【完結保証】ダックダイニング店舗円滑化推進部 ~料理は厨房だけでするものじゃない!~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】

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四章 スーパーバイザーとして

67話 カロリー摂取はもう十分やん!

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「どうだった、後輩? 数年ぶりに入った自分の部屋は」

店へ戻ると、鴨志田は鯛の切り身を箸で摘んでいるところだった。『鯛の香草焼きあんかけ』、木原食堂の提供する献立の中では高級な部類のものだ。

さらに、『豚の角煮』『牛すじの煮物』『いかなご釘煮』と、母がおかずを運んでくる。

「この鯛、餡に野菜が程よく溶け込んでますね。滲み出た旨みも逃げてません。それに、薄口醤油の塩味加減が、よくなじんでます。柔らかめのお米が合うかもしれません」
「よかったわ~。最近、濃口にしようか迷ってたのよ。どんどん食べてね」

さっきは世話になれないなどと殊勝なことを言っていたのに、大歓待を受けているではないか。

「鴨志田さん……、あなたって本当」
「勘違いするな。親父さんに、味を見てほしいって頼まれたんだよ。おっ、角煮はしっかり味が染みてそうだな」
「うちの角煮は、圧力鍋使ってないので、かけた時間の分だけとろとろなんですよ!」

希美は、層の解けかけた豚肉を見つめ、唾を飲む。

鴨志田は箸で小さく切って、白米へと乗せた。
濃厚なタレが米の隙間へと染み渡っていくのを見ていたら、我慢できなくなっていた。母が問う。

「希美も食べる?」
「食べるっ!!」

四年ぶりに、希美は『木原食堂』の客席についていた。

鴨志田の隣に腰を下ろす。

お茶碗をもらうと、迷わず角煮へ箸を伸ばす。

「俺のおかずだって。それは食い意地張りすぎだろうよ、後輩」
「鴨志田さんが煽るからですよ!」
「それにしても、いい顔になったな」
「涙と食い意地で、ぐちゃぐちゃで悪かったですよ!」

希美の食欲と勝負するかの如く、料理が次々に出てくる。
いわゆる「おふくろの味」を堪能していたら、出てきたしょうが焼きは、少し風味が変わっているように感じた。

「自然な甘みがする。はちみつ? あと、この後味は麹……?」
「美菜のアレンジなの。より健康的なものを、って捻り出したんだってさ」

調理人は、母の背中に隠れるようにして、希美の反応を盗み見ていた。

わざとなにも言わず、米を頬張ることにした。昔、希美の料理を食べた美菜が、美味しいという代わりに、こうしていたのだ。

美菜が小さく拳を突き上げたのを目の端に見て、希美は思わず微笑んだ。

彼女がいれば、『木原食堂』の将来はきっと安泰だ。
いつか本当に、近畿一うまいごはん屋さんになるかもしれない。

「今日はどうする。ここに泊まっていくか? それなら、俺は近くのホテル取るけど」

食後になって、鴨志田が希美に聞く。

「でも明日も仕事ありますよね」
「まぁそうだな。でも気にしなくてもいいよ。一応、代役は立ててあるから」

代役? 一体誰のことだろう。

とにかく、自分都合で人に迷惑をかけるのはよくない。

それに今ならば、昨日よりたしかに、自分と向き合える気がしていた。

「帰りましょう、東京!」
「……そう言うと思ってた。残念だなぁ、兵庫観光でもして行こうと思ってたのに」
「思ってもないこと言わないでくださいよ」

「ちょっとは本音だっての。いくらドライブ好きでも、一日中走りっぱなしはカロリーがごっそりいかれる」
「もう十分摂取しとるやん!」

二人のやりとりを聞いてだろう。母が吹き出しすように笑っていた。

駐車場まで家族総出で見送ってもらう。

「頑張っておいで」と涙を見せる母に、「またすぐ帰るよ」と告げた。

嘘にしないためにも、目指すは、東京の街だ。

明日も早いし、きゅーちゃんも待っている。

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