無能の少女は鬼神に愛され娶られる

遠野まさみ

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無能の少女

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「ふんっ! お前の今日の食事は抜きだよ! ぐずぐずしていた罰だ! 今から邑長(むらおさ)がやってくる。長の話はきっと破妖に絡む話だ。同じ血筋なのに破妖の才のない無能のお前は、我が家のお荷物でしかないんだから、せめてあたしらがお腹いっぱい食べられるように、食事をいっぱい用意するんだ。お前の分まで働いてくるあたしたちを労う気持ちで作るんだよ!」

「はい、かしこまりました」

咲が頭を下げると、市子は妹と父を呼びに行く。直ぐに妹の芙蓉が現れた。芙蓉は豪奢な絹をまとい、咲の腕の赤いあざを見ると、あざけるように笑った。

「名無し。お母さまの声が聞こえたけど、本当にお前は使えないのね。全く私と同じ血縁であるなんて思えないくらいの、無能さ。そのくせ、そのみすぼらしいなりで私の目の端に入る図々しさだけは、あるなんて、いっそ清々しいわ。本当に、私とお前があねいもうとであることの事実は、許しがたい天の采配だと、私思っていますわ」

芙蓉は父母の咲に対する扱いを学んで、咲を敬おうとする気持ちを持たなかった。家族のお荷物である限り、仕方ないのかもしれない。

「申し訳ありません」

「本当に申し訳ないと思ってるの? だったら、この家から出て行ってくれればいいのに。そうしたら、お父さまもお母さまも私も、みんな、無能で何も出来ないお前の世話をしなくてもよくなるもの。破妖の仕事だって、昔から私たち三人でして来たんだもの、今更名無しが居なくなったって、私たち、なんにも困らないわ」

芙蓉の言葉に、何も言い返せない。黙って俯いていると、芙蓉はあっという間に咲に関心を失くして、咲が項垂れる前を通り過ぎて行った。きっと、邑長が待つ広間に行ってしまったのだろ。はあ、とため息が零れるが、それすら息の無駄遣いのような気がした。

家に居ても役に立たない為、咲は邑外れの畑に来た。ここの畑は結界が近いために邑人は使いたがらず、安値で両親が借り上げた。この畑を世話するのは咲一人で、家族が手を入れることはない。畑は、時に天候にも左右されるが、おおよそ咲が手を入れただけその成果を咲に見せた。故にこの場所は、咲の心の拠り所のような意味合いも持っていた。

母たちに出す献立を考えながら、植えて合った根菜を抜いていく。葉物も少し、と思って視線を移したところで、視界に入る、黒い薄靄のようなものがふたつ、あった。朧(おぼろ)だ。
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