CINDERELLA

もとみ

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茫然自失…まさにそんな気分。

 俺はどっかの低脳ロボットになったみたいに、カタコトの言葉で仕事をしてた。多分俺のしゃべった言葉は全部カタカナだったろう。オキャクサマ、コチラデヨロシイデスカ…カタカタ、みたいな。

アイちゃんにはとてもじゃないけど言えなくて、取敢えずユリちゃんには報告しておいた。最初俺はカタカナで喋ってたからユリちゃんは何を言ってるのかさっぱり分からなかったらしい。


 「本当ですか!?やったー園部さん良かったですね!私も嬉しいです!」

 「俺どうしたら良い!?なんかもう頭が真っ白で俺…」

 「どうって、1つしかありませんよ。園部さんはアカネさんのことが好きなんだし、アカネさんだって園部さんのこと好きなんだし、これって両想いじゃないですか。普通に付き合えば良いんですよ」

 「つ、付き合うっていったって…でもアレ、そういう好きじゃないかもしんないし…単に家に帰らせるための手段だったのかも、とかさ…」

 「そんなことないですよ。絶対違いますって。だって相手の職場でキスなんてしませんよ、普通」

 「キっ…!そ、そうだけどっ!」


 俺はまた恥ずかしくなってきた。思い出すだけでも恥ずかしい。

アカネのキス……。

うわっ、もー駄目!思い出すとヤバイっ!


 「とにかくもう一度会って、ゆっくり話し合ったら良いと思いますよ。絶対良い方向にいきますけどね」


ユリちゃんのにっこり笑った顔が、何だか天使に見えた。ありがとう、ユリちゃん。俺は頑張るよ。今度こそちゃんと、アカネに言う。

 今更だけど、好きなんだって、そう言ってくるよ。
 自分の口から。








レジに向かう前に、アカネが言ってた言葉を覚えてる。
 家で待ってるから必ず帰って来い、と。

だから俺はユリちゃんの家にサヨナラして、自分の家へと帰った。アカネはもう荷物を纏めたかな。そう思っていたけど、実際帰ってみるとそうでもなかった。とはいえ、半分くらいは荷物がなくなってる。それを見て、アカネが出ていくことには代わりがないんだなってことを、俺は実感していた。

アカネの帰宅は、やっぱり遅かった。待つこと2時間、やっぱりいつも通りだ。

ただいまー、と声がしてガチャ、とドアが開いた瞬間、俺の体はビクッとした。昼間あんなことがあったばっかりだから、やっぱり恥ずかしい。だけど何故か、怖いと思うことはなくなっていた。


 「お、居た居たー。ちゃんと帰ってきてくれて良かった。じゃあ…えっと、これだ。はい、これはジュンの分な」


アカネは、帰ってくるなり俺に何かを差し出した。見てみるとそれは、昼間ウチの店で買った携帯ストラップだった。2つって…じゃあ、1つは俺へ渡すために買ったってことか?


 「俺とお揃いな」

 「えっ」

 「あ、何だよソレ。嫌?」

 「ち、違う違う!そんな全然っ!嫌とかじゃなくて…その、なんていうか…あ、ありがと」

 「どーいたしまして。今時サムいとか言うなよ。なんか良いだろ、いつも一緒にいるみたいじゃん。俺そういうの結構好きなんだよなー」

 「へえ…ってオイ!なんかそれ恥ずかしいんですけどっ」

 「そうか?」


アカネの携帯には、既にあのストラップがぶらぶらとぶら下がっていた。ああ、本当にお揃いなんだ…。なんか…良いのかな、俺…。俺はアカネのくれたストラップをまじまじ見てた。アカネとおそろいのストラップ…。


 「なあ、ジュン」


アカネが俺の脇に腰を下ろしてきて、さっきまでとは違って、ちょっと真面目な声を出す。俺はアカネを見て、何だか急に切なくなった。何でだろう。


 「俺、この家を出てくけど、ジュンとはずっと一緒にいたいって思ってる。昼間のことは嘘じゃないからさ。お前を連れ戻すためとか、そういうことじゃないから。ちゃんと、好きだから」

 「そ…そんなこと…」


 恥ずかしさと、切なさが、入り混じってる。何なんだろう、この感覚…良く分からない。嬉しいはずなのに切ないって、どういうことなんだろう。


 「だけど、ジュンのこと女の子だって気づかなくて本当にごめんな。俺って最低な男だよな。気づけよってカンジ。でも、ジュンが女の子だって知ったとき、正直嬉しかったなー」

 「え…なんで?」

 「だってさー。白状するけど、俺、結構悩んでたんだよな。ここ最近ジュンのこと見てるとなんかこうムラムラしちゃってさー」

 「ム、ムラムラ!?」

 「そうそう。だから俺は、自分ってもしかしてバイなのかなって思い悩んでたわけ。もういっそ男でも良いから押し倒そうかとおもったけど、ジュンがトラウマになるかもなーとか思うとそれもできないしさー。ホント困ったぜ、あれは。勃っちゃったよ、どーしよーとか色々…」

 「ちょ、ちょっと…あの、話題が濃すぎるんですけど…」

 「あ。ごめん」


な、なんだそのムラムラって…ちょっと…。俺はクラクラしてしまった。でもそのおかげで、切ないとか思ってた気持ちは薄れたらしい。どっちかというと恥ずかしい気持ちが勝ってしまった。


 「でもま、要するにアレだ。それだけジュンのことが好きってこと。分かった?」

 「…はい」

 「取敢えず俺はそういう気持ちでジュンのこと見てるから。ずっと言えなかったけど、こうやってちゃんと言える日が来て良かった。あの日、園部が来なかったらこんなふうにできなかったかもな」

 「あ!そういえば兄貴…!」


そうだ、すっかり忘れてたけど、兄貴はどうなったんだろう?

アカネに殴りかからんばかりの勢いだったけど、何とか収まったってことなのかな。気になってその辺りを聞いてみると、アカネは問題ないってふうに笑った。その理由を聞いてみると…なるほど。そういうことか。ものすごく納得である。

どうやら、兄貴の彼女というのは、アカネのバンドのファンだったらしい。その彼女にマジ惚れしたウチの兄貴は、友達のアカネに頭を下げて何とか近づけるようにお願いしたという…まさか兄貴にそんなエピソードがあったとは知らなかった。


 「俺はキューピッドだからな。園部が俺のこと殴れるわけないっての。それに俺、実際にジュンに手出してないじゃん?俺には非が無いし」

 「え…でもさ、それってその…兄貴の彼女、アカネのファンだったらさ、今もやっぱり交流があったりすんの?」

 「んーまあ連絡先は知ってるけど、別にわざわざ連絡は取らないかな?それにその子、ファンっていってもヴォーカルのファンだからな。俺のファンってわけじゃないから」

 「なんだ、そっか…」

 「あはは、今ちょっとホッとしただろー?ジュンってホント可愛いなあ」

 「なっ!」


そんなわざわざ口に出さなくても良いのに!
したよ、そりゃしたよ、ホッとしたさ。
だって…。


 「仕方ないじゃん!だって俺…アカネのこと…す、好きだし…」

 「だろ?なー?……って、は!?ちょっと待った、もう一度!」

 「うるさいなっ!何度も言わせるなよ、恥ずかしいじゃん!」

 「だって聞こえなかったしー。いやー残念残念。で、何?ワンスモアプリーズ?」

 「だっ、だから!す…好きだって言ってんだろこのバカーー!!」


 俺は恥ずかしさにまかせてアカネの頭をポカポカ叩いていた。何ていう奇行だよ、俺…よっぽど恥ずかしいじゃん…。だけどアカネは、あはは、って笑ってた。俺のポカポカを避けながら、面白がってるふうだった。


 「そうだよなーだって俺が女連れ込んだとき泣いてたもんな。あれってやっぱ、俺に他の女とやって欲しくないから泣いてたの?」

 「ば、バカじゃないかお前!?そんなこと聞くかよ普通!」

 「いや、だって、何でこんなことで泣くんだろーって思ってたからさ。でももしそうだったらすげー納得。あー惜しかったなあ。やっぱあのままジュンのこと襲ってれば良かったかも」

 「ちょっ!だから何でそーなるんだよ!?」


 何だかもうわけわかんなくなってきた…。なんなんだ、この緊張感の無さは!?ものすごくアカネのこと好きで、こんなことになったらどうしようとか、俺じゃあ絶対無理だとか、すごくすごく悩んでたことがバカみたいに思えてきた。

でも…それもこれも、アカネが俺を拒絶しないでいてくれたからなんだよな。だから俺はこんなふうにいられるんだ。

 俺はやっぱり外見上男っぽくて女の子みたいなとこなんて微塵もなくて、本当に何もないけど、それでもアカネは俺を好きだって言ってくれた。こんな嬉しいことって他にないよ。可愛い子なんてほかにもいっぱいいるし、アカネのこと好きだって思う子だって絶対多いのに、そんな中でこんな俺を選んでくれたんだもんな。

 今でもまだ信じられないけど…でも、嬉しいよ。

 俺が、初めて好きになった人。


 「じゃあ、取敢えずさ。改めて言うけど…俺と付き合ってくれるか?」


ううん、なんて言うわけないじゃん。
 答えは、うん、しか無いよ。




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