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1話 死に戻りはこれで最後にすると、決めた。
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「では、明日の式を楽しみにしているよ。バレッタ」
「えぇ、私こそ。アルフレッド様と無事に結婚できること、本当に嬉しく思います」
「僕も同じ気持ちさ。
じゃあ、うちの従者たちに送らせる。彼らは、そこそこの魔法が使えるから、万が一には頼るといい。じゃあ気をつけて帰るんだよ」
「ありがとう。大丈夫よ」
結婚式前日の夜。
婚約者であるアルフレッドの腕の中で交わしたこの会話は、私にとって最後の言葉となるはずだった。
なにせその少しののち。
彼の実家から私の家へと向かっていた馬車が夜襲を受け、乗っていたものはみな殺しにされたのだ。
男も女も身分も関係ない。
全員、消されてしまった。
魔法を扱えるものが数人いたところで、不意をつかれたうえ数で圧倒的に劣れば、どうにもならない。
私も例外じゃなかった。
基礎を覚えた程度の魔法で抵抗するが、風の魔力で鋭利さを増した長槍で胸を貫かれ、ほとんど即死だった。
口やら胸やらから大量に噴き出る血を見るや意識を失い、そのまま命の綱も手放した。
待っているのは、天国か地獄か。
いずれにせよ死後の世界に違いない。
そう思っていたところへ淡い光が差し込む。
その眩しさに重たい瞼を開いてみると、
「気をつけて帰るんだよ」
私の前には、アルフレッドがいた。
それも、さっきと全く同じ台詞を、全く同じ柔らかい表情で彼は述べる。
戸惑った。
でも、それはほんの一瞬だった。
理屈などは抜きにして、体が直感的に理解したのだと思う。
これは死に瀕して幻想を見ているのでも、走馬灯を見ているのでもない。
そこに広がっているのは、たしかな現実だ。
私が変えることのできる世界に違いない。
どういうわけか、私は死に戻ったらしい。
「どうかしたか、バレッタ」
アルフレッドは信頼できる男性だ。
こんな私にたくさんの優しさを分け与えてくれた、最愛の人。
全ての真実を口にして助けを乞えば、わけのわからない話でも信じてくれて匿ってくれるかもしれない。
でもそれじゃあ、頼るだけの婚約者になってしまう。
今までの私は、彼に寄りかかってばかりだった。その優しさに甘え、問題が起きるたび、彼を頼ってきた。
でも明日、彼と夫婦になるにはそれじゃ対等とは言えない。
最後くらい、自分の問題は自分で片付けよう。
「ありがとう。大丈夫よ」
あえて、死ぬ前と全く同じセリフを繰り返す。
けれど、私はよく知っている。
間違いなく、大丈夫ではない未来がこの先に待ち受けていることを。
この胸に今はまだない激しい痛みを、私は知っている。
意識を失うまでの短い時間が永久のように感じられた。
それは、泣いて叫んでも終わりはしない。やめてくれるわけでもない。
痛い、苦しい、憎い、そんな気持ちだけが渦を巻く。
抜け出したいともがけど、待っているのは、終焉だけだ。
体の柔らかいところを鋭いもので抉られるというのは、そういうことに他ならない。
もう金輪際痛いのはごめんだ。
それに、彼と幸せになることは私にとって譲れない。必ず回避してやる。
そう心に決め、私は動き出すのであった。
「えぇ、私こそ。アルフレッド様と無事に結婚できること、本当に嬉しく思います」
「僕も同じ気持ちさ。
じゃあ、うちの従者たちに送らせる。彼らは、そこそこの魔法が使えるから、万が一には頼るといい。じゃあ気をつけて帰るんだよ」
「ありがとう。大丈夫よ」
結婚式前日の夜。
婚約者であるアルフレッドの腕の中で交わしたこの会話は、私にとって最後の言葉となるはずだった。
なにせその少しののち。
彼の実家から私の家へと向かっていた馬車が夜襲を受け、乗っていたものはみな殺しにされたのだ。
男も女も身分も関係ない。
全員、消されてしまった。
魔法を扱えるものが数人いたところで、不意をつかれたうえ数で圧倒的に劣れば、どうにもならない。
私も例外じゃなかった。
基礎を覚えた程度の魔法で抵抗するが、風の魔力で鋭利さを増した長槍で胸を貫かれ、ほとんど即死だった。
口やら胸やらから大量に噴き出る血を見るや意識を失い、そのまま命の綱も手放した。
待っているのは、天国か地獄か。
いずれにせよ死後の世界に違いない。
そう思っていたところへ淡い光が差し込む。
その眩しさに重たい瞼を開いてみると、
「気をつけて帰るんだよ」
私の前には、アルフレッドがいた。
それも、さっきと全く同じ台詞を、全く同じ柔らかい表情で彼は述べる。
戸惑った。
でも、それはほんの一瞬だった。
理屈などは抜きにして、体が直感的に理解したのだと思う。
これは死に瀕して幻想を見ているのでも、走馬灯を見ているのでもない。
そこに広がっているのは、たしかな現実だ。
私が変えることのできる世界に違いない。
どういうわけか、私は死に戻ったらしい。
「どうかしたか、バレッタ」
アルフレッドは信頼できる男性だ。
こんな私にたくさんの優しさを分け与えてくれた、最愛の人。
全ての真実を口にして助けを乞えば、わけのわからない話でも信じてくれて匿ってくれるかもしれない。
でもそれじゃあ、頼るだけの婚約者になってしまう。
今までの私は、彼に寄りかかってばかりだった。その優しさに甘え、問題が起きるたび、彼を頼ってきた。
でも明日、彼と夫婦になるにはそれじゃ対等とは言えない。
最後くらい、自分の問題は自分で片付けよう。
「ありがとう。大丈夫よ」
あえて、死ぬ前と全く同じセリフを繰り返す。
けれど、私はよく知っている。
間違いなく、大丈夫ではない未来がこの先に待ち受けていることを。
この胸に今はまだない激しい痛みを、私は知っている。
意識を失うまでの短い時間が永久のように感じられた。
それは、泣いて叫んでも終わりはしない。やめてくれるわけでもない。
痛い、苦しい、憎い、そんな気持ちだけが渦を巻く。
抜け出したいともがけど、待っているのは、終焉だけだ。
体の柔らかいところを鋭いもので抉られるというのは、そういうことに他ならない。
もう金輪際痛いのはごめんだ。
それに、彼と幸せになることは私にとって譲れない。必ず回避してやる。
そう心に決め、私は動き出すのであった。
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