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深雪先輩の章
第6話 深雪先輩を拉致ってしまいました♥️
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(これまでのあらすじ……)
とある中学校に侵入したわたしは、女子更衣室代わりに使用されている空き教室で、思い焦がれる先輩女子の制服を抱きしめる可愛い美少年を見つけたのでした。一方で、学校での話題はやはりテニス部事件でした。そして、そこに今回の主役となる深雪先輩が登場いたしました。
**********
翌日の日曜日の昼下がり、中学校の校舎には、生徒も教師も、誰一人おらず、常日頃の喧騒がまったく嘘のように、不自然なほどに深閑として静まり返っていました。
今日に限ってなのか、グラウンドにも、体育館にも、そしてテニスコートにも、部活動をする生徒の姿はまったく見えませんでした。ひっそりと静まり返った無機質なコンクリートの建築物のみがそこに端然と佇立していたのでした。
しかしながら、厳密には、そこはまったくの無人ではありませんでした。北側校舎の3階、最上級生である3年生の教室が並ぶこのフロアの端、3年4組の教室に一人の少女がぽつんと椅子にもたれて座っていました。
教室の机と椅子は、放課後の掃除の時間ででもあるかのように、すべて後ろに押し片付けられて、少女が座る椅子のほかには、少女の隣に机がひとつあるだけでした。なぜか、その机の上にはかなり大きなダンボールの箱がひとつ置いてありました。
そのガランとした教室の中で、意識を失っているかのようにも見えるその少女は、プリーツがきちんと揃えられた制服のスカートの裾を綺麗に整え、ブレザーの制服を端正に着こなし、膝の上に両手を添えて、姿勢を正して美しく座っていました。
僅かにその愛らしい顔を前にかがめていることで、彼女に意識がないであろうことがうかがえました。
しかし、今まさに少女は目覚めようとしていました。
(……あれ、ここは……教室? ……学校? )
(……どうして、わたし、ここに……えっ……身体が……動かない……え? 何で、何で! )
(……誰か……えっ! ……声も! 声も出ない! ……ぃやっ、誰か……誰か助けて! )
(こ、これ……夢? )
紺ブレザーの制服姿で椅子に座っている少女は、ショートヘアで、天然っ気のくせっ毛が可愛いらしいカールになっており、とてもチャーミングな女子生徒でした。
二重まぶたの瞳は大きめのパッチリな目、小さいながらも鼻筋の通った可愛い鼻、ふっくらした愛らしい頬、小さく整った可愛い唇、小柄な身体ながらも印象の強い美少女です。
「気がついた? ……深雪ちゃん。」
わたしは制服姿のまま、中岡優子の容貌で深雪の前に立ちました。深雪にとっては隣の3組のクラスの友人でもある、親友の中岡優子にしか見えません。
まさか、これが女装魔法使いの変身した姿であろうとは、今の深雪には想像の埒外であったでしょう。
(えっ、優子? 優子だよね? ……えっ、何? )
少女は、そこに親友の姿を見つけ、心の中で助けを求めます。
(……優子、お願い、助けて、わたし、身体が動かないの……声も……出ない……。)
少女の必死な思いとはウラハラに、少女の体は人形のように固まったまま、指先ひとつ動かすことも、何も彼女の意のままになりませんでした。
目覚める前に僅かにうつむいていた顔のみが、いつの間にか端然と前を見据える角度に戻った事以外、あとは見事なまでに微動だにしない姿勢を保っていました。
**********
わたしは、少女の右側に周り、左腕で少女の肩を抱きました。そして、左の頬を少女の右頬に当ててなつくようにこすります。少女の甘い香りがわたしの鼻腔に漂ってきて、わたしの官能を誘います。
「深雪ちゃん、怖がらなくていいの。誰も深雪ちゃんをいじめたりしないわ。それどころか、わたしの大好きな深雪ちゃんを心から気持ちよくしてあげる。」
(なに、優子……意味わかんない……わたしをどうする気! )
わたしはひとしきり深雪の柔らかい頬の感触を楽しむと、左腕を肩から頭に回し、その綺麗にカールしている髪の毛の匂いを嗅ぎます。ほのかな少女の香りにリンスの爽やかな香りが加味されて、わたしの顔は心地よい臭気に包まれます。
「ちょっと混乱しているようね。……大丈夫、怖くないから心配しないで……。」
教室の中では、可愛い制服の少女二人が戯れているようにしか見えません。まさか、そこにとらわれの少女がいるとは、とてものこと見えません。
でも、ご安心ください。わたしは少女の嫌がることを手荒に強いるつもりはございません。わたしは、少女に新たな喜びを与え、なおかつ、少女をより美しく羽化させてあげたいだけなのですから。
**********
わたしは、少女から身体を離すと、少女の視線から見えるように、笑顔を向けました。
「まず、深雪ちゃんに紹介してあげたい子がいるの。会ってくれるかな? 」
(え? な、なに、優子、本当にどうしたの? おかしいよ、……それにわたしに「ちゃん」付けなんて、変だよ。本当にあなたは優子なの? )
わたしはいたずらな笑みを浮かべて少女に語りかけ、そして、背後のドアに向けて声をかけました。
「いいわよ……、さあ、入ってきて……。」
そのわたしの声に誘われて、一人の制服を着た少女が、カラカラと引き戸を開けて教室に入ってきました。
白ブラウスに紺のベストと紺のプリーツスカートという、この学校の女子制服の衣装をまとったその少女は、顔をややうつむき加減にしたまま、静かに深雪に近づいてきました。
そして、深雪の正面に来ると、恥ずかしそうにちょっと頬を赤らめながら微笑み、両手を前に添えて丁寧にお辞儀をしました。
その女子は深雪の目にも、とても可愛い女生徒に見えました。こんな子がうちの学校にいたろうかと訝しい思いで深雪は見つめ続けました。
(誰だっけ? 3年じゃないのは分かるから、下級生なのは間違いないし、……見おぼえがあるような気もするんだけれど……でも、何か……へん。妙な違和感もあるし……。)
深雪には、見覚えのない筈のその女子には、どこか初対面ではない不思議な感じがしたのでした。
(でも、どこで……? )
少女の瞳、唇、鼻、耳……短めの髪にはカチューシャをかけていましたが、ちょっとボーイッシュなその少女をまじまじと見ていた深雪は、全体を眺めわたしたあと、あらためてその少女の瞳を見つめました。
目の前の少女も、やや顔を伏せ加減に上目使いをしながら深雪を見返しました。
二人の視線が絡み合ったその刹那、深雪は大きな驚きを受けました。その瞳、容貌に見覚えのある人物が彼女の頭の中に浮かび上がりました。でも、そんな筈はありません。ありえないのです。なぜなら、その子は1年生の男の子だからです。
(えっ! まさか、ヨ……ヨシくん? ……1年のヨシくんよね! ……何? ……何が起きているの! ……ヨシくん、女子の制服なんか着て……いったい、どうなっているの? )
深雪は、目の前の少女が見知った下級生であることを確信するとともに、その異常な姿に驚愕しました。
(優子! 優子! 何がどうなっているの! ……それに、わたし、どうしちゃったの! ……助けて! 優子! )
しかし、深雪の親友である筈のその少女は、まったく助けてくれそうな素振りもありません。深雪にはじわじわと絶望感のみが広がってきます。
相変わらず深雪は人形のように眉ひとつ動かせません。わたしは、椅子に座る深雪の視野に入るように、その可愛く美しい女装少年の横に近づきました。
「ふふっ、どうやら深雪ちゃんにもこの子が誰か、すぐに分かったようね。」
そして、わたしは、腕を回して女装少年の肩を軽く抱いてあげました。するとどうだろう、女装少年は小首を傾げて甘えるようにわたしに身体を預けてきました。
「この子ね、男の子なのに、女の子になるのが、とっても好きなの。……それに、わたしに色々なことも教えてもくれたわ。」
わたしはそこで言葉を区切り、わたしの右肩に甘えるように頭を預けている女装少年の頭を優しく撫でながら、顔を上げて深雪を見つめました。
そして、深雪にとっては驚愕の内容を、更なる驚きの言葉を紡いでいきます。
「……この子、いつも放課後、部活中の深雪ちゃんの制服で遊んでいたんだって。」
(え? 制服で遊ぶ? ……どういうこと? )
わたしはいたずらな笑みを浮かべて深雪を見返します。深雪にはわたしの言っている意味が理解できないようです。
「……深雪ちゃんの制服の匂いをかいだり、深雪ちゃんのスカートをはいて、自分の可愛いものをなすりつけて、オナニーをしていたんだってよ。」
(え! ……そ、そんなこと! ヨシくんは、そんなことをする子じゃない! )
深雪の友人である優子の姿をしたわたしは、いたずらっぼい顔をして言葉を続けました。
「……深雪、知ってた? ……深雪ちゃんの制服はとってもいい匂いがして、大好きなんだって。」
わたしは女装少年の顔に愛しそうにほお擦りしながら話を続けました。女装少年は憧れの深雪先輩に対して、わたしからカミングアウトされたことに頬を赤らめているようでした。
「そんなヨシくん、とってもいじらしくて可愛いじゃない。だから、わたしが少~しだけ、ヨシくんの夢をかなえるお手伝いをしてあげたの。」
そう言うと、わたしは腰をかがめ、女装少年の脇の下に顔を移し、制服の胸元に顔をなすりつけながら、ブレザーの背中や前身頃に腕を這わせて撫で回します。
「……わたしがね、深雪ちゃんの部屋から制服と下着の一式をとってきてあげたのよ。」
わたしはいたずらな笑みを浮かべて深雪を一瞥します。
「……ほらね。見て。」
わたしは女装少年の紺ベストに付くネームプレートを少女に見えるように、少年の身体を深雪の目の前に突き出しました。
その白いプラスチックのネームプレートには、確かに『大野深雪』の名前が黒く刻印されていました。
(ええっ! ……な、なんで! )
あまりのことに深雪は驚愕しました。しかし、少女の心を知ってか知らずか、少女にとっての友人であるはずの優子は、少女の動揺にもかまわず、話を続けます。
「それに、これ。」
更に、女装少年のスカートをめくると、裾レース控え目の清楚な白いスリップを見せつけ、そして、スカート裏の、左ウエストのジッパーにあるポケット脇のネームに、緋色の刺繍糸で縫い付けてある『大野深雪』の文字を少女に見せつけました。
(……どうして! どうやって! )
少女にとってはもはやホラーです。いつの間にか友人の優子から、自分の部屋に自由に出入りされている? プライバシーがすべて漏れまくっている? しかも、それが本当に友人の優子であるかどうかも、もはや自信がありません。驚きが次第に恐怖に変わっていきます。
「ほら、これも。」
次に、スリップをもめくると紺のブルマが……そこにも緋色の糸の刺繍で、鮮やかに『大野深雪』の文字が……。
(……な、なんで! なんで、そんなものまで!)
少女の心は完全に凍りついてしまいました。下着泥棒とか、部屋への侵入とか、もはやその域を越えています。理解の範疇を超えたミステリーです。
確かに、夕べ、部活から帰宅して自分の部屋に帰った時には、部屋の中はまったく異常なかったし、違和感も何もありませんでした。それに、替えの制服やなんかも、無くなっていれば分かりそうなものですが、まったく気づきません。
そして、就寝……ところが、深雪にはそれからの記憶がありません。たった今、目覚めるまで、まるで何も覚えていないのです。
(これは夢? ……そうよ、こんなこと、夢に違いないわ。宏樹の事件があったから、こんな馬鹿な夢を見ているのよね。早く目覚めて! お願い! )
そんな深雪の疑問に更なる追い討ちをかけるかのように、わたしからの説明は続きます。夢とは思えないほどのリアルな声と映像で。
「もちろん、下着もね。」
わたしは、更に、ブルマをずらして飾りレースの付いた白いパンティーをこれでもかと深雪に見せつけてあげました。
深雪も見覚えのあるその清楚なパンティーは、本来はあるべきでないものを包んでいるがために、生地は引っ張られて異様に引きつっていました……。
(もう、いや! ……お願い、やめて! 早く目を覚まして! )
深雪は人形のように無表情で少年の股間の膨らみを見つめていました。
しかし、無表情なのは外見上のことだけで、深雪の本当の心理状態は狂わんばかりにわなわなと震えていました。
自分の力で目をそむけることができたら、どんなにか気持ちも楽だった事だろう。深雪は、出来ることなら、いっそ気を失ってしまいたかったのです……。
**********
(おわりに)
少女はわけもわからぬ内に、教室で身動きも声も出せない状態でした。そこにわたしに導かれて紹介された少女は、なんと後輩の少年でした。一体、これからどうなっていくのでしょう。
とある中学校に侵入したわたしは、女子更衣室代わりに使用されている空き教室で、思い焦がれる先輩女子の制服を抱きしめる可愛い美少年を見つけたのでした。一方で、学校での話題はやはりテニス部事件でした。そして、そこに今回の主役となる深雪先輩が登場いたしました。
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翌日の日曜日の昼下がり、中学校の校舎には、生徒も教師も、誰一人おらず、常日頃の喧騒がまったく嘘のように、不自然なほどに深閑として静まり返っていました。
今日に限ってなのか、グラウンドにも、体育館にも、そしてテニスコートにも、部活動をする生徒の姿はまったく見えませんでした。ひっそりと静まり返った無機質なコンクリートの建築物のみがそこに端然と佇立していたのでした。
しかしながら、厳密には、そこはまったくの無人ではありませんでした。北側校舎の3階、最上級生である3年生の教室が並ぶこのフロアの端、3年4組の教室に一人の少女がぽつんと椅子にもたれて座っていました。
教室の机と椅子は、放課後の掃除の時間ででもあるかのように、すべて後ろに押し片付けられて、少女が座る椅子のほかには、少女の隣に机がひとつあるだけでした。なぜか、その机の上にはかなり大きなダンボールの箱がひとつ置いてありました。
そのガランとした教室の中で、意識を失っているかのようにも見えるその少女は、プリーツがきちんと揃えられた制服のスカートの裾を綺麗に整え、ブレザーの制服を端正に着こなし、膝の上に両手を添えて、姿勢を正して美しく座っていました。
僅かにその愛らしい顔を前にかがめていることで、彼女に意識がないであろうことがうかがえました。
しかし、今まさに少女は目覚めようとしていました。
(……あれ、ここは……教室? ……学校? )
(……どうして、わたし、ここに……えっ……身体が……動かない……え? 何で、何で! )
(……誰か……えっ! ……声も! 声も出ない! ……ぃやっ、誰か……誰か助けて! )
(こ、これ……夢? )
紺ブレザーの制服姿で椅子に座っている少女は、ショートヘアで、天然っ気のくせっ毛が可愛いらしいカールになっており、とてもチャーミングな女子生徒でした。
二重まぶたの瞳は大きめのパッチリな目、小さいながらも鼻筋の通った可愛い鼻、ふっくらした愛らしい頬、小さく整った可愛い唇、小柄な身体ながらも印象の強い美少女です。
「気がついた? ……深雪ちゃん。」
わたしは制服姿のまま、中岡優子の容貌で深雪の前に立ちました。深雪にとっては隣の3組のクラスの友人でもある、親友の中岡優子にしか見えません。
まさか、これが女装魔法使いの変身した姿であろうとは、今の深雪には想像の埒外であったでしょう。
(えっ、優子? 優子だよね? ……えっ、何? )
少女は、そこに親友の姿を見つけ、心の中で助けを求めます。
(……優子、お願い、助けて、わたし、身体が動かないの……声も……出ない……。)
少女の必死な思いとはウラハラに、少女の体は人形のように固まったまま、指先ひとつ動かすことも、何も彼女の意のままになりませんでした。
目覚める前に僅かにうつむいていた顔のみが、いつの間にか端然と前を見据える角度に戻った事以外、あとは見事なまでに微動だにしない姿勢を保っていました。
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わたしは、少女の右側に周り、左腕で少女の肩を抱きました。そして、左の頬を少女の右頬に当ててなつくようにこすります。少女の甘い香りがわたしの鼻腔に漂ってきて、わたしの官能を誘います。
「深雪ちゃん、怖がらなくていいの。誰も深雪ちゃんをいじめたりしないわ。それどころか、わたしの大好きな深雪ちゃんを心から気持ちよくしてあげる。」
(なに、優子……意味わかんない……わたしをどうする気! )
わたしはひとしきり深雪の柔らかい頬の感触を楽しむと、左腕を肩から頭に回し、その綺麗にカールしている髪の毛の匂いを嗅ぎます。ほのかな少女の香りにリンスの爽やかな香りが加味されて、わたしの顔は心地よい臭気に包まれます。
「ちょっと混乱しているようね。……大丈夫、怖くないから心配しないで……。」
教室の中では、可愛い制服の少女二人が戯れているようにしか見えません。まさか、そこにとらわれの少女がいるとは、とてものこと見えません。
でも、ご安心ください。わたしは少女の嫌がることを手荒に強いるつもりはございません。わたしは、少女に新たな喜びを与え、なおかつ、少女をより美しく羽化させてあげたいだけなのですから。
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わたしは、少女から身体を離すと、少女の視線から見えるように、笑顔を向けました。
「まず、深雪ちゃんに紹介してあげたい子がいるの。会ってくれるかな? 」
(え? な、なに、優子、本当にどうしたの? おかしいよ、……それにわたしに「ちゃん」付けなんて、変だよ。本当にあなたは優子なの? )
わたしはいたずらな笑みを浮かべて少女に語りかけ、そして、背後のドアに向けて声をかけました。
「いいわよ……、さあ、入ってきて……。」
そのわたしの声に誘われて、一人の制服を着た少女が、カラカラと引き戸を開けて教室に入ってきました。
白ブラウスに紺のベストと紺のプリーツスカートという、この学校の女子制服の衣装をまとったその少女は、顔をややうつむき加減にしたまま、静かに深雪に近づいてきました。
そして、深雪の正面に来ると、恥ずかしそうにちょっと頬を赤らめながら微笑み、両手を前に添えて丁寧にお辞儀をしました。
その女子は深雪の目にも、とても可愛い女生徒に見えました。こんな子がうちの学校にいたろうかと訝しい思いで深雪は見つめ続けました。
(誰だっけ? 3年じゃないのは分かるから、下級生なのは間違いないし、……見おぼえがあるような気もするんだけれど……でも、何か……へん。妙な違和感もあるし……。)
深雪には、見覚えのない筈のその女子には、どこか初対面ではない不思議な感じがしたのでした。
(でも、どこで……? )
少女の瞳、唇、鼻、耳……短めの髪にはカチューシャをかけていましたが、ちょっとボーイッシュなその少女をまじまじと見ていた深雪は、全体を眺めわたしたあと、あらためてその少女の瞳を見つめました。
目の前の少女も、やや顔を伏せ加減に上目使いをしながら深雪を見返しました。
二人の視線が絡み合ったその刹那、深雪は大きな驚きを受けました。その瞳、容貌に見覚えのある人物が彼女の頭の中に浮かび上がりました。でも、そんな筈はありません。ありえないのです。なぜなら、その子は1年生の男の子だからです。
(えっ! まさか、ヨ……ヨシくん? ……1年のヨシくんよね! ……何? ……何が起きているの! ……ヨシくん、女子の制服なんか着て……いったい、どうなっているの? )
深雪は、目の前の少女が見知った下級生であることを確信するとともに、その異常な姿に驚愕しました。
(優子! 優子! 何がどうなっているの! ……それに、わたし、どうしちゃったの! ……助けて! 優子! )
しかし、深雪の親友である筈のその少女は、まったく助けてくれそうな素振りもありません。深雪にはじわじわと絶望感のみが広がってきます。
相変わらず深雪は人形のように眉ひとつ動かせません。わたしは、椅子に座る深雪の視野に入るように、その可愛く美しい女装少年の横に近づきました。
「ふふっ、どうやら深雪ちゃんにもこの子が誰か、すぐに分かったようね。」
そして、わたしは、腕を回して女装少年の肩を軽く抱いてあげました。するとどうだろう、女装少年は小首を傾げて甘えるようにわたしに身体を預けてきました。
「この子ね、男の子なのに、女の子になるのが、とっても好きなの。……それに、わたしに色々なことも教えてもくれたわ。」
わたしはそこで言葉を区切り、わたしの右肩に甘えるように頭を預けている女装少年の頭を優しく撫でながら、顔を上げて深雪を見つめました。
そして、深雪にとっては驚愕の内容を、更なる驚きの言葉を紡いでいきます。
「……この子、いつも放課後、部活中の深雪ちゃんの制服で遊んでいたんだって。」
(え? 制服で遊ぶ? ……どういうこと? )
わたしはいたずらな笑みを浮かべて深雪を見返します。深雪にはわたしの言っている意味が理解できないようです。
「……深雪ちゃんの制服の匂いをかいだり、深雪ちゃんのスカートをはいて、自分の可愛いものをなすりつけて、オナニーをしていたんだってよ。」
(え! ……そ、そんなこと! ヨシくんは、そんなことをする子じゃない! )
深雪の友人である優子の姿をしたわたしは、いたずらっぼい顔をして言葉を続けました。
「……深雪、知ってた? ……深雪ちゃんの制服はとってもいい匂いがして、大好きなんだって。」
わたしは女装少年の顔に愛しそうにほお擦りしながら話を続けました。女装少年は憧れの深雪先輩に対して、わたしからカミングアウトされたことに頬を赤らめているようでした。
「そんなヨシくん、とってもいじらしくて可愛いじゃない。だから、わたしが少~しだけ、ヨシくんの夢をかなえるお手伝いをしてあげたの。」
そう言うと、わたしは腰をかがめ、女装少年の脇の下に顔を移し、制服の胸元に顔をなすりつけながら、ブレザーの背中や前身頃に腕を這わせて撫で回します。
「……わたしがね、深雪ちゃんの部屋から制服と下着の一式をとってきてあげたのよ。」
わたしはいたずらな笑みを浮かべて深雪を一瞥します。
「……ほらね。見て。」
わたしは女装少年の紺ベストに付くネームプレートを少女に見えるように、少年の身体を深雪の目の前に突き出しました。
その白いプラスチックのネームプレートには、確かに『大野深雪』の名前が黒く刻印されていました。
(ええっ! ……な、なんで! )
あまりのことに深雪は驚愕しました。しかし、少女の心を知ってか知らずか、少女にとっての友人であるはずの優子は、少女の動揺にもかまわず、話を続けます。
「それに、これ。」
更に、女装少年のスカートをめくると、裾レース控え目の清楚な白いスリップを見せつけ、そして、スカート裏の、左ウエストのジッパーにあるポケット脇のネームに、緋色の刺繍糸で縫い付けてある『大野深雪』の文字を少女に見せつけました。
(……どうして! どうやって! )
少女にとってはもはやホラーです。いつの間にか友人の優子から、自分の部屋に自由に出入りされている? プライバシーがすべて漏れまくっている? しかも、それが本当に友人の優子であるかどうかも、もはや自信がありません。驚きが次第に恐怖に変わっていきます。
「ほら、これも。」
次に、スリップをもめくると紺のブルマが……そこにも緋色の糸の刺繍で、鮮やかに『大野深雪』の文字が……。
(……な、なんで! なんで、そんなものまで!)
少女の心は完全に凍りついてしまいました。下着泥棒とか、部屋への侵入とか、もはやその域を越えています。理解の範疇を超えたミステリーです。
確かに、夕べ、部活から帰宅して自分の部屋に帰った時には、部屋の中はまったく異常なかったし、違和感も何もありませんでした。それに、替えの制服やなんかも、無くなっていれば分かりそうなものですが、まったく気づきません。
そして、就寝……ところが、深雪にはそれからの記憶がありません。たった今、目覚めるまで、まるで何も覚えていないのです。
(これは夢? ……そうよ、こんなこと、夢に違いないわ。宏樹の事件があったから、こんな馬鹿な夢を見ているのよね。早く目覚めて! お願い! )
そんな深雪の疑問に更なる追い討ちをかけるかのように、わたしからの説明は続きます。夢とは思えないほどのリアルな声と映像で。
「もちろん、下着もね。」
わたしは、更に、ブルマをずらして飾りレースの付いた白いパンティーをこれでもかと深雪に見せつけてあげました。
深雪も見覚えのあるその清楚なパンティーは、本来はあるべきでないものを包んでいるがために、生地は引っ張られて異様に引きつっていました……。
(もう、いや! ……お願い、やめて! 早く目を覚まして! )
深雪は人形のように無表情で少年の股間の膨らみを見つめていました。
しかし、無表情なのは外見上のことだけで、深雪の本当の心理状態は狂わんばかりにわなわなと震えていました。
自分の力で目をそむけることができたら、どんなにか気持ちも楽だった事だろう。深雪は、出来ることなら、いっそ気を失ってしまいたかったのです……。
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少女はわけもわからぬ内に、教室で身動きも声も出せない状態でした。そこにわたしに導かれて紹介された少女は、なんと後輩の少年でした。一体、これからどうなっていくのでしょう。
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