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森山家の章
第1話 由美との出逢い
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私は魔法使い、女装した魔法使いです。私にはどんな事でも不可能な事はありません。時間を停める事も、透明人間になる事も、人や物を自由に操る事も、私に不可能はないのです。
でも、私は悪い魔法使いではありません。世の中に御迷惑をおかけするような犯罪行為に、私の魔法を恣意的に使うような事は、私の本意とするところではありません。
私は世の中の女性達、とりわけ可愛い少女達に性の素晴しさを教え広める愛の伝道師なのです。今回も私は、素敵な出会いを求めて、とある地方都市の駅に降り立ちました。
**********
その日、私は駅舎2階の改札口を出て、駅舎や駅ビルの商業施設に隣接する広々としたペデストリアンデッキに出ました。横断歩道とはまるで規模が違う屋外の立体広場のようで、駅や商業施設に行く人々で賑わっています。
昼下がりのおだやかな日差しがさす秋のある日、多くの人が行き交う中、私は街中の賑わいを求めて駅から外に歩き出しました。
地方都市にしては広々とした作りのペデストリアンデッキを、駅と反対方向に進み、路上に降りる階段を見つけ、そこに向かいました。階段に併設してあるエスカレーターは上り専用のようで、駅方向に向かう人々を続々と吐き出しています。
下りの階段に差し掛かろうとした時、上りのエスカレーターの上がり口に出たおばあちゃんがややもたついたようで、後続の若いチャラそうな大学生らしきお兄さん二人組が、おばあちゃんを押し倒すようにぶつかってきました。
「ひ、ひぃ~! 」
倒れた拍子に、買い物袋から、スーパーで購入した食材が散乱してしまいます。
「トロトロしてんじゃねえぞ、ババア! 」
その傍若無人な様子に呆気に取られる周囲をよそに、悪びれることもなく捨て台詞を吐いて、駅の方向に歩いていきます。
「大丈夫! おばあちゃん! 」
エスカレーターで後続していた紺ブレ制服姿の女子高生達が、あわてて、倒れこんだおばあちゃんに駆け寄ります。部活帰りらしく、可愛い刺繍やアップリケを施した濃紺の胴着袋を肩から外して路上に置き、倒れたおばあちゃんを抱き抱えて、散乱している食材を拾い集めようとしました。
しかし、その女子高生の中のひとりが、路上におちた饅頭をおもむろに拾いあげ、高校球児のピッチャーもかくやの感じで、ふりかぶり、脚を上げ、体をひねり、過ぎ去る若者の後頭部に向けて思い切り投げつけました!
(あら、素敵! )
女子高生の投げた饅頭は、絶妙なコントロールで、見事、ストライク!二人組のひとりの後頭部にびっちゃりと中のアンコを飛び散らせます。つぶ餡の美味しそうなあんこです。
振り返った二人組……当たったのは饅頭ですからダメージはほとんどないようです。しかし、ちっぽけなメンツを潰されたと感じている二人は、額の血管をピキピキとさせ、くわえタバコのまま、目を細めたガン飛ばしで、メンチを切りながら、ゆっくり近づいてきます。
「由美……。」
「大丈夫。下がっててね。」
その二人組を睨み据えたたまま、心配げに袖を取る友人に答えた声は、しっかりと落ち着いていました。しかし、ズンズンと近づいてくる見るからにコワモテの二人組……
その瞬間、竹刀一閃、目にも止まらぬ素早さで、と言うのは大袈裟でしょうが、二人組のひとり、饅頭男の顔の面前、少女の竹刀が紙一重で空を切り裂きます。
「! 」
薙ぎ払われた饅頭男のくわえタバコが、饅頭男の下唇に引っ付いたフィルターで、ぶざまにぷらんぷらんとぶら下がっています。何が起きたかも分からず、呆気に取られる饅頭男……
「てめえ! なにしやがっ……。」
饅頭男の隣の男が勢い込んで向かって行こうとした矢先、少女の竹刀が男の喉元にピタリと止まります。少女剣士の美しい晴眼の構えに、「おー! 」と周りから感嘆の声が沸き起こります。
一連の出来事を間近に眺めていた私は、その挙動の凛々しさと美しさに、つい、見とれてしまいました。更に、饅頭を投げた瞬間にチラリとかいま見えた純白のスリップとパンティにも……
私は嬉しくなって、つい、ウィンクしてしまいました。その瞬間、二人組の男達のベルトが切れ、ズボンの止め金やファスナーが同時にバカになり全開、二人のズボンがストンと落ち去りました。
「キャッ! 」
おばあちゃんを抱き抱えていた女子高生達は、あられもない柄物トランクスと、股間もっこりのブリーフ、それと、脛毛バリバリの脚に、思わず悲鳴を上げてしまいました。でも、向かい合う少女剣士は涼しげな目元のまま、冷静に微動だにせず、男の喉元に向けた切っ先は小揺るぎもしません。
**********
「由美ぃ~、大丈夫ぅ! ……もぉドラマみたいにカッコ良かったぁ! でも、怖かったよぉ~! 」
市民のささやかな拍手と歓声の中、二人組はズボンを押さえながらほうほうの体で退散しました。
「ごめんぬね、でも、先生には言わないでね、街中で竹刀を振り回したなんて知られたら、良くて謹慎、最悪、退部だから。」
「言わない言わない! う~しゃべらない自信はないし、メチャしゃべりたいけど、言わない! それに、由美にそんなことしたら、先生の方を追い出してやるんだから! 」
女子高生達は、ワイワイと賑やかに、おばあちゃんを介抱して駅まで送って行く様子です。その後ろ姿を見つめながら、私はその「由美」という少女に、とても興味を持ちました。
ショートカットで前髪をボーイッシュに分け、長く垂らした前髪のかかる瞳は涼やかに細く、理知的な雰囲気と意思の強さをかもし出していました。薄く小さく整った唇も彼女の知性的な雰囲気を感じさせます。頬骨は薄めで、顎は細く、逆三角形、もしくは玄米形の顔の輪郭をしています。
今回、私は、この由美という少女に対して、直接的なアプローチをする事なく、しばらく由美の家族を含めて観察してみることにしました。
**********
(おわりに)
街中で肩で風を切って歩く傍若無人な若者、ぶつけられて転んだおばあさんを助けた女子高生たちは、そのチンピラを見事に撃退したのでした。
でも、私は悪い魔法使いではありません。世の中に御迷惑をおかけするような犯罪行為に、私の魔法を恣意的に使うような事は、私の本意とするところではありません。
私は世の中の女性達、とりわけ可愛い少女達に性の素晴しさを教え広める愛の伝道師なのです。今回も私は、素敵な出会いを求めて、とある地方都市の駅に降り立ちました。
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その日、私は駅舎2階の改札口を出て、駅舎や駅ビルの商業施設に隣接する広々としたペデストリアンデッキに出ました。横断歩道とはまるで規模が違う屋外の立体広場のようで、駅や商業施設に行く人々で賑わっています。
昼下がりのおだやかな日差しがさす秋のある日、多くの人が行き交う中、私は街中の賑わいを求めて駅から外に歩き出しました。
地方都市にしては広々とした作りのペデストリアンデッキを、駅と反対方向に進み、路上に降りる階段を見つけ、そこに向かいました。階段に併設してあるエスカレーターは上り専用のようで、駅方向に向かう人々を続々と吐き出しています。
下りの階段に差し掛かろうとした時、上りのエスカレーターの上がり口に出たおばあちゃんがややもたついたようで、後続の若いチャラそうな大学生らしきお兄さん二人組が、おばあちゃんを押し倒すようにぶつかってきました。
「ひ、ひぃ~! 」
倒れた拍子に、買い物袋から、スーパーで購入した食材が散乱してしまいます。
「トロトロしてんじゃねえぞ、ババア! 」
その傍若無人な様子に呆気に取られる周囲をよそに、悪びれることもなく捨て台詞を吐いて、駅の方向に歩いていきます。
「大丈夫! おばあちゃん! 」
エスカレーターで後続していた紺ブレ制服姿の女子高生達が、あわてて、倒れこんだおばあちゃんに駆け寄ります。部活帰りらしく、可愛い刺繍やアップリケを施した濃紺の胴着袋を肩から外して路上に置き、倒れたおばあちゃんを抱き抱えて、散乱している食材を拾い集めようとしました。
しかし、その女子高生の中のひとりが、路上におちた饅頭をおもむろに拾いあげ、高校球児のピッチャーもかくやの感じで、ふりかぶり、脚を上げ、体をひねり、過ぎ去る若者の後頭部に向けて思い切り投げつけました!
(あら、素敵! )
女子高生の投げた饅頭は、絶妙なコントロールで、見事、ストライク!二人組のひとりの後頭部にびっちゃりと中のアンコを飛び散らせます。つぶ餡の美味しそうなあんこです。
振り返った二人組……当たったのは饅頭ですからダメージはほとんどないようです。しかし、ちっぽけなメンツを潰されたと感じている二人は、額の血管をピキピキとさせ、くわえタバコのまま、目を細めたガン飛ばしで、メンチを切りながら、ゆっくり近づいてきます。
「由美……。」
「大丈夫。下がっててね。」
その二人組を睨み据えたたまま、心配げに袖を取る友人に答えた声は、しっかりと落ち着いていました。しかし、ズンズンと近づいてくる見るからにコワモテの二人組……
その瞬間、竹刀一閃、目にも止まらぬ素早さで、と言うのは大袈裟でしょうが、二人組のひとり、饅頭男の顔の面前、少女の竹刀が紙一重で空を切り裂きます。
「! 」
薙ぎ払われた饅頭男のくわえタバコが、饅頭男の下唇に引っ付いたフィルターで、ぶざまにぷらんぷらんとぶら下がっています。何が起きたかも分からず、呆気に取られる饅頭男……
「てめえ! なにしやがっ……。」
饅頭男の隣の男が勢い込んで向かって行こうとした矢先、少女の竹刀が男の喉元にピタリと止まります。少女剣士の美しい晴眼の構えに、「おー! 」と周りから感嘆の声が沸き起こります。
一連の出来事を間近に眺めていた私は、その挙動の凛々しさと美しさに、つい、見とれてしまいました。更に、饅頭を投げた瞬間にチラリとかいま見えた純白のスリップとパンティにも……
私は嬉しくなって、つい、ウィンクしてしまいました。その瞬間、二人組の男達のベルトが切れ、ズボンの止め金やファスナーが同時にバカになり全開、二人のズボンがストンと落ち去りました。
「キャッ! 」
おばあちゃんを抱き抱えていた女子高生達は、あられもない柄物トランクスと、股間もっこりのブリーフ、それと、脛毛バリバリの脚に、思わず悲鳴を上げてしまいました。でも、向かい合う少女剣士は涼しげな目元のまま、冷静に微動だにせず、男の喉元に向けた切っ先は小揺るぎもしません。
**********
「由美ぃ~、大丈夫ぅ! ……もぉドラマみたいにカッコ良かったぁ! でも、怖かったよぉ~! 」
市民のささやかな拍手と歓声の中、二人組はズボンを押さえながらほうほうの体で退散しました。
「ごめんぬね、でも、先生には言わないでね、街中で竹刀を振り回したなんて知られたら、良くて謹慎、最悪、退部だから。」
「言わない言わない! う~しゃべらない自信はないし、メチャしゃべりたいけど、言わない! それに、由美にそんなことしたら、先生の方を追い出してやるんだから! 」
女子高生達は、ワイワイと賑やかに、おばあちゃんを介抱して駅まで送って行く様子です。その後ろ姿を見つめながら、私はその「由美」という少女に、とても興味を持ちました。
ショートカットで前髪をボーイッシュに分け、長く垂らした前髪のかかる瞳は涼やかに細く、理知的な雰囲気と意思の強さをかもし出していました。薄く小さく整った唇も彼女の知性的な雰囲気を感じさせます。頬骨は薄めで、顎は細く、逆三角形、もしくは玄米形の顔の輪郭をしています。
今回、私は、この由美という少女に対して、直接的なアプローチをする事なく、しばらく由美の家族を含めて観察してみることにしました。
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(おわりに)
街中で肩で風を切って歩く傍若無人な若者、ぶつけられて転んだおばあさんを助けた女子高生たちは、そのチンピラを見事に撃退したのでした。
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