ヤンキーDKの献身

ナムラケイ

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Yukito: 最悪、だけど。

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 午前7時。東京国税局課税第二部資料調査第一課。
 始業時間までまだ2時間ある早朝の執務室は無人で、昨日の仕事の熱と埃が残留していて薄暗い。
 行人は電気を点け、窓を開けた。
 外はざあざあ降りの雨だ。水を吸った革靴を脱いで新聞紙を詰め、クロックスに履き替えた。
 パソコンを起動させ、メールチェックをする。
 何本かメールを書いて、今日のスケジュールをチェックした時、ぐうっと腹が鳴った。
 今日は朝食を取っていない。
 その原因を思い出して、行人は大きく息を吐いた。背もたれに背を預けて天井を見上げる。
「最っ悪だ……」
 酔っぱらって空乃を呼び出した。
 いつも砂羽の恋話を聞いてばかりだった。
 浮かれている時も沈んでいる時さえも砂羽からは恋の喜びが溢れ出ていて。だから、大人げなくも、砂羽に空乃を見せびらかしたくなってしまった。
 そこまではいい。いや、社会人としては良くないが、まだいい。
 その後だ。

「最悪……」
 時間を巻き戻したい。
 セルフ見られて、あいつの手でイかされて、あまつさえ。
 何が、「その、俺も、しようか」だ。
 空乃が断ってくれて本当に良かった。
 昨夜の自分を抹殺したい。ドラえもん、人生やりなおし機を貸してください。
 空乃は毎日朝食を作りに来る。あんな夜の後で、顔を合わせておにぎりを齧るなんて無理だ。
 逃げるように2時間も早く家を出てしまった。
「最悪」
 三回目の呟き。他に言葉が出てこない。
 空乃は切羽詰まったような顔をしていた。タオルケットの中で器用に動いた指。
 最悪、だけど。
 行人は眼鏡を外し、目元を袖で覆った。
 気持ちよかった。
 自分でするよりも、他の誰かにされた時よりも。気持ちよすぎて、どうにかなりそうだった。
 スマホの電子音がラインの受信を告げる。待ち受け画面に表示されたメッセージは空乃からだった。
「ユキ、何時に仕事終わる?」
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