うと、覗いた外は一層強く雨が降っている。
空乃は一時間目の古文の教科書を取り出した。百人一首を詠みながら思う。
早く、放課後になんねーかな。
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