3 / 31
無能の少女
(2)
しおりを挟む
「ふんっ! お前の今日の食事は抜きだよ! ぐずぐずしていた罰だ! 今から邑長(むらおさ)がやってくる。長の話はきっと破妖に絡む話だ。同じ血筋なのに破妖の才のない無能のお前は、我が家のお荷物でしかないんだから、せめてあたしらがお腹いっぱい食べられるように、食事をいっぱい用意するんだ。お前の分まで働いてくるあたしたちを労う気持ちで作るんだよ!」
「はい、かしこまりました」
咲が頭を下げると、市子は妹と父を呼びに行く。直ぐに妹の芙蓉が現れた。芙蓉は豪奢な絹をまとい、咲の腕の赤いあざを見ると、あざけるように笑った。
「名無し。お母さまの声が聞こえたけど、本当にお前は使えないのね。全く私と同じ血縁であるなんて思えないくらいの、無能さ。そのくせ、そのみすぼらしいなりで私の目の端に入る図々しさだけは、あるなんて、いっそ清々しいわ。本当に、私とお前があねいもうとであることの事実は、許しがたい天の采配だと、私思っていますわ」
芙蓉は父母の咲に対する扱いを学んで、咲を敬おうとする気持ちを持たなかった。家族のお荷物である限り、仕方ないのかもしれない。
「申し訳ありません」
「本当に申し訳ないと思ってるの? だったら、この家から出て行ってくれればいいのに。そうしたら、お父さまもお母さまも私も、みんな、無能で何も出来ないお前の世話をしなくてもよくなるもの。破妖の仕事だって、昔から私たち三人でして来たんだもの、今更名無しが居なくなったって、私たち、なんにも困らないわ」
芙蓉の言葉に、何も言い返せない。黙って俯いていると、芙蓉はあっという間に咲に関心を失くして、咲が項垂れる前を通り過ぎて行った。きっと、邑長が待つ広間に行ってしまったのだろ。はあ、とため息が零れるが、それすら息の無駄遣いのような気がした。
家に居ても役に立たない為、咲は邑外れの畑に来た。ここの畑は結界が近いために邑人は使いたがらず、安値で両親が借り上げた。この畑を世話するのは咲一人で、家族が手を入れることはない。畑は、時に天候にも左右されるが、おおよそ咲が手を入れただけその成果を咲に見せた。故にこの場所は、咲の心の拠り所のような意味合いも持っていた。
母たちに出す献立を考えながら、植えて合った根菜を抜いていく。葉物も少し、と思って視線を移したところで、視界に入る、黒い薄靄のようなものがふたつ、あった。朧(おぼろ)だ。
「はい、かしこまりました」
咲が頭を下げると、市子は妹と父を呼びに行く。直ぐに妹の芙蓉が現れた。芙蓉は豪奢な絹をまとい、咲の腕の赤いあざを見ると、あざけるように笑った。
「名無し。お母さまの声が聞こえたけど、本当にお前は使えないのね。全く私と同じ血縁であるなんて思えないくらいの、無能さ。そのくせ、そのみすぼらしいなりで私の目の端に入る図々しさだけは、あるなんて、いっそ清々しいわ。本当に、私とお前があねいもうとであることの事実は、許しがたい天の采配だと、私思っていますわ」
芙蓉は父母の咲に対する扱いを学んで、咲を敬おうとする気持ちを持たなかった。家族のお荷物である限り、仕方ないのかもしれない。
「申し訳ありません」
「本当に申し訳ないと思ってるの? だったら、この家から出て行ってくれればいいのに。そうしたら、お父さまもお母さまも私も、みんな、無能で何も出来ないお前の世話をしなくてもよくなるもの。破妖の仕事だって、昔から私たち三人でして来たんだもの、今更名無しが居なくなったって、私たち、なんにも困らないわ」
芙蓉の言葉に、何も言い返せない。黙って俯いていると、芙蓉はあっという間に咲に関心を失くして、咲が項垂れる前を通り過ぎて行った。きっと、邑長が待つ広間に行ってしまったのだろ。はあ、とため息が零れるが、それすら息の無駄遣いのような気がした。
家に居ても役に立たない為、咲は邑外れの畑に来た。ここの畑は結界が近いために邑人は使いたがらず、安値で両親が借り上げた。この畑を世話するのは咲一人で、家族が手を入れることはない。畑は、時に天候にも左右されるが、おおよそ咲が手を入れただけその成果を咲に見せた。故にこの場所は、咲の心の拠り所のような意味合いも持っていた。
母たちに出す献立を考えながら、植えて合った根菜を抜いていく。葉物も少し、と思って視線を移したところで、視界に入る、黒い薄靄のようなものがふたつ、あった。朧(おぼろ)だ。
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
翡翠の歌姫-皇帝が封じた声【中華サスペンス×切ない恋】
雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に巻き込まれる【詳細⬇️】
陽国には、かつて“声”で争い事を鎮めた者がいた。田舎の雪国で生まれ育った翠蓮(スイレン)。幼くして両親を亡くし孤児となった彼女に残されたのは、翡翠の瞳と、母が遺した小さな首飾り、そして歌への情熱だった。
宮廷歌姫に憧れ、陽華宮の門を叩いた翠蓮だったが、試験の場で早くもあらぬ疑いをかけられる。
その歌声が秘める力を、彼女はまだ知らない。
翠蓮に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。
誰が味方で、誰が“声”を利用しようとしているのか。歌声に導かれ、三人は王家が隠し続けてきた運命へと引き寄せられていく。
【中華サスペンス×切ない恋】
ミステリー要素あり/ドロドロな重い話あり/身分違いの恋あり
旧題:翡翠の歌姫と2人の王子
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる