12 / 122
佐和子先生の章
第1話 混声合唱団の指導にはいります
しおりを挟む
(はじめに)
今回は中学校の音楽部が舞台です。佐和子先生と可愛いらしい中学生たちとのお話しです。
**********
そろそろ本格的な夏が訪れる季節の、とある地方都市、郊外にある閑静な文教地区的な雰囲気のある一画に、その中学校はありました。
午後になっても、まだまだ暑い日差しの中、今しも、放課後のチャイムが鳴り渡り、掃除作業からそのままのジャージ姿の中学生達が三々五々、校門から家路についていきます。
「先生、資料を机の上に置きっぱでしたよ。」
息せきついて車の助手席のドアをバタンと開けて、二十歳そこそこにも見える若々しい女性が車の中に入ってきました。そして、入るなり、これですよ! とばかりに、運転席の中年男性にA4版の白封筒を見せつけました。
「いやぁ、佐和ちゃんには、学級委員の頃から面倒かけるねぇ。」
頭をかきながら、ばつの悪そうに運転席の男性が苦笑いをして答えました。この二人は同僚の教師で、これから地区内の別の学校で行われる研修会議に向かうところのようです。
「そんな……いつまでも転任しないで、同じ学校に居座ってる先生が悪いんですよ。」
その女性は、ちょっと恥ずかしそうに、両手を膝の上に置き、肩をすぼめて、口を尖らせて言いました。今年、新卒採用のその新米女性教師は、この男性教師がかつて担任をしていた中学3年のクラスにいた教え子でした。
「まぁ、今日は顔合わせみたいなもんだし、どうせ挨拶で終わりだろ。資料も見ないで小一時間で終わるさ。」
その言葉に女性教師は嬉しそうに反応してみせます。
「なら、なおのこと、早く終わして学校に戻ってきましょう。」
「さすが、熱心だねぇ。可愛い生徒達が待っている、ってか。教師の鑑だね。」
おどけた調子で中年男性教諭が冷やかします。
「もぉ~、茶化さないで早く行きましょう。遅刻しちゃいますよ!」
二人を乗せた車は、下校中の生徒達と窓越しに挨拶をかわしつつ、校門をくぐり、街中へと走り去っていきました。
**********
放課後の校舎は、部活動をしている生徒達のほとんどがグラウンドや体育館に移動した他は、文化系のクラブが特定の部屋で活動しているだけで、全体的には深閑としています。
ただ、音楽室のある3階フロアーでは、音楽部が、女声ソプラノ、メゾソプラノ、アルト、男声テノール、バリトンおよびベース、といった5パートに分かれて、それぞれが任意の教室を選んで練習をしていました。
おおよその中学校のどの音楽部も似たり寄ったりでしょうが、この学校の音楽部では、全体の発声練習や腹筋などの筋トレをしたあと、一定時間はパートに別れての個別練習をするようです。
中学校の合唱団は、某放送協会主催の全国合唱音楽コンクール、通称「全コン」がひとつのメインイベントになっていました。
学校系の合唱団では一般的に女声合唱団が多い中、体育会系部活の終了した3年生男子を対象に、顧問を兼ねる音楽教諭の一本釣りでスカウトして男子を加えた混声合唱団を組織する学校も少なくありません。
この中学の音楽部もそのような合唱団のひとつでありました。主に、柔道等の格闘技系の体格を鍛えている男子や、バスケやサッカー、陸上等の持久走で心肺能力を鍛えている男子が多い傾向にありました。
パート練習の予定時間が終了し、生徒達が三々五々に音楽室に集まってきます。かわいらしい無邪気な十代前半の少年少女達、総数41人の混声合唱団です。
五線譜が入った音楽室の黒板を背に、黒いグランドピアノの隣の指揮台に立つ、若く美しい顧問の先生らしき女性が、指揮台のヘリにタクトを数回軽くたたき、音楽室内の生徒達の注目を促します。
「さあみんな、練習を始めるわよ。準備はいい?」
この合唱部の指導を担当する音楽部顧問の渡部佐和子先生が、指揮台に上がって楽譜を譜面台に乗せると、音楽室内にいる部員達に声をかけます。
パート練習から戻って、音楽室のあちこちで吹き出す汗を拭いながら雑談に花を咲かせていた41人の部員たちは、「はぁい♪ 」と一斉にかわいい返事をしながら、それぞれのパートに分かれて合唱団の列を作りました。
「あれ?佐和せんせ、今日は会議で遅れるんじゃねっけ? 」
「いいじゃない、いるんだから。中止にでもなったんじゃない。」
「ふ~ん、ま、いっけど……。」
いよいよ、ここからいつものように、全パート合わせての仕上げの練習が始まったのです。歌うことが楽しくて仕方ない可愛い少女達のキラキラした笑顔が並んでいました。
「先生、よろしくお願いします」
キツネ目だが端正に整った美形の顔立ちをしている三年の鈴木千代美部長の挨拶に続いて、41人の混声合唱団全員が「よろしくお願いします。」と声を揃えて唱和しました。
全員の挨拶が終わると、ピアノ担当の女生徒・須貝千鳥が列から離れ、いつでも弾けるようにピアノの席に座り、譜面のスタンバイを始めます。
部長の鈴木千代美はショートで肩にかからない程度のボブヘアのなかなかの美人で、整った顔立ちをしていましたが、さすがに部長だけあって、きりっとした切れ長の目元や引き締まった結んだ口元に気の強さがにじみ出ています。
ピアノ伴奏を除く女子は1年から3年までの30人、男子は全員が3年の10人でした。この男子が、全国合唱音楽コンクールの地方予選大会出場のために運動部などから集められた臨時の音楽部員になります。
白いブラウスにベージュのフレアースカートという清楚ないでたちの佐和子は、タクトを握ると部員をひと回り見渡してニコリと微笑みました。
生徒は白い半袖の体操着に、下は赤いジャージという姿で、放課後の掃除時間から、大抵の生徒はほとんどが体操着姿になって、そのまま部活に入る事が多いようです。
もちろん、帰宅する時もそのままのジャージ姿の格好ですが、放課後の間、制服はサブバッグの中に入れて、音楽部では音楽室の隅に固まって置いてあります。
指揮台に立つ顧問の渡部佐和子は、地元の国立大学教育学部を卒業した今年からの新任音楽教師で、最初の赴任先が自らも卒業した母校の中学校でした。
若く美しい佐和子先生は、童顔で愛らしい顔立ちだった事もあって、歳の近い姉のように部員全員から慕われていました。髪型もナチュラルなセミロングのボブで、生徒の中にいても違和感のない容姿をしています。
合唱団の皆を見渡して微笑んだ佐和子先生は、いつものようにタクトを振って音合わせに入るのではなく、この日は珍しく、おもむろに話しを始めました。
「いいこと、みんな。合唱はね、40人全員がひとつに声を合わせるの。いいえ、声だけじゃない、気持ちも、心も、みんなひとつにならなきゃいけないの。」
そこで佐和子先生は言葉を区切り、みんなを見渡しました。いつもとは違い、饒舌に話す佐和子先生に不思議な違和感を感じつつ、生徒達は先生が何をしたいのかをさぐるように注目しています。
「……だから、今日はみんなが、一心同体になれるように、特別な練習をします、いいですね。」
怪訝な表情の生徒をよそに、佐和子先生は微笑みながらタクトを大きく一回り振りました。
(タンッ!)
……その瞬間、音楽室の中は一瞬で凍りついたようになりました。……いえ、雰囲気でも、室温でもなく、40人の生徒全員が固まったように動きを止めたのでした。
今までかすかに聞こえていた校舎やグラウンドの喧騒もかき消え、鳴き始めの間断ないセミの声すら消去されてしまい、まるで時間が止まってしまったかのような静寂、異常とも言える無音が音楽教室全体を包んでいました。
「ふふっ、準備はできたみたいね。」
一方で、少年少女たちには混乱が広がっています。
(え? な、なに! か、身体が動かない! )
(だれか、だれか助けて~! お母さ~ん! )
(なんだよ、声も出せねぇ! 一体、何がどうなってんだ! )
(くっそ! だれか動ける奴はいね~のかよ! )
わたしは、そんな生徒たちの心の声を楽しみながら聞いています。
(みんな、何も心配することなんかないわ。これからみんなで素晴らしい歌声を作り上げましょうね。)
**********
そう、今回、私は美人教師・渡部佐和子になりすまし、この中学校に潜り込んだのでした。今、ここにいる佐和子先生は本物の佐和子先生ではありません。
その正体は、30人のあどけない女子中学生と10人の可愛い男子中学生という垂涎の獲物を前に、スカートの下で身体を疼かせている女装魔法使いの私なのでした。
本当の佐和子先生は今頃、先輩教諭の車で、近隣の中学校の先生との地区教育会議に出かけている筈でした。
**********
(おわりに)
音楽部顧問の佐和子先生は研修会議に出かけました。その間、音楽部の指導はわたしが代わりを務めさせていただきます。
今回は中学校の音楽部が舞台です。佐和子先生と可愛いらしい中学生たちとのお話しです。
**********
そろそろ本格的な夏が訪れる季節の、とある地方都市、郊外にある閑静な文教地区的な雰囲気のある一画に、その中学校はありました。
午後になっても、まだまだ暑い日差しの中、今しも、放課後のチャイムが鳴り渡り、掃除作業からそのままのジャージ姿の中学生達が三々五々、校門から家路についていきます。
「先生、資料を机の上に置きっぱでしたよ。」
息せきついて車の助手席のドアをバタンと開けて、二十歳そこそこにも見える若々しい女性が車の中に入ってきました。そして、入るなり、これですよ! とばかりに、運転席の中年男性にA4版の白封筒を見せつけました。
「いやぁ、佐和ちゃんには、学級委員の頃から面倒かけるねぇ。」
頭をかきながら、ばつの悪そうに運転席の男性が苦笑いをして答えました。この二人は同僚の教師で、これから地区内の別の学校で行われる研修会議に向かうところのようです。
「そんな……いつまでも転任しないで、同じ学校に居座ってる先生が悪いんですよ。」
その女性は、ちょっと恥ずかしそうに、両手を膝の上に置き、肩をすぼめて、口を尖らせて言いました。今年、新卒採用のその新米女性教師は、この男性教師がかつて担任をしていた中学3年のクラスにいた教え子でした。
「まぁ、今日は顔合わせみたいなもんだし、どうせ挨拶で終わりだろ。資料も見ないで小一時間で終わるさ。」
その言葉に女性教師は嬉しそうに反応してみせます。
「なら、なおのこと、早く終わして学校に戻ってきましょう。」
「さすが、熱心だねぇ。可愛い生徒達が待っている、ってか。教師の鑑だね。」
おどけた調子で中年男性教諭が冷やかします。
「もぉ~、茶化さないで早く行きましょう。遅刻しちゃいますよ!」
二人を乗せた車は、下校中の生徒達と窓越しに挨拶をかわしつつ、校門をくぐり、街中へと走り去っていきました。
**********
放課後の校舎は、部活動をしている生徒達のほとんどがグラウンドや体育館に移動した他は、文化系のクラブが特定の部屋で活動しているだけで、全体的には深閑としています。
ただ、音楽室のある3階フロアーでは、音楽部が、女声ソプラノ、メゾソプラノ、アルト、男声テノール、バリトンおよびベース、といった5パートに分かれて、それぞれが任意の教室を選んで練習をしていました。
おおよその中学校のどの音楽部も似たり寄ったりでしょうが、この学校の音楽部では、全体の発声練習や腹筋などの筋トレをしたあと、一定時間はパートに別れての個別練習をするようです。
中学校の合唱団は、某放送協会主催の全国合唱音楽コンクール、通称「全コン」がひとつのメインイベントになっていました。
学校系の合唱団では一般的に女声合唱団が多い中、体育会系部活の終了した3年生男子を対象に、顧問を兼ねる音楽教諭の一本釣りでスカウトして男子を加えた混声合唱団を組織する学校も少なくありません。
この中学の音楽部もそのような合唱団のひとつでありました。主に、柔道等の格闘技系の体格を鍛えている男子や、バスケやサッカー、陸上等の持久走で心肺能力を鍛えている男子が多い傾向にありました。
パート練習の予定時間が終了し、生徒達が三々五々に音楽室に集まってきます。かわいらしい無邪気な十代前半の少年少女達、総数41人の混声合唱団です。
五線譜が入った音楽室の黒板を背に、黒いグランドピアノの隣の指揮台に立つ、若く美しい顧問の先生らしき女性が、指揮台のヘリにタクトを数回軽くたたき、音楽室内の生徒達の注目を促します。
「さあみんな、練習を始めるわよ。準備はいい?」
この合唱部の指導を担当する音楽部顧問の渡部佐和子先生が、指揮台に上がって楽譜を譜面台に乗せると、音楽室内にいる部員達に声をかけます。
パート練習から戻って、音楽室のあちこちで吹き出す汗を拭いながら雑談に花を咲かせていた41人の部員たちは、「はぁい♪ 」と一斉にかわいい返事をしながら、それぞれのパートに分かれて合唱団の列を作りました。
「あれ?佐和せんせ、今日は会議で遅れるんじゃねっけ? 」
「いいじゃない、いるんだから。中止にでもなったんじゃない。」
「ふ~ん、ま、いっけど……。」
いよいよ、ここからいつものように、全パート合わせての仕上げの練習が始まったのです。歌うことが楽しくて仕方ない可愛い少女達のキラキラした笑顔が並んでいました。
「先生、よろしくお願いします」
キツネ目だが端正に整った美形の顔立ちをしている三年の鈴木千代美部長の挨拶に続いて、41人の混声合唱団全員が「よろしくお願いします。」と声を揃えて唱和しました。
全員の挨拶が終わると、ピアノ担当の女生徒・須貝千鳥が列から離れ、いつでも弾けるようにピアノの席に座り、譜面のスタンバイを始めます。
部長の鈴木千代美はショートで肩にかからない程度のボブヘアのなかなかの美人で、整った顔立ちをしていましたが、さすがに部長だけあって、きりっとした切れ長の目元や引き締まった結んだ口元に気の強さがにじみ出ています。
ピアノ伴奏を除く女子は1年から3年までの30人、男子は全員が3年の10人でした。この男子が、全国合唱音楽コンクールの地方予選大会出場のために運動部などから集められた臨時の音楽部員になります。
白いブラウスにベージュのフレアースカートという清楚ないでたちの佐和子は、タクトを握ると部員をひと回り見渡してニコリと微笑みました。
生徒は白い半袖の体操着に、下は赤いジャージという姿で、放課後の掃除時間から、大抵の生徒はほとんどが体操着姿になって、そのまま部活に入る事が多いようです。
もちろん、帰宅する時もそのままのジャージ姿の格好ですが、放課後の間、制服はサブバッグの中に入れて、音楽部では音楽室の隅に固まって置いてあります。
指揮台に立つ顧問の渡部佐和子は、地元の国立大学教育学部を卒業した今年からの新任音楽教師で、最初の赴任先が自らも卒業した母校の中学校でした。
若く美しい佐和子先生は、童顔で愛らしい顔立ちだった事もあって、歳の近い姉のように部員全員から慕われていました。髪型もナチュラルなセミロングのボブで、生徒の中にいても違和感のない容姿をしています。
合唱団の皆を見渡して微笑んだ佐和子先生は、いつものようにタクトを振って音合わせに入るのではなく、この日は珍しく、おもむろに話しを始めました。
「いいこと、みんな。合唱はね、40人全員がひとつに声を合わせるの。いいえ、声だけじゃない、気持ちも、心も、みんなひとつにならなきゃいけないの。」
そこで佐和子先生は言葉を区切り、みんなを見渡しました。いつもとは違い、饒舌に話す佐和子先生に不思議な違和感を感じつつ、生徒達は先生が何をしたいのかをさぐるように注目しています。
「……だから、今日はみんなが、一心同体になれるように、特別な練習をします、いいですね。」
怪訝な表情の生徒をよそに、佐和子先生は微笑みながらタクトを大きく一回り振りました。
(タンッ!)
……その瞬間、音楽室の中は一瞬で凍りついたようになりました。……いえ、雰囲気でも、室温でもなく、40人の生徒全員が固まったように動きを止めたのでした。
今までかすかに聞こえていた校舎やグラウンドの喧騒もかき消え、鳴き始めの間断ないセミの声すら消去されてしまい、まるで時間が止まってしまったかのような静寂、異常とも言える無音が音楽教室全体を包んでいました。
「ふふっ、準備はできたみたいね。」
一方で、少年少女たちには混乱が広がっています。
(え? な、なに! か、身体が動かない! )
(だれか、だれか助けて~! お母さ~ん! )
(なんだよ、声も出せねぇ! 一体、何がどうなってんだ! )
(くっそ! だれか動ける奴はいね~のかよ! )
わたしは、そんな生徒たちの心の声を楽しみながら聞いています。
(みんな、何も心配することなんかないわ。これからみんなで素晴らしい歌声を作り上げましょうね。)
**********
そう、今回、私は美人教師・渡部佐和子になりすまし、この中学校に潜り込んだのでした。今、ここにいる佐和子先生は本物の佐和子先生ではありません。
その正体は、30人のあどけない女子中学生と10人の可愛い男子中学生という垂涎の獲物を前に、スカートの下で身体を疼かせている女装魔法使いの私なのでした。
本当の佐和子先生は今頃、先輩教諭の車で、近隣の中学校の先生との地区教育会議に出かけている筈でした。
**********
(おわりに)
音楽部顧問の佐和子先生は研修会議に出かけました。その間、音楽部の指導はわたしが代わりを務めさせていただきます。
10
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる