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新婦志津子の章
第15話 キャンドルサービス
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(これまでのあらすじ……)
今回の舞台は結婚披露宴。新郎新婦紹介、来賓祝辞、鏡割、ケーキ入刀と、プログラムは淡々と進行し、余興が始まると披露宴はいやが上にも盛り上がりました。いつしか意識を失った新婦が目覚めると、あの狂宴は片鱗も見えません。不思議な思いのままお色直しをして会場に戻った新婦は、改めて披露宴にのぞむのでした。
**********
照明を落とした会場の扉が開き、スポットライトに浮かび上がった新郎新婦の姿が現れると、会場からはひときわ大きな拍手が沸き起こります。
シルバーの光沢のあるシャンタンスーツを着た新郎と、パステルピンクのサテンカラードレスを着た新婦がゆっくりと会場に足を踏み入れ、そこでまた一礼をするや、再び会場から割れんばかりの拍手が起きました。
志津子は、晴れやかな笑顔を取り戻し、列席者の笑顔を確認するかのように、ゆっくりと見知った顔のひとつひとつを確認しました。
友人・知人・恩師に親族、みな、志津子に楽しそうな笑顔を見せて、志津子に力を与えてくれるような気さえしました。
「お色直しをされた新郎新婦様のご入場です。装いも新たにされたお二人は、ただいまより、皆様のテーブルを回りながら、熱い愛の炎を、皆様のキャンドルに灯しにうかがいます。」
司会者が次のイベントであるキャンドルサービスを案内します。結婚式には定番ながら、テーブルを廻りながら参列者からの祝いの言葉を受け、一層の幸せを噛み締めるイベントでもあります。
「……では、キャンドルサービスの開始です。皆様、盛大な拍手で幸せなお二人をお迎えください。」
司会者の案内とともに、それまでのヒーリング系の柔らかなBGMだったものから、軽やかな「てんと●むしのサンバ」のBGMが流れ始めました。
(え? そういえば、キャンドルサービスなら、わたしたちが持つ点火用のトーチがいるんじゃない? あれ? 変ねぇ……。)
志津子のもっともな疑問をよそに、司会者の案内は続きます。
「各テーブルともキャンドルの準備はよろしいですか? 新郎様もキャンドルの準備はよろしいでしょうか? ……では、お願いいたします。」
(え?キャンドルの……準備?……何を言ってるの?このひと……)
志津子が素直な疑問を呈します。しかし、次の瞬間、再び、志津子の心が凍りつきます。
司会者の言葉と供に、会場の男性たちが立ち上がり、ズボンを下ろし始めました。そして、更に新郎もまた、やにわにズボンを脱ぎ始めたのです。
「なっ……!」
志津子は目を丸くして驚きましたが、次の瞬間、あの白日夢と同じように、身体の自由が利かなくなってしまったのでした。
(え!ま、また!こ、声が出ない!か、身体も、動かない!)
再び、志津子は塑像のように固まり、身動きができなくなります。
(えっ……あれは、わたしの妄想ではなかったの?……あれは……あれは……??? )
混乱する志津子の狼狽を知ってか知らずか、淡々とスケジュールは消化されていきます。もちろん、司会者のわたしの耳に志津子の心の叫びは届いていますけどね。
「ではキャンドルサービスを始めさせていただきます。新婦様より、皆様のキャンドルに、愛を皆様と分かち合う、心を込めたサービスをさせていただきます!」
(えっ……皆様のキャンドル? 新婦がサービスって、何? わたしが一体なんなの? 何がどうなっているの? ……。)
「……なお、ご婦人方は、新郎様のキャンドルへ、祝福のサービスをしていただきたく、ご協力をお願いいたします。」
(あの司会者、何を言ってるの! 意味が分からない! いったい、どんなキャンドルサービスよ! )
志津子にはまったくわけが分かりません。……一体何がどうなっているのか……。
しかし、混乱しているのは、この会場の中では志津子一人のみかもしれません。他の者すべては、既にわたしの快楽世界の術中の中に落ちていたのですから。
志津子は眉ひとつ動かせない中で、必死に声の正体に向けて眼球を動かすのが精一杯でした。
その視線の先に、確かにその司会者はいました。そして、間違いなく司会者の視線も、志津子の視線と交錯しています。
しかも、彼女の視線を知っているかのように、その瞬間、確かに彼女に向けて笑みを浮かべていた。
(こ、この人……、あ、あなたね! みんなをおかしくしているのは! )
わたしには、その志津子の叫びがしっかり聞こえています。
(そう、すべてはわたしが仕組んだことよ。でも、それはすべてあなたのため。あなたの心の中に閉ざした澱を、すべて流し去るためにね。)
わたしの言葉は、残念ながら彼女の耳には届きません。
しかし、彼女には予告も説明もなしに投げ込まれた、彼女にとっての理不尽なこの状況に、抗議をする権利くらいは留保して然るべきでありましょう。
もっとも、その抗議には、なんの効力もありはしないのですが。
(いったい、なぜ、こんなことをするの! 久美ちゃんが何をしたと言うの! 和江や唯たちをどうして巻き込むの!)
怒りに震えた志津子の叫びがわたしの耳朶に届きます。
(もし、わたしや竜治に恨みがあるのなら、わたしたちだけにしなさい! みんなは関係ないでしょう! )
志津子の叫びはわたしにしっかり届いていますが、わたしの心の声は彼女には届かない。でも、わたしは彼女に答えたかった。
(すべての快楽に身を委ねることが出来るようになれば……、あなたが、それを受け入れることが出来るようになれば……)
わたしは志津子の可能性に期待しているのです。志津子なら、その美しさをもっともっと妖艶で艶やかなものに昇華できる筈なのです。
(そうすれば、お兄さんへのあなたの憎しみも消え、あなたは一点の翳りもない、完全な美しさを手に入れることができるの。……その時、あなたは、むしろ私に感謝するはずよ。)
わたしにとって必然のプロセスであるところの志津子の絶望と怒り、それがわたしにビンビンと伝わってきます。
しかし、志津子はいつまでもそんなことをしている余裕はなかったのです。列席者の皆様も、はや準備万端に整い、花嫁のサービスを待っていました。
「さあ、志津子……皆さん、キャンドルを準備してお待ちかねだよ……知らないわけがないだろう、ほら、このご婦人のように、君も皆さんにして差し上げなさい。」
そう語りかけた竜治の下半身には、うら若きご婦人がまとわりつき、竜治のペニスを一生懸命にしゃぶっていました。
そのご婦人は志津子もよく知っている、志津子の母の妹、志津子には叔母にあたる女性でした。
(ゆ、ゆりお姉ちゃん! ……。)
しかし、志津子には他に気を取られている暇はありませんでした。
気がつくと下半身裸の礼服の男たちが志津子のところへ近づいてくるではありませんか。
それを目の当たりにした志津子は、一瞬にして目の前が真っ暗になりました……
(あれは夢ではなかったの? ……あの忌まわしい淫らな宴が、これからまだ続くというの? ……。)
すると、志津子は父と母と兄に押さえつけられ、まず一本目のキャンドルの前に引き立てられました。そして、その場に膝まづかされたのです。
(お父さん、やめて……お願い……お母さん、助けて……お兄ちゃん……。)
志津子の悲痛な叫びは、父にも母にも届きませんでした。志津子は無情にも実の家族により膝まづかされ、口をこじあけられ、無理矢理に目の前のペニスをくわえこまされたのでした。
(んっ……んぐっ……。)
志津子が最初にくわえたのは、初老の60代後半の男性のものでした。
激しいむせ返るような異臭でありましたが、後ろから押さえられた上に、更に頭をその男性にしっかりとわしづかみされ、しかも、前後に頭を揺さぶられている志津子にはどうしようもありません。
あとは、されるがままに、ただ男性の終わるのを待つしかありませんでした。
さぁ、女装魔法使いプロデュースの結婚披露宴、第2幕の始まりです。
**********
(おわりに)
志津子の悪夢はまだ終わってはいませんでした。それどころか、事態は前よりも志津子にとってつらいものだったかも知れません。新郎も含めた志津子以外のすべての人々が、もはや自我を失ったかのようでした。そして、志津子は家族の手により、無理矢理にキャンドルサービスをさせられたのでした。
今回の舞台は結婚披露宴。新郎新婦紹介、来賓祝辞、鏡割、ケーキ入刀と、プログラムは淡々と進行し、余興が始まると披露宴はいやが上にも盛り上がりました。いつしか意識を失った新婦が目覚めると、あの狂宴は片鱗も見えません。不思議な思いのままお色直しをして会場に戻った新婦は、改めて披露宴にのぞむのでした。
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照明を落とした会場の扉が開き、スポットライトに浮かび上がった新郎新婦の姿が現れると、会場からはひときわ大きな拍手が沸き起こります。
シルバーの光沢のあるシャンタンスーツを着た新郎と、パステルピンクのサテンカラードレスを着た新婦がゆっくりと会場に足を踏み入れ、そこでまた一礼をするや、再び会場から割れんばかりの拍手が起きました。
志津子は、晴れやかな笑顔を取り戻し、列席者の笑顔を確認するかのように、ゆっくりと見知った顔のひとつひとつを確認しました。
友人・知人・恩師に親族、みな、志津子に楽しそうな笑顔を見せて、志津子に力を与えてくれるような気さえしました。
「お色直しをされた新郎新婦様のご入場です。装いも新たにされたお二人は、ただいまより、皆様のテーブルを回りながら、熱い愛の炎を、皆様のキャンドルに灯しにうかがいます。」
司会者が次のイベントであるキャンドルサービスを案内します。結婚式には定番ながら、テーブルを廻りながら参列者からの祝いの言葉を受け、一層の幸せを噛み締めるイベントでもあります。
「……では、キャンドルサービスの開始です。皆様、盛大な拍手で幸せなお二人をお迎えください。」
司会者の案内とともに、それまでのヒーリング系の柔らかなBGMだったものから、軽やかな「てんと●むしのサンバ」のBGMが流れ始めました。
(え? そういえば、キャンドルサービスなら、わたしたちが持つ点火用のトーチがいるんじゃない? あれ? 変ねぇ……。)
志津子のもっともな疑問をよそに、司会者の案内は続きます。
「各テーブルともキャンドルの準備はよろしいですか? 新郎様もキャンドルの準備はよろしいでしょうか? ……では、お願いいたします。」
(え?キャンドルの……準備?……何を言ってるの?このひと……)
志津子が素直な疑問を呈します。しかし、次の瞬間、再び、志津子の心が凍りつきます。
司会者の言葉と供に、会場の男性たちが立ち上がり、ズボンを下ろし始めました。そして、更に新郎もまた、やにわにズボンを脱ぎ始めたのです。
「なっ……!」
志津子は目を丸くして驚きましたが、次の瞬間、あの白日夢と同じように、身体の自由が利かなくなってしまったのでした。
(え!ま、また!こ、声が出ない!か、身体も、動かない!)
再び、志津子は塑像のように固まり、身動きができなくなります。
(えっ……あれは、わたしの妄想ではなかったの?……あれは……あれは……??? )
混乱する志津子の狼狽を知ってか知らずか、淡々とスケジュールは消化されていきます。もちろん、司会者のわたしの耳に志津子の心の叫びは届いていますけどね。
「ではキャンドルサービスを始めさせていただきます。新婦様より、皆様のキャンドルに、愛を皆様と分かち合う、心を込めたサービスをさせていただきます!」
(えっ……皆様のキャンドル? 新婦がサービスって、何? わたしが一体なんなの? 何がどうなっているの? ……。)
「……なお、ご婦人方は、新郎様のキャンドルへ、祝福のサービスをしていただきたく、ご協力をお願いいたします。」
(あの司会者、何を言ってるの! 意味が分からない! いったい、どんなキャンドルサービスよ! )
志津子にはまったくわけが分かりません。……一体何がどうなっているのか……。
しかし、混乱しているのは、この会場の中では志津子一人のみかもしれません。他の者すべては、既にわたしの快楽世界の術中の中に落ちていたのですから。
志津子は眉ひとつ動かせない中で、必死に声の正体に向けて眼球を動かすのが精一杯でした。
その視線の先に、確かにその司会者はいました。そして、間違いなく司会者の視線も、志津子の視線と交錯しています。
しかも、彼女の視線を知っているかのように、その瞬間、確かに彼女に向けて笑みを浮かべていた。
(こ、この人……、あ、あなたね! みんなをおかしくしているのは! )
わたしには、その志津子の叫びがしっかり聞こえています。
(そう、すべてはわたしが仕組んだことよ。でも、それはすべてあなたのため。あなたの心の中に閉ざした澱を、すべて流し去るためにね。)
わたしの言葉は、残念ながら彼女の耳には届きません。
しかし、彼女には予告も説明もなしに投げ込まれた、彼女にとっての理不尽なこの状況に、抗議をする権利くらいは留保して然るべきでありましょう。
もっとも、その抗議には、なんの効力もありはしないのですが。
(いったい、なぜ、こんなことをするの! 久美ちゃんが何をしたと言うの! 和江や唯たちをどうして巻き込むの!)
怒りに震えた志津子の叫びがわたしの耳朶に届きます。
(もし、わたしや竜治に恨みがあるのなら、わたしたちだけにしなさい! みんなは関係ないでしょう! )
志津子の叫びはわたしにしっかり届いていますが、わたしの心の声は彼女には届かない。でも、わたしは彼女に答えたかった。
(すべての快楽に身を委ねることが出来るようになれば……、あなたが、それを受け入れることが出来るようになれば……)
わたしは志津子の可能性に期待しているのです。志津子なら、その美しさをもっともっと妖艶で艶やかなものに昇華できる筈なのです。
(そうすれば、お兄さんへのあなたの憎しみも消え、あなたは一点の翳りもない、完全な美しさを手に入れることができるの。……その時、あなたは、むしろ私に感謝するはずよ。)
わたしにとって必然のプロセスであるところの志津子の絶望と怒り、それがわたしにビンビンと伝わってきます。
しかし、志津子はいつまでもそんなことをしている余裕はなかったのです。列席者の皆様も、はや準備万端に整い、花嫁のサービスを待っていました。
「さあ、志津子……皆さん、キャンドルを準備してお待ちかねだよ……知らないわけがないだろう、ほら、このご婦人のように、君も皆さんにして差し上げなさい。」
そう語りかけた竜治の下半身には、うら若きご婦人がまとわりつき、竜治のペニスを一生懸命にしゃぶっていました。
そのご婦人は志津子もよく知っている、志津子の母の妹、志津子には叔母にあたる女性でした。
(ゆ、ゆりお姉ちゃん! ……。)
しかし、志津子には他に気を取られている暇はありませんでした。
気がつくと下半身裸の礼服の男たちが志津子のところへ近づいてくるではありませんか。
それを目の当たりにした志津子は、一瞬にして目の前が真っ暗になりました……
(あれは夢ではなかったの? ……あの忌まわしい淫らな宴が、これからまだ続くというの? ……。)
すると、志津子は父と母と兄に押さえつけられ、まず一本目のキャンドルの前に引き立てられました。そして、その場に膝まづかされたのです。
(お父さん、やめて……お願い……お母さん、助けて……お兄ちゃん……。)
志津子の悲痛な叫びは、父にも母にも届きませんでした。志津子は無情にも実の家族により膝まづかされ、口をこじあけられ、無理矢理に目の前のペニスをくわえこまされたのでした。
(んっ……んぐっ……。)
志津子が最初にくわえたのは、初老の60代後半の男性のものでした。
激しいむせ返るような異臭でありましたが、後ろから押さえられた上に、更に頭をその男性にしっかりとわしづかみされ、しかも、前後に頭を揺さぶられている志津子にはどうしようもありません。
あとは、されるがままに、ただ男性の終わるのを待つしかありませんでした。
さぁ、女装魔法使いプロデュースの結婚披露宴、第2幕の始まりです。
**********
(おわりに)
志津子の悪夢はまだ終わってはいませんでした。それどころか、事態は前よりも志津子にとってつらいものだったかも知れません。新郎も含めた志津子以外のすべての人々が、もはや自我を失ったかのようでした。そして、志津子は家族の手により、無理矢理にキャンドルサービスをさせられたのでした。
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