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2話 私と妹と劣等感
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♢
襲撃犯の正体は、わかっていた。
そもそも私の周りには、明白な敵がいたのである。
それは異母妹であるエライザ・レニスだ。
幼い頃から私は、彼女と比べられては劣等感を覚えさせられ続けてきた。
『あぁ、妹のエライザ様は可愛らしい顔立ちで愛嬌もあるというのに。バレッタ様は、なんて平凡……いいえ、それ以下のお顔なんでしょう』
『しっ、聞かれたら首が飛ぶわよ! でもまぁ、平民や下人の中に混じってても分からないレベルよねぇ』
昔から何度、周りの貴族からこんな評価を聞いたことか。
本人からも、何度も馬鹿にされてきた。
姉妹と思われたくないから、近寄るなと手を払われ目をすがめられたことさえある。
たぶん、流れる血からして違うのだろう。
エライザは、身分こそ低いが容姿の美しい側室の子である。
幼い頃から私より容姿端麗で、そのぶん、周りから愛されやすい少女だった。
父であるレニス公爵も、彼女のことを明らかに溺愛していた。
他の兄弟たちと比べても、その愛情の注ぎ方は異常だった。
そして、醜い私には逆にほとんど向けられなかった。
私の母が既に亡くなっていたということもあろう。
構ってやる理由がなかったのかもしれない。
子供だった私は、それが不服で仕方なかった。
ただ、私は僻むだけで終わるような性格ではなかったらしい。
そこから愛されるための努力を始めた。
身だしなみや所作、言葉遣いを必死に学び、令嬢としてふさわしい振る舞いをするよう常に心がけた。
もちろん、美しさの追求も例外ではない。
綺麗になるため化粧の技術や、身体のラインを美しく見せる工夫を、使用人のメイドから教わって磨き上げた。
「エライザ様と変わらぬくらいに美人になられて!」
だなんて、社交の場で褒められるまでになったのだけど。
努力むなしく、父の愛はやはりエライザだけに注がれ続けた。
そればかりか、
「妙なことはやめろ、バレッタ。お前の美しさは所詮、作りものだろう。エライザとは違う」
こう断じられてしまった。
以来、化粧道具などの諸々を取り上げられた私は、再び不細工令嬢と蔑まれるようになった。
まるで見せ物のように、嘲笑われる。
家の中でも、その扱いは変わらない。
妹・エライザだけが、宝のように大事にされ、お姫さま扱いを受けていた。
私にはほとんど発言権もないのに、エライザの願いはその大体が聞き入れられる。
成長して婚約話が出るような歳になっても、それは全く変わらなかった。
彼女は、見目も身分も麗しい結婚相手を求め、父はそのために奔走した。
彼が取り付けた中には、王子や地方辺境伯子息との縁談もあったと言う。
一方の私は、エライザよりふたつ上の歳ということもあった。
その頃には既に、アルフレッドとの婚約が決まっていた。
むろん、私にはなんの発言権もなく、決定事項として突然に与えられたのだ。
アルフレッドは、ソリアーノ公爵家の第七子息である。
家柄こそ高いが、その中での序列は低い。
たぶん私の残念な容姿を鑑みて、ちょうど釣り合うと考えられたのだろう。
結婚は、家のためにするもの。
そう思っていた私は、特に反抗することもなくその縁談を受け入れた。
むしろ、向こうから断られないかが心配だった。
私にあるのは、公爵家の長女だと言うこの身分だけ。
他のものはなにも持ち合わせていないし、誇れるような妻には、きっとなれっこない。
これまで蔑まれ続けて生きてきたせいだろう。
わずかの自信すら持たなかった私は、たぶん全く可愛げがなかった。
心を閉ざし殻に閉じこもった、お世辞にも見目の良くない令嬢。
厄介な存在でしかなかったろう私を変えたのは、
「あなたと、ちゃんと話をしてみたい。ずっとそう思っておりました」
婚約者アルフレッドの包み込むような優しさであった。
襲撃犯の正体は、わかっていた。
そもそも私の周りには、明白な敵がいたのである。
それは異母妹であるエライザ・レニスだ。
幼い頃から私は、彼女と比べられては劣等感を覚えさせられ続けてきた。
『あぁ、妹のエライザ様は可愛らしい顔立ちで愛嬌もあるというのに。バレッタ様は、なんて平凡……いいえ、それ以下のお顔なんでしょう』
『しっ、聞かれたら首が飛ぶわよ! でもまぁ、平民や下人の中に混じってても分からないレベルよねぇ』
昔から何度、周りの貴族からこんな評価を聞いたことか。
本人からも、何度も馬鹿にされてきた。
姉妹と思われたくないから、近寄るなと手を払われ目をすがめられたことさえある。
たぶん、流れる血からして違うのだろう。
エライザは、身分こそ低いが容姿の美しい側室の子である。
幼い頃から私より容姿端麗で、そのぶん、周りから愛されやすい少女だった。
父であるレニス公爵も、彼女のことを明らかに溺愛していた。
他の兄弟たちと比べても、その愛情の注ぎ方は異常だった。
そして、醜い私には逆にほとんど向けられなかった。
私の母が既に亡くなっていたということもあろう。
構ってやる理由がなかったのかもしれない。
子供だった私は、それが不服で仕方なかった。
ただ、私は僻むだけで終わるような性格ではなかったらしい。
そこから愛されるための努力を始めた。
身だしなみや所作、言葉遣いを必死に学び、令嬢としてふさわしい振る舞いをするよう常に心がけた。
もちろん、美しさの追求も例外ではない。
綺麗になるため化粧の技術や、身体のラインを美しく見せる工夫を、使用人のメイドから教わって磨き上げた。
「エライザ様と変わらぬくらいに美人になられて!」
だなんて、社交の場で褒められるまでになったのだけど。
努力むなしく、父の愛はやはりエライザだけに注がれ続けた。
そればかりか、
「妙なことはやめろ、バレッタ。お前の美しさは所詮、作りものだろう。エライザとは違う」
こう断じられてしまった。
以来、化粧道具などの諸々を取り上げられた私は、再び不細工令嬢と蔑まれるようになった。
まるで見せ物のように、嘲笑われる。
家の中でも、その扱いは変わらない。
妹・エライザだけが、宝のように大事にされ、お姫さま扱いを受けていた。
私にはほとんど発言権もないのに、エライザの願いはその大体が聞き入れられる。
成長して婚約話が出るような歳になっても、それは全く変わらなかった。
彼女は、見目も身分も麗しい結婚相手を求め、父はそのために奔走した。
彼が取り付けた中には、王子や地方辺境伯子息との縁談もあったと言う。
一方の私は、エライザよりふたつ上の歳ということもあった。
その頃には既に、アルフレッドとの婚約が決まっていた。
むろん、私にはなんの発言権もなく、決定事項として突然に与えられたのだ。
アルフレッドは、ソリアーノ公爵家の第七子息である。
家柄こそ高いが、その中での序列は低い。
たぶん私の残念な容姿を鑑みて、ちょうど釣り合うと考えられたのだろう。
結婚は、家のためにするもの。
そう思っていた私は、特に反抗することもなくその縁談を受け入れた。
むしろ、向こうから断られないかが心配だった。
私にあるのは、公爵家の長女だと言うこの身分だけ。
他のものはなにも持ち合わせていないし、誇れるような妻には、きっとなれっこない。
これまで蔑まれ続けて生きてきたせいだろう。
わずかの自信すら持たなかった私は、たぶん全く可愛げがなかった。
心を閉ざし殻に閉じこもった、お世辞にも見目の良くない令嬢。
厄介な存在でしかなかったろう私を変えたのは、
「あなたと、ちゃんと話をしてみたい。ずっとそう思っておりました」
婚約者アルフレッドの包み込むような優しさであった。
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