龍の檻と青年

はる

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ご飯

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「また、いつでも話しにきてください。
あなたの周りには、気づかないだけで
いっぱいあなたのことを思ってくれる人がいますよ。」

奏多「はい、ありがとうございました。」


ガラガラガラーー

ドアが静かに開いた。

奏多は、ゆっくりと顔を上げた。

目の奥がまだ濡れていた。

手元には握りしめたままのハンカチがあるのに、それを使う気にはなれなかった。

廊下は静かだった。

それでも、そこに“誰かがいる”気配があった。

桐谷「……お疲れ。」

その声に、胸の奥がきゅっと鳴った。

そこにいたのは、桐谷だった。

黒のスーツに身を包み、壁にもたれかかるように立っていた。

片手には自販機で買ったと思われるペットボトルの水。

もう片方の手には、使われていないタバコ。

奏多「……どうして、ここに……?」

桐谷「……一人で行くって言ったけど、どうせ弱い姿を見せたくないだけだろうと思ってな」

「それにお姫様を1人にしておけないだろ?」

奏多はふっと笑った。

喉の奥で詰まった何かが、すこしだけ緩んだ気がした。

桐谷は近づいて、言葉もなく手を伸ばした。

その指がそっと、奏多の目元に触れる。

乾ききっていない涙を、乱暴でなく、丁寧に拭った。

桐谷「泣いた顔、あんまり似合わねえな。」



ぽつんとこぼした言葉といっしょに桐谷は目を細めた。

そして、静かに手を広げた。

桐谷「……こっち、来い。」

奏多は、一瞬ためらった。

でも、心が先に動いた。

桐谷の胸に、そっと顔を埋めた。

スーツの生地越しに伝わる、鼓動と体温。

なにも言わないけれど、確かにそこに“居てくれる”という証明。

奏多「……待っててくれて、ありがとうございます。」

桐谷「当たり前だろ。
お前がどんな顔で戻ってきても、俺はそばにいる。」

その言葉が、心の奥に深く沈んでいった。

静かに、温かく、ほどけるように。

奏多は、桐谷の胸の中でそっと目を閉じた。

それは、涙ではなく、少しの安堵に似た沈黙だった。




桐谷「それじゃ、飯にでも行くか。」






桐谷の行きつけだという小さな定食屋。

奏多『意外だ、、。』

年季の入った暖簾、ほこっとする出汁の香り。

奏多はなんとなく、こういう場所に来たのは久しぶりだった。

桐谷「カウンセリング、そんなに疲れるか?」

席につきながら、桐谷が聞いた。

奏多はメニューを見つめながら、軽く頷いた。

奏多「はい……
言いたくないこと、思い出したくないことを思い出さないといけないから。
話したあとって、すっごくからっぽになります。」

桐谷「でも、顔はさっきより穏やかだな」

奏多「……そう、ですか?」

桐谷「あぁ。ちゃんと、顔が“生きてる”」

奏多は一瞬、何も言えなかった。
桐谷はそんなこと、サラッと言う。

照れ隠しのように味噌汁をすするフリをして、
ほんの少しだけ、目の前の彼を見た。

(……この人は、ちゃんと俺を見てるんだな)

注文した唐揚げ定食が届くと、桐谷はすかさず自分の小鉢を差し出してくる。

桐谷「このひじき、いらねぇからやるよ」

奏多「食べてくださいよ、体にいいんでしょ」

桐谷「お前の方が、栄養足りてねぇよ。ちゃんと食え」

奏多「おじいちゃんみたい……笑」

苦笑しながら、奏多はその小鉢を受け取った。

味は、普通だった。

でも、口に入れると、体がじんわりあったかくなる。

奏多「……誰かと飯食うの、久しぶりかも」

桐谷「誰かって、“信頼できる誰か”ってことか?」

奏多「はい……そうかも」

その言葉に、桐谷は何も言わなかった。
ただ、箸を止めずに、奏多の前に座っていた。

それが、不思議といちばん救われた。

奏多「……美味しいですね、これ」

桐谷「そうか?ここの唐揚げ、下味ちょっと薄いだろ」

奏多「だからいいんです。濃すぎると胃にきます。」

桐谷「お前こそ、じいさんじゃねえか笑」

奏多「桐谷さんにだけは言われたくないです笑」

ふっと、笑い声が漏れる。

桐谷『あぁ、やっぱコイツは笑顔がよく似合う』

隣の桐谷も、目を細めている。

大きくて、ぶっきらぼうで、不器用で。
でも、ちゃんと目を見て話してくれる人。

(この人といると、少しずつ、僕が“人間”に戻ってる気がする)

そう思った瞬間、また胸の奥が少しだけ苦しくなって、それでも、あたたかかった。
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