龍の檻と青年

はる

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躾部屋

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如月が戻ってきて、冷たい空気が張りつめたまま、部屋の中は沈黙に包まれていた。

鎖がかすかに揺れ、金属の音だけが響く。


奏多は視線をそらさず、如月を真っすぐに見つめた。

その瞳には、恐怖よりも反抗の光が宿っていた。

奏多「……こんなことして、楽しいですか。」

声はかすれているのに、不思議と強かった。

奏多「人を縛って、自分が上に立った気でいるだけじゃないですか。」

如月の指がピクリと動く、

ゆっくりと顔を上げ、奏多に視線を向ける。
その目は、笑っていなかった。

如月「……へぇ。」

たった一言。
その低い声が、部屋の空気を一瞬で凍らせた。

如月「言葉が随分、生意気になったな。」

如月の口元がわずかに歪む。

如月「誰にそんな口の利き方を教わった?」

奏多「こんなんだから、桐谷さんに敵うわけがない。」

その返しに、如月は息を吐いて笑った。

だが、それは愉快そうな笑いではなかった。

冷たい、感情の抜け落ちた笑いだった。

如月「……“躾”が必要みたいだな。」

その言葉が落ちた瞬間、空気が一変した。

如月は手錠に手をかけ、金属の留め具を外す。

カチリ、と小さな音がして、

奏多の手首が解放される。

頭が重く、視界が揺れる。

薬の影響か、思考の輪郭が曖昧だった。


だが、

――ここから出なきゃ。

ただその思いだけが、体を動かしていた。


しかし、次の瞬間、如月の手がその腕を掴んだ。

如月「おいおい笑逃げるなよ。」

そう言って、奏多の身体を乱暴に引き寄せる。

抵抗しようとするも、力では敵わない。

強引に引き寄せられ、体勢を崩す。

バランスを失いながら、奏多の背が壁にぶつかった。

奏多「やめろっ!」

反射的に声が出た。

全身に走る恐怖と怒り。

けれど、その奥にあるのは――桐谷を守りたいという必死な願いだった。

如月の目が、笑っていないのに光る。

如月「お前は本当に、面白いな。」

掴んだ手の力が緩むことはない。

奏多は振りほどこうと腕を動かす。

奏多「離せっ! 俺は――!」

言葉の続きは喉の奥で掻き消えた。

扉の向こうの暗闇が、じわりと口を開けるように見えた。

如月はその方向に目を向け、
まるでそこに何かを“見せよう”としているかのようだった。

如月「行くぞ。お仕置きと躾の時間だ。」

冷たく言い放ち、奏多の体を強引に引きずる。

奏多「やめろっ!!!」

叫びが部屋に響いた。
けれど、それを止めるものは誰もいない。

引きずられる音と、奏多の荒い呼吸だけが残る。

部屋の奥にある、あの古びた扉。

錆びた鉄の匂いが、息苦しいほど濃く漂っている。

如月は無言で扉を開き、暗闇の向こうを見やる。

やがて扉が閉まる重い音が、

静寂の中でゆっくりと、すべてを呑み込んでいった。


扉の向こうで、鍵の回る音がゆっくりと鳴る。

閉じ込められた空間の中、
奏多は、冷たい床に倒れたまま、
震える息を必死に整えようとしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

扉が重く閉まる音が、低く響いた。

空気が変わったのが、はっきりとわかった。

冷たく、湿っていて、どこか鼻のつくような鉄の匂いがする。

それは、時間が止まってしまったような空間だった。

乱暴に投げて入れられ、
そのわずかな音さえも大きく跳ね返ってくる。

奏多は息を潜めながら、部屋を見回した。

少し狭い奥行きのある長方形の部屋。

壁はコンクリートで覆われ、無機質な灰色がどこまでも続いている。

天井の中央には、裸電球が一つだけ吊るされていた。

ゆらゆらと頼りなく揺れる光が、
床に映る影を歪め、ゆっくりと形を変えていく。

部屋の端には、古い木の椅子が置かれていた。

座面には乾いた埃が積もっているのに、
まるで「最近、誰かが座った」かのような温もりの気配が、どこかにまだ残っているような錯覚を覚える。

その隣には――なぜここにあるのか分からない、白いバスタブがぽつんと置かれていた。

古く、ひび割れた陶器の縁。
水は一滴も入っていないのに、
照明の光を受けるたびに、それがまるで“影”のように動いた。

上を見上げると、天井から太い鎖が数本、無造作に垂れ下がっていた。

どれも長さが違い、先端は空を切るように揺れている。

風はないはずなのに――かすかに、金属が擦れる音がした。

そして、壁一面に、何かを固定するための鉄具や、刃物類、何に使うのか想像もつかないものまでが並んでいる。

使われていないはずなのに、どれも磨かれたように鈍く光っていた。

床には、かつて何かを引きずったような痕跡があり、錆と埃の中に混ざる黒ずんだ線が、どこか人の形を連想させた。

中央には、冷たい金属製の台。

その上には、無造作に置かれたタオルと、拘束具。

それらが整然としていることが、逆に不気味さを際立たせていた。

奏多「……なんだ、ここ……」

奏多の声が、狭い部屋にこだました。

それはすぐに反響して、自分に返ってくる。

静寂の中で、自分の息遣いがやけに大きく響く。

足元を見れば、床には無数の傷が刻まれていた。

線が交わり、削れ、そして薄く赤茶けた跡がその隙間にこびりついている。

まるで、誰かがここで“暴れた”ような――そんな痕跡。


音のない空間の中で、その沈黙がいっそう異様さを際立たせていた。

如月は部屋の中央に立ち、
何も言わずにその光景を見渡していた。

その横顔は、どこか懐かしむようでもあり、冷ややかでもある。

如月「気に入ったか?」

その一言に、奏多は息をのむ。

奏多「……ここ、なんなんですか。」

如月は小さく笑った。

如月「説明なんていらないだろ。
 見れば分かる。――躾部屋だ。」

奏多の心臓が一瞬で高鳴る。

逃げ場はない。

背後の扉も、鎖の垂れた天井も、

まるでこの空間そのものが“罠”のように閉じている。

光が揺れ、鎖がまた小さく音を立てた。

その音が、まるで――
“次はお前の番だ”と告げているようだった。
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