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佐和子先生の章
第10話 中学時代へのノスタルジア
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(これまでのあらすじ……)
佐和子先生の留守中、わたしの指導で女子も男子も素晴らしいハーモニーを作り出しました。そこへ、会議を終えて佐和子先生が音楽教室にやってきましたが、そこで生徒たちの惨状を目にすると共に、自分に瓜二つのわたしを見て驚きました。しかもその女性は、なぜか佐和子先生の中学生の時の制服を持っていたのです。
**********
佐和子にはもう何が何だか分からなくなりました。気を失い倒れることが出来たら、どんなにか幸せだったろう。
「こ、これは……一体、どうして……これが……。」
それは紛れもなく、佐和子がこの中学に在籍していた時に、自分が着用していた、自分の制服でした。
生徒達の異常な痴態……、
自分に瓜二つの謎の女……、
操り人形のような男子生徒……、
そして、今、目の前に、8年の時空を飛び越えたかのような昔の自分の制服……、
知識と理性を旨とする教育者であるところの彼女にとっては、想像を超える事態が次々に繰り広げられていました。
わたしは、そんな佐和子の心の動きを楽しみつつ。柔らかな笑みをたたえながら、優しく彼女に語りかけました。
「あなたがこれに着替えてくれない限り、生徒達へのわたしのレッスンは終わらない。逃げ出したいなら止めないけど、……どうせドアも窓も開かないわ。」
佐和子は引き結んだ口許に力をこめながら、その美しい瞳でわたしを睨みつけている。そうすることでしか、自分の恐怖を押さえこむことができないのだろう。
「……そう、どうしても嫌なら…」
わたしはちょっと困った風に装いながら、顔をかしげつつも、心の中ではとても楽しんでいました。そして、微笑みながら、
「……では、生徒さんたちに先生の着替えを手伝ってもらいましょう。大好きな佐和子先生ですから、生徒たちも喜んで手伝ってくれることでしょうね。」
そう言って、わたしが軽くウィンクをすると、あたかもそれが合図ででもあったかのように、表情を失っているセーラー服姿の男子たちがゆっくりと佐和子に近づいてきました。
まるで、夢遊病者のようにゆらゆらとやってきた男子でしたが、両側から四人がかりで佐和子の両腕・両足を押さえつけたその力はとても強く、佐和子の膂力ではとてものこと、ふりほどくことができませんでした。
その間も佐和子は、生徒たちに必死に呼びかけました。
「●●くん! 手を、手を放して! 」
「●●くん! 目を覚まして! お願い! 」
「……聞こえないの! ●●さん! 助けて! 」
佐和子の絶叫は、いつしか涙まじりの嗚咽となっていきました。
「放して! ……放して放して放して放して放してぇぇぇ! ……放してよぉ……うっ、うっうっうっ……お願い……ううっ、うっ……やめてぇ……やめてよぉぉ……もぉ、お願いだからぁ……うっ、ううっ……」
……女子の名前を呼び……男子の名前を呼び……正気を取り戻すよう、何度も叫んだ……。何度も何度も。……絶叫し、涙声となり……。だが、すべては徒労でしかありませんでした。
そして、ひとりの男子が、佐和子のブラウスのボタンを外そうと、いよいよブラウスの襟に手を掛けました。その時、ようやく佐和子は観念したように言いました。
「じ、自分で……着替えさせてください。……お願い……します。」
佐和子は、その表情に屈辱と羞恥の色をにじませて、搾り出すように、ようやくそれだけの言葉を吐き出しました。
その瞬間、佐和子の四肢に取り付いていた男子生徒の押さえがとけ、佐和子はガックリとその場に崩れ落ちました。
わたしはニッコリと微笑んで、へたりこむ佐和子の目の前の床上に、ゆっくりと彼女の制服を置きました。
**********
しばらくその制服を放心したように見つめていた佐和子でありましたが、あきらめたかのようにゆっくりと立ち上がり、服を脱ぎ始めました。
ひとつひとつブラウスのボタンを外し、ブラウスを羽織ったまま、次に左脇のスカートのホックを外しました。
ファスナーを下げると、佐和子の手を離れたベージュのフレアースカートが布地に空気を膨らませてふわっと広がり、美しく佐和子の足元に舞い降りました。
次いで白いサテン地のブラウスをしゅるしゅると脱いだ佐和子は、そのブラウスで胸元を隠すように押さえながら、スカートの形作るリングから足を抜きました。
佐和子の純白のレーシーなスリップ姿は、とても神々しく美しいものでした。隠すものもないのに、右腕に抱えたサテンのブラウスで胸を押さえ、左手をスリップの前に当てている佐和子の自然な仕草が、清楚でいじましく思えます。
次いで、佐和子は、ウチバキにしているパンプスを、片足づつ膝を折るように後ろ手で脱ぎ、ブラウスを一旦、スカートの上に置きました。そして、やや、恥ずかしそうにスリップの中に両手を入れて、ベージュのストッキングを腰から脱いで裸足になりました。
完全にスリップ1枚の姿となった佐和子は、おもむろに床に膝を付いて、スカートとブラウスを拾い上げて、それらをゆっくりと丁寧にたたみ始めました。最後に、その畳まれたスカートとブラウスの上に、簡単に四つ折りしたパンストを乗せました。
一連の佐和子の所作は、気持ちを落ち着かせようとするのと同時に、佐和子の時間稼ぎでもあったわけでしょうが、純白のスリップ姿の佐和子の姿は、清楚に神々しく美しく、私もいつまでも飽きずに眺めていることができました。
彼女がいかに時間稼ぎをしようとも、私にとっても時間は十分にあるのですから。
**********
衣服をたたみ終わると、佐和子は相変わらずわたしや生徒たちがいる方向に背を向けつつ、懐かしい中学時代の自分の制服を手に取りました。わたしの目から、滑らかな肌をした背中に、美しいスリップのレース飾りと、ブラとスリップの4本線のストラップが綺麗に見えています。
(本当に、中学の時の……私の制服? )
不思議な事に生地は何年もたっているとは思えない程にまったく傷みもなく変わりがありません。
(本当に8年も立っているなら、もっと生地が固くなっている筈なのに……? それに、8年も折り畳まれているのに、そんなにきつい折り皺も出来ていない……?)
セーラー服の左ファスナーを開けてみると、内側のポリエステルサテン地にオレンジ色の刺繍糸で確かに佐和子の名前が刺繍してあります。
(そ、そんな……。いえいえ、ありえない。……こんなことは、いくらでも複製できる。……騙されちゃいけない。)
佐和子は、観念しそうになる気持ちを、気力でなんとか奮い立たせようとしていました。そして淡々と着替えを続けます。スリップ姿の上から、セーラー服の両腕に袖を通して、頭から制服をかぶりました。
23歳の佐和子には成熟した胸が多少きつかったようですが、元来が大きめに作る伸び盛りの中学生の制服だけに、さして苦もなく着ることが出来ました。冬の青緑色のセーラー服は、中間服とは違う明るい黄緑色の二本線が衿と袖に入っていました。
そして、最後に緑色の光沢のあるシルクのスカーフをセーラー襟に通すと、セーラー襟の先端で、共布のスカーフ留めで押さえてボタンホックでパチンと押さえます。
そのセーラー服には中学時代の佐和子の残り香までもが消えずにこもっていました。まるで、昨日まで中学生の佐和子が着ていたかのように……。
佐和子は、中学時代に彼女自身がそうしていたように、パンティーの上に濃紺のブルマを穿きました。
(……やっぱり。……でも、ここまでする……? )
ブルマにはオレンジの刺繍で佐和子の名前がしっかりと縫いつけられていました。どこまでも念入りに。
(……いえ、子供たちもきっとクスリかなんかで操られているだけなのよ、きっと。……わたしがしっかりしなきゃ。……子供たちを助けられるのは、わたしだけ。)
そして、深い青色のプリーツスカートを手に取ります。それを見た時、わずかに強い意志を振り絞っていた佐和子を更に奈落に突き落とすものが待っていました……。
(……これは、刺繍じゃない! ……手書きの……私の字! ……本当なの! 私が書いた字なの! )
スカートのウエストホックのところにあるポケットの裏地にあるネームには、佐和子には見覚えのある筆跡で名前が書いてあります。中学生当時、自分が書いていたクセまでがそのまま再現されている文字が!
「佐和子先生、さすが教育者ですね。その現実的思考にもとづいた合理的精神と分析力はお見事です。先生の優秀なる資質がよく理解できますわ。」
(いや、……そんな、……どうして、)
「……でも、そこに書いてある名前は、誰が書いた文字か、……書いた本人なら、分かりますよね。」
それでも佐和子は取り乱すことなく、平静を装ってスカートに足を入れます。しかし、ウエストのホックを留める時、動揺による指先の震えを治めることは隠しようもありませんでした。スカートのホックが、なかなか留められません。
中学時代よりは背が伸びた佐和子でありましたが、ウエストは基本的にそれほど変わりがなかったので、スカートもアジャスターの調整だけで容易に着ることができる筈でしたが、動揺をさとられまいと思えば思うほど、指先が震えて、あらぬ所を無駄にカチャカチャしていました。
なんとかようやく、スカートのホックを留め、佐和子は改めて平静を取り戻そうとするかのように、深呼吸をしながら、ゆっくりと次の着替えを進めました。
生徒手帳をセーラー服の左下のポケットに入れ、靴下を履いて三つ折りに畳み、上履きを履きました。
(手帳を見ちゃだめ、……この人の手に乗せられるだけ。……なんとか、時間を稼いで、まず、逃げ出す隙を見つけることが第一。)
そして、これもまた時間稼ぎのつもりでしょうが、髪も当時と同じように、短いなりにツインテールに結んでカチューシャをつけました。
もともと童顔な事もあって、すべてを身につけるとほぼ中学生の佐和子が蘇りました。
佐和子は23歳にもなって中学時代の自分のセーラー服を人前で身につけるという倒錯的な行為に激しく羞恥し、身体が熱くなるのを感じました。
**********
「佐和子先生、ご協力を感謝します。これで一層、みんなと一体感のある素晴らしい演奏がきっとできますわ。」
わたしは満面の笑顔で中学生に戻った佐和子先生に声をかけました。
佐和子が着替えを終えて振り向くと、自分にうりふたつのその女性が、いつのまにか自分と同じツインテールにして、深い青色のセーラー服を身につけている。しかもネームプレートまで……。
(い、いつのまに! ……目を離したのは一瞬、視界の隅には必ず入れていたのに! )
佐和子は、私からの言葉にうまうまと乗せられないように、見ていないふりをしつつも、隙をうかがいながら視界の中には出来るだけ入れていたようです。それだけに、佐和子にはまるで魔法としか考えられないのです。
「驚くことはないわ。これもレプリカなんかじゃない本物のあなたの制服よ。誰だって冬服の替えをもう一枚か二枚くらいは持ってるでしょう。」
(そんな問題じゃない! ……そんな、一体、どうして! )
佐和子の瞳は、驚きで大きく見開かれた。
「……でもさすがにカチューシャまではまったくの同じ物じゃないけど、それでも私がつけてるのはあなたの中学生の時のものよ。」
努めて平静を取り戻そうと、無心にゆっくり着替えを終えて、落ち着いたつもりの佐和子でした。むしろ、理性よりも倒錯した羞恥心の方が強かった筈のものでしたが……、
(いったい、なんなの! ……この人、なに! ……どこでどうしたら、そんなことが! ……い、いや! ……いやいやいやいやいやぁぁぁぁ! )
佐和子は、ここにきて再び訳の分からない恐怖にとらわれはじめ、無意識にジリッジリッと後ずさりを始めていました。
「ふふふっ……怖がらなくても良いのよ。信じられないかもしれないけど、あなたに暴力的な危害を加えるつもりはまったくないのよ。」
今更、そんな言葉に安堵できる精神状態ではないでしょう。
「今はまだ信じられないでしょうね。でも、わたしはあなたの夢を叶えてあげるために来たのよ。誰にも言えないあなたの夢、決して許されないあなたの恋、それを叶えてあげたいだけなの。」
(何を言っているの、この人は!わたしの夢?わたしの恋?……なんで、そんなことがあなたに分かるの?分かるはずがない!)
佐和子は、その美しい瞳でわたしを睨み付けます。それはそれは美しい眼差しで。
ひと呼吸、置いてから、わたしは話を続けました。
「……まあ、いいわ、準備はできたようだし、さっそく始めましょう。」
いよいよ、佐和子先生を加えた最後の狂宴が始まろうとしていました。
**********
(おわりに)
佐和子先生はゆっくりと中学時代の制服を着こみました。
佐和子先生の留守中、わたしの指導で女子も男子も素晴らしいハーモニーを作り出しました。そこへ、会議を終えて佐和子先生が音楽教室にやってきましたが、そこで生徒たちの惨状を目にすると共に、自分に瓜二つのわたしを見て驚きました。しかもその女性は、なぜか佐和子先生の中学生の時の制服を持っていたのです。
**********
佐和子にはもう何が何だか分からなくなりました。気を失い倒れることが出来たら、どんなにか幸せだったろう。
「こ、これは……一体、どうして……これが……。」
それは紛れもなく、佐和子がこの中学に在籍していた時に、自分が着用していた、自分の制服でした。
生徒達の異常な痴態……、
自分に瓜二つの謎の女……、
操り人形のような男子生徒……、
そして、今、目の前に、8年の時空を飛び越えたかのような昔の自分の制服……、
知識と理性を旨とする教育者であるところの彼女にとっては、想像を超える事態が次々に繰り広げられていました。
わたしは、そんな佐和子の心の動きを楽しみつつ。柔らかな笑みをたたえながら、優しく彼女に語りかけました。
「あなたがこれに着替えてくれない限り、生徒達へのわたしのレッスンは終わらない。逃げ出したいなら止めないけど、……どうせドアも窓も開かないわ。」
佐和子は引き結んだ口許に力をこめながら、その美しい瞳でわたしを睨みつけている。そうすることでしか、自分の恐怖を押さえこむことができないのだろう。
「……そう、どうしても嫌なら…」
わたしはちょっと困った風に装いながら、顔をかしげつつも、心の中ではとても楽しんでいました。そして、微笑みながら、
「……では、生徒さんたちに先生の着替えを手伝ってもらいましょう。大好きな佐和子先生ですから、生徒たちも喜んで手伝ってくれることでしょうね。」
そう言って、わたしが軽くウィンクをすると、あたかもそれが合図ででもあったかのように、表情を失っているセーラー服姿の男子たちがゆっくりと佐和子に近づいてきました。
まるで、夢遊病者のようにゆらゆらとやってきた男子でしたが、両側から四人がかりで佐和子の両腕・両足を押さえつけたその力はとても強く、佐和子の膂力ではとてものこと、ふりほどくことができませんでした。
その間も佐和子は、生徒たちに必死に呼びかけました。
「●●くん! 手を、手を放して! 」
「●●くん! 目を覚まして! お願い! 」
「……聞こえないの! ●●さん! 助けて! 」
佐和子の絶叫は、いつしか涙まじりの嗚咽となっていきました。
「放して! ……放して放して放して放して放してぇぇぇ! ……放してよぉ……うっ、うっうっうっ……お願い……ううっ、うっ……やめてぇ……やめてよぉぉ……もぉ、お願いだからぁ……うっ、ううっ……」
……女子の名前を呼び……男子の名前を呼び……正気を取り戻すよう、何度も叫んだ……。何度も何度も。……絶叫し、涙声となり……。だが、すべては徒労でしかありませんでした。
そして、ひとりの男子が、佐和子のブラウスのボタンを外そうと、いよいよブラウスの襟に手を掛けました。その時、ようやく佐和子は観念したように言いました。
「じ、自分で……着替えさせてください。……お願い……します。」
佐和子は、その表情に屈辱と羞恥の色をにじませて、搾り出すように、ようやくそれだけの言葉を吐き出しました。
その瞬間、佐和子の四肢に取り付いていた男子生徒の押さえがとけ、佐和子はガックリとその場に崩れ落ちました。
わたしはニッコリと微笑んで、へたりこむ佐和子の目の前の床上に、ゆっくりと彼女の制服を置きました。
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しばらくその制服を放心したように見つめていた佐和子でありましたが、あきらめたかのようにゆっくりと立ち上がり、服を脱ぎ始めました。
ひとつひとつブラウスのボタンを外し、ブラウスを羽織ったまま、次に左脇のスカートのホックを外しました。
ファスナーを下げると、佐和子の手を離れたベージュのフレアースカートが布地に空気を膨らませてふわっと広がり、美しく佐和子の足元に舞い降りました。
次いで白いサテン地のブラウスをしゅるしゅると脱いだ佐和子は、そのブラウスで胸元を隠すように押さえながら、スカートの形作るリングから足を抜きました。
佐和子の純白のレーシーなスリップ姿は、とても神々しく美しいものでした。隠すものもないのに、右腕に抱えたサテンのブラウスで胸を押さえ、左手をスリップの前に当てている佐和子の自然な仕草が、清楚でいじましく思えます。
次いで、佐和子は、ウチバキにしているパンプスを、片足づつ膝を折るように後ろ手で脱ぎ、ブラウスを一旦、スカートの上に置きました。そして、やや、恥ずかしそうにスリップの中に両手を入れて、ベージュのストッキングを腰から脱いで裸足になりました。
完全にスリップ1枚の姿となった佐和子は、おもむろに床に膝を付いて、スカートとブラウスを拾い上げて、それらをゆっくりと丁寧にたたみ始めました。最後に、その畳まれたスカートとブラウスの上に、簡単に四つ折りしたパンストを乗せました。
一連の佐和子の所作は、気持ちを落ち着かせようとするのと同時に、佐和子の時間稼ぎでもあったわけでしょうが、純白のスリップ姿の佐和子の姿は、清楚に神々しく美しく、私もいつまでも飽きずに眺めていることができました。
彼女がいかに時間稼ぎをしようとも、私にとっても時間は十分にあるのですから。
**********
衣服をたたみ終わると、佐和子は相変わらずわたしや生徒たちがいる方向に背を向けつつ、懐かしい中学時代の自分の制服を手に取りました。わたしの目から、滑らかな肌をした背中に、美しいスリップのレース飾りと、ブラとスリップの4本線のストラップが綺麗に見えています。
(本当に、中学の時の……私の制服? )
不思議な事に生地は何年もたっているとは思えない程にまったく傷みもなく変わりがありません。
(本当に8年も立っているなら、もっと生地が固くなっている筈なのに……? それに、8年も折り畳まれているのに、そんなにきつい折り皺も出来ていない……?)
セーラー服の左ファスナーを開けてみると、内側のポリエステルサテン地にオレンジ色の刺繍糸で確かに佐和子の名前が刺繍してあります。
(そ、そんな……。いえいえ、ありえない。……こんなことは、いくらでも複製できる。……騙されちゃいけない。)
佐和子は、観念しそうになる気持ちを、気力でなんとか奮い立たせようとしていました。そして淡々と着替えを続けます。スリップ姿の上から、セーラー服の両腕に袖を通して、頭から制服をかぶりました。
23歳の佐和子には成熟した胸が多少きつかったようですが、元来が大きめに作る伸び盛りの中学生の制服だけに、さして苦もなく着ることが出来ました。冬の青緑色のセーラー服は、中間服とは違う明るい黄緑色の二本線が衿と袖に入っていました。
そして、最後に緑色の光沢のあるシルクのスカーフをセーラー襟に通すと、セーラー襟の先端で、共布のスカーフ留めで押さえてボタンホックでパチンと押さえます。
そのセーラー服には中学時代の佐和子の残り香までもが消えずにこもっていました。まるで、昨日まで中学生の佐和子が着ていたかのように……。
佐和子は、中学時代に彼女自身がそうしていたように、パンティーの上に濃紺のブルマを穿きました。
(……やっぱり。……でも、ここまでする……? )
ブルマにはオレンジの刺繍で佐和子の名前がしっかりと縫いつけられていました。どこまでも念入りに。
(……いえ、子供たちもきっとクスリかなんかで操られているだけなのよ、きっと。……わたしがしっかりしなきゃ。……子供たちを助けられるのは、わたしだけ。)
そして、深い青色のプリーツスカートを手に取ります。それを見た時、わずかに強い意志を振り絞っていた佐和子を更に奈落に突き落とすものが待っていました……。
(……これは、刺繍じゃない! ……手書きの……私の字! ……本当なの! 私が書いた字なの! )
スカートのウエストホックのところにあるポケットの裏地にあるネームには、佐和子には見覚えのある筆跡で名前が書いてあります。中学生当時、自分が書いていたクセまでがそのまま再現されている文字が!
「佐和子先生、さすが教育者ですね。その現実的思考にもとづいた合理的精神と分析力はお見事です。先生の優秀なる資質がよく理解できますわ。」
(いや、……そんな、……どうして、)
「……でも、そこに書いてある名前は、誰が書いた文字か、……書いた本人なら、分かりますよね。」
それでも佐和子は取り乱すことなく、平静を装ってスカートに足を入れます。しかし、ウエストのホックを留める時、動揺による指先の震えを治めることは隠しようもありませんでした。スカートのホックが、なかなか留められません。
中学時代よりは背が伸びた佐和子でありましたが、ウエストは基本的にそれほど変わりがなかったので、スカートもアジャスターの調整だけで容易に着ることができる筈でしたが、動揺をさとられまいと思えば思うほど、指先が震えて、あらぬ所を無駄にカチャカチャしていました。
なんとかようやく、スカートのホックを留め、佐和子は改めて平静を取り戻そうとするかのように、深呼吸をしながら、ゆっくりと次の着替えを進めました。
生徒手帳をセーラー服の左下のポケットに入れ、靴下を履いて三つ折りに畳み、上履きを履きました。
(手帳を見ちゃだめ、……この人の手に乗せられるだけ。……なんとか、時間を稼いで、まず、逃げ出す隙を見つけることが第一。)
そして、これもまた時間稼ぎのつもりでしょうが、髪も当時と同じように、短いなりにツインテールに結んでカチューシャをつけました。
もともと童顔な事もあって、すべてを身につけるとほぼ中学生の佐和子が蘇りました。
佐和子は23歳にもなって中学時代の自分のセーラー服を人前で身につけるという倒錯的な行為に激しく羞恥し、身体が熱くなるのを感じました。
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「佐和子先生、ご協力を感謝します。これで一層、みんなと一体感のある素晴らしい演奏がきっとできますわ。」
わたしは満面の笑顔で中学生に戻った佐和子先生に声をかけました。
佐和子が着替えを終えて振り向くと、自分にうりふたつのその女性が、いつのまにか自分と同じツインテールにして、深い青色のセーラー服を身につけている。しかもネームプレートまで……。
(い、いつのまに! ……目を離したのは一瞬、視界の隅には必ず入れていたのに! )
佐和子は、私からの言葉にうまうまと乗せられないように、見ていないふりをしつつも、隙をうかがいながら視界の中には出来るだけ入れていたようです。それだけに、佐和子にはまるで魔法としか考えられないのです。
「驚くことはないわ。これもレプリカなんかじゃない本物のあなたの制服よ。誰だって冬服の替えをもう一枚か二枚くらいは持ってるでしょう。」
(そんな問題じゃない! ……そんな、一体、どうして! )
佐和子の瞳は、驚きで大きく見開かれた。
「……でもさすがにカチューシャまではまったくの同じ物じゃないけど、それでも私がつけてるのはあなたの中学生の時のものよ。」
努めて平静を取り戻そうと、無心にゆっくり着替えを終えて、落ち着いたつもりの佐和子でした。むしろ、理性よりも倒錯した羞恥心の方が強かった筈のものでしたが……、
(いったい、なんなの! ……この人、なに! ……どこでどうしたら、そんなことが! ……い、いや! ……いやいやいやいやいやぁぁぁぁ! )
佐和子は、ここにきて再び訳の分からない恐怖にとらわれはじめ、無意識にジリッジリッと後ずさりを始めていました。
「ふふふっ……怖がらなくても良いのよ。信じられないかもしれないけど、あなたに暴力的な危害を加えるつもりはまったくないのよ。」
今更、そんな言葉に安堵できる精神状態ではないでしょう。
「今はまだ信じられないでしょうね。でも、わたしはあなたの夢を叶えてあげるために来たのよ。誰にも言えないあなたの夢、決して許されないあなたの恋、それを叶えてあげたいだけなの。」
(何を言っているの、この人は!わたしの夢?わたしの恋?……なんで、そんなことがあなたに分かるの?分かるはずがない!)
佐和子は、その美しい瞳でわたしを睨み付けます。それはそれは美しい眼差しで。
ひと呼吸、置いてから、わたしは話を続けました。
「……まあ、いいわ、準備はできたようだし、さっそく始めましょう。」
いよいよ、佐和子先生を加えた最後の狂宴が始まろうとしていました。
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(おわりに)
佐和子先生はゆっくりと中学時代の制服を着こみました。
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