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2章

30話 レンタル冒険者、推理力まで一流だとベタ褒めされる。

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パン屋から出てきてすぐの、ミリリを呼び止める。

にまにまと、チーズフォッカチャを立ち食いしていた彼女だったが、俺が現状を整理すると、

「…………えぇ、えぇ!? でも、クエストは明日だって聞いてたよ!?」

それを落としてしまった。
よっぽどショックが大きかったらしい。

いつもなら、「チーズちゃん! 食べてあげられなくて、ごめんよぉ~」なんて泣いていそうな場面だが、見向きもしなかった。

「どうするのっ。ソフィアちゃん、もう遠くにいるんだよね?」
「あぁ、そうらしい。探知魔法が届かない範囲だから、少なくともこの街の外だ」
「よーし、じゃあ外へゴーするしかないねっ」

いやいや、それはアバウトすぎる。
俺は既に前のめりになっていたミリリの襟を、くいっと引っ張った。

「外ってどこだよ、範囲が広すぎるって。せめて方角くらい定めないと無駄足になるだろー」
「そっか、それもそうだね……。じゃあ、えっと、聞き込みとか?」
「いいな、それ。早速やろうか」

すぐに街ゆく人を捕まえては、目撃情報を得んとする。

最近は、レンタル冒険者としての名も知れてきているらしい。
たくさんの人が、こころよく協力してくれた。

そうして掴んだサンタナの足取りは、こうだ。

魔法具屋で、防寒アイテムを買ったのち、携帯型の食料を購入。
正確には、乾パンの類のみを購入していったらしい。

「ふむふむ、ミリリ探偵にはさっぱりだよ。ヨシュアは?」
「分かったかもしれない」
「えっ、すごっ。本当に探偵さんだっ!?」

あくまで推理であるが、サンタナをよく知っていることもある。
ある程度、自信もあった。

「北の方角にあるダンジョン、ノースリバーサイドじゃないかな」
「防寒具買ってたから、寒いところだろうってこと?」
「それだけじゃない。乾パンをわざわざ買うということは、途中に町を通らないルートだろうなと思ってさ。
 それから、もう一つ」
「そ、それは一体!?」

ミリリが唾を飲む音が聞こえる。

「乾パンしか買わなかったってことは、水は買ってない。つまり、豊富に手に入る場所だってことだよ。
 あいつらに、水魔法を使える奴はいないしな」

普通、魔法属性は一人に一つだ。
サンタナは火、ソフィアは風、ルリは光である。俺が、水属性を担っていた。

「……鳥肌たったかも、私。しかも、アイシングドラゴンがいそうな場所でもあるし!

 すごい、見事だよっ! 芸術だよ! レンタル探偵事務所気付けるレベルのそれだよっ」
「あんまり褒めると調子乗るぞー?」
「少しは乗っちゃいなって。ヨシュアは控えめすぎなんだよ」

そんなわけで、向かう方角が確定する。

前回たるサーニャの時の反省を生かして、今回はちゃんと承諾を得た上で、お姫様抱っこ。

「め、めっちゃ目立たない!? これ!? 嬉しいような恥ずかしいような、やっぱり嬉しいような、そんな感じなんだけど!!」
「大丈夫だっての」

どうせ、屋根の上をトップスピードで駆ければ、視認されることもあるまい。

風魔法に加え特殊スキル『俊敏(高)』を駆使して俺は、怒涛の追い上げを開始した。

「……ノースリバーサイドって、普通、馬でも半日かかる距離だよね?」
「あー、そうなんだ?」
「そうなのったらそうなの! この調子じゃ、一時間も掛からないんじゃない!?」

緊急事態である。

首につけていた魔力抑制ネックレスは外していた。
『平均』でいるためのリミッターを完全に解除してあった。

サンタナの悪行をいましめるため。そしてなにより、ソフィア、ルリを救うためだ。

手抜きなど出来てしまえば、それは嘘というものだろう。
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