女装マニアな魔法使いが愛を伝道する

清十郎

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女装者の夢

第1話 はじまり

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(はじめに)

 簡素なマットレスのみが置かれた何もない部屋、そこになぜか裸の少年がひとりいました。物語はそこから始まります。

**********

 わたしは魔法使い。時間を操る能力を持っています。

 そして、わたしは今、15歳のある少年の目の前にいます。

**********

 調度品の何もないがらんとした部屋の中、マットレスにシーツだけの簡素なベッドの上で、少年は、生まれたままの裸体でしゃがみこんでいます。少年は股間を恥ずかしそうに手で隠しながら、おびえた目でわたしを見ています。あわれな捨て犬か子猫のように、びくびくとおびえながら、ようやく絞り出すように言葉を発しました。

「ここは、どこ? ……お姉さんは誰? ぼくは、どうして裸なの……?? 」

 おびえる少年に対して、わたしは優しくゆっくりとした口調で答えます。

「何も怯えることはないわ。わたしはあなたに敵意もなければ、危害を加えるつもりもないの。それどころか、わたしはあなたの力になりたいの。」

 少年は疑念を持ちながらも、今現在、目の前の女性にしか助けを求められない境遇にあきらめのような思いにとらわれています。だから、その女性を信じるしか、少年には道がありませんでした。

 しかし、その女性の口から続いて出された言葉の意味は、少年を更に混乱させました。

「……わたしはあなたの全てを知っているのよ。」

 少年には、その言われている意味がよく分かりません。ここはいったいどこなのか、この女性はいったい誰なのか、そして、いつの間に、なぜ自分が裸になっているのか、すべてが謎だらけです。

「なんで、裸なの?タオルとか……お願いです。なんでも良いから、……何か着るものを貸してください。」

 そんな混乱の中にある少年が、まして裸のままにおかれて気持ちを落ち着けるものではありません。

「いいわよ。じゃあ、これを着なさい。」

 わたしは彼の目の前、簡素なベッドの上に、ひとそろいの衣類を置きました。それは、彼の中学の女子生徒の制服と女物の下着をでした。

 清楚な中学生らしい綿の白いパンティと、控えめなレース飾りのついた白いブラジャーとスリップ……。

 制服は白い丸襟の長袖ブラウスに紺の角抜きカブリベスト、そして、紺のプリーツスカートと黒のスクールストッキング……。

 その衣類をひと目見るなり、少年は驚いて、小さな声で抗議の声を上げます。

「何で?……ぼくは男だよ。お姉さん、間違えていない? 」

 せっかく出してもらった衣類でしたが、少年は顔を真っ赤にして、困ったようにわたしを見つめました。

 でも、そんな少年に対して、わたしはひと睨みして声を荒らげます。

「わたしはあなたの全てを知っていると言ったでしょう! さぁ! これを着るのよ! 」

 わたしはまず高圧的に彼に命じました。しかし、少年は、折り曲げた両足を両腕で抱えている姿勢をくずそうともせず、ぶるぶると震えながらも、横を向いたままでした。

 わたしは優しい口調で後の言葉を続けました。

「……大丈夫、女の子の服を着るのは初めてじゃないでしょ……それどころか、あなたはその服がとても好きな筈よ。」

 少年は目を丸くして驚きながらも、顔を真っ赤にして、反論にもならぬ口答えをしました。

「な、何で……そんな……。」

 でも、裸体で気の弱まっている中、可哀相に後の言葉が続かないようです。

**********

 しかし、最初から分かっていたわたしは、頬を緩めて、一転、優しい声になります。

「まだこれを着るのは、ちょっと早かったかしらね。……いいわ、順を追っていきましょう。その方が楽しそうだものね。」

 そう言うと、わたしは最初に出した女子中学生の制服と下着の一式を下げました。代わってわたしは別のものを用意しました。

 まず、レース飾りのついた純白のスリップ、黄色い地色のレース飾りのスリップ、水色のペーズリー柄のジャガード地紋のついたスリップ、そして、スリップというよりはベビードールのような形の、胸元にフリル飾りのふんだんに付いたピンクのスリップと、4枚のスリップを並べました。

 始めにそれを見た少年は、また、女性物かとうんざりした顔で見ていました。しかし、二枚目、三枚目と置かれたスリップを見る少年の瞳は、それと分かるほどに驚きを隠しませんでした。

 少年は驚愕に目を見開きましたが、その少年の反応は、それだけで十分にわたしを満足させるものでした。

 そして次に、わたしは、真っ白なボディースーツと水色のサニタリーショーツを出して、スリップの横に並べました。これもまた、少年は驚きの表情で見つめていました。少年がいくら平静を保とうとしていても、その大きく見開かれた瞳の動きは隠しようもありません。

「ふふふ……、どう? 全部、見覚えのあるものじゃないかしら? 」

「そんな……。な、なんで……。」

 少年の声はますますか細いものとなり、まるでつぶやくように音として聞こえないようなものとなっていました。しかし、少年の心の裡は、これからどうなっていくのかまったく分からない恐怖に支配されつつありました。

「どうしようかしらね、あなたに協力していただけないのなら、これをあなたのお母さんのところに持っていってもいいし……どうする?」

 少年は何も答えられないままでしたが、どんどん悪い想像が膨らんで、恐怖に心臓を鷲掴みされているのでしょうか、おずおずと小さな声で聞き返しました。

「わ、分かりました。……何でも、お姉さんの言う通りにします。……ぼ、ぼくは、……どうすれば良いの? 」

 ようやく観念した様子の少年は、自分が何をすれば良いのかをわたしに尋ねました。

「勘違いしないでね。わたしはあなたを困らせるつもりはないのよ。それどころか、あなたの希望を全部、叶えてあげたいの。」

 相変わらず少年は回答不能の迷路の中にいます。この状況で自分の味方を名乗られても、少年にはどうしようもありません。

 さっそくにわたしからの指示が飛びます。

「あなたが、小学生の頃、自宅の古い納屋の中で、いつもそうしていたように、やれば良いだけよ。」

 その瞬間、また、少年の顔が真っ赤になりました。

 なぜ、この女性は知っているのか……どこまで、この女性は知っているのか……少年の謎は深まり、ますます恐怖がつのってきます。少年に分かっているのは、この女性には逆らえないということだけでした。

 少年はおずおずと白いスリップを手にとりました。すると、すかさずわたしが声をかけます。

「あら? それから? ……順序が違うでしょう。」

 イタズラっぽくそう言うと、わたしは唇に笑みを浮かべながら、眉をヒクヒクとして目で少年に合図を送ります。そのわたしの視線の先には、純白のボディスーツがあります。

 少年は観念したようにボディスーツを手に取りました。そして、何かを哀願するかのようにわたしを見つめます。

 しかし、わたしはそれに対して微笑みはしたものの、ゆっくりとかぶりを振りました。そして、先を急がせるように顎をしゃくりました。それだけで少年には意味が伝わったようです。

 少年は諦めたように裸のまま立ちあがり、両手でボディスーツのストラップを持ち上げると、そのストラップを持つ手を開きました。そして、大きく開いたボディスーツの上部から、右足、そして、左足を差し入れました。そのまま、ボディスーツを引き上げてストラップを両肩に掛けました。

 少年の顔は真っ赤になっていました。でも、ボディスーツのクロッチにある三つボタンを留めた時、少年の身体に微弱電流のような心地よい刺激が駆け巡りました。

 この時、少年に昔の官能が鮮やかに甦ったのです。それは、誰にも知られていない少年だけの秘事でした。

**********

(おわりに)

 女装魔法使いたる私は、裸のままにうずくまる少年に対面して、女子中学生の制服一式と下着を手渡します。しかし、その着用を拒否する少年に、今度は別の下着を用意しました。その下着を見た少年は驚愕します。少年にはそれが見覚えのあるものだったからです。
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