無能の少女は鬼神に愛され娶られる

遠野まさみ

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無能の少女

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「名無し! なにぐずぐずしてるんだい! 掃除は日が昇りきるまでに終わらせなっていつも言っているだろう!」

山の稜線が金色に輝き、邑に陽が差し始めた頃、咲(さき)は母である市子に鞭で打たれた。痛みに、持っていた膳を落としてしまう。

「すみません、お母さま」

咲が謝罪すると、また一閃、鞭が飛んだ。

「奥さまとお言い、といつも言っているだろう! 何度言っても言い間違えるお前は、本当に馬鹿で愚図だね! まったく、破妖の力のないお前みたいな役に立たないお荷物を養ってやってるんだから、もうちょっと感謝の気持ちを持って働くべきなのに、畑仕事も水仕事も、牛の世話も不出来と来ては、お前に食べさせる食事が無駄に思えてくるね!」

ピシッとまた一閃。袖から出ているがりがりの腕に赤い傷跡が出来る。うっ、と思うが、声には出さず、堪える。鞭を両手で持った市子が煌びやかな紅の着物の袂を払うと、鼻息を荒く吐いた。紅はこの時代において高価な品。それを身にまとえるだけの収入を、市子たち家族は破妖の仕事の対価として、邑人から得ていた。

「ああ、全くかわいげのない。泣いて謝罪でもしたら、鞭を緩めてやらないこともないのに」

忌々し気に市子はそう言うが、物心がつくまでの間、それをやっていたら、余計に折檻が酷くなった。つまり市子にとって咲は、存在するだけで鬱陶しい存在であり、なにをどうしたって、鞭は飛ぶのだ。

「申し訳ありません、奥さま」
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