無能の少女は鬼神に愛され娶られる

遠野まさみ

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少女は愛され娶られる

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「馬鹿言ってんじゃない! こんな痩せた土地の邑でせせこましく暮らしてて、なんになるんだい! あたしたちはみんなの為にやってるんだ。邑から追い出したお前が意見すべきところじゃない!」

市子が叫ぶ後ろの結界の傍で、光の粒が立ち上り始める。朧が生まれてきているのだ。

(この強欲さが、朧を生んで、悪鬼に変えていたんだ……。だから私は夜だけじゃなくて、昼間にも朧に出会っていたんだ……)

家族の言葉が行きつくところを理解した咲は、市子に向かって叫んだ。

「だからって言って、約束を破って良いの!? お母さまたちが生み出した悪鬼を手に掛けて辛かった人だっているのに! 朧だって、悪鬼になって狩られるなんて嫌だったと思うのに!」

咲が叫ぶと、抱き付いていた芙蓉が力任せに咲を地面に叩きつけた。もともと健康に育っていた芙蓉にとって、いっとき食に満足していただけの咲を力任せにすることなど、造作もないことだった。

「うるさいわね! そんなにあやかしの力になりたいなら、今度こそあいつらに食われておしまい! あいつらは人間を食えば満足するわ! お前が食われることで、何ヶ月かは結界が脅かされずに済むから、お前も私たちも万々歳よ!」

芙蓉の言葉に、そうだ、それが良い、と市子が乗り出してきた。市子の強い力で地面にねじ伏せられ、あやかしがそそられるように芙蓉が咲の頬に飛刀で傷をつけた。

「ふふふ。血のにおいにそそられて、あやかしたちがお前を食いつくしてくれるでしょうね。私たちは今度こそ、鬱陶しいお前の断末魔を見届けてあげる。ほら、見なさい。もう匂いにつられて、大物が出てきたわよ」

芙蓉の視線の先を見ると、朧たちの透明な体が濁りはじめ、小さな光の粒がいくつも合わさって、どんどん大きな影に育っていた。朧が生まれて来ていたのに救えなかった現実が、咲の胸を突く。

「あはははは! あやかしに同情するお前があやかしに食われるさまは、これ以上ないくらい滑稽だわね!」

「そいつらが大人しくなっている間に、あたしたちはまた結界をひろげることが出来る! 今まで生かしてやった恩を、ちゃあんと返すんだよ、名無し!」
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