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女装者の夢
第20話 夜明け
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(これまでのあらすじ……)
様々な衣裳で自慰にふけった少年の前に愛する少女を連れて来て、私が少年の未来の存在である事を伝えます。驚く少年でしたが、目前の愛する少女の誘惑には勝てず、少女の身体を堪能し始めるものの、少女の目に光るものを見つけてしまいます。私は、少女を征服するよう少年に迫りますが、少年は少女に向かい懺悔するかのように、自らの恥ずべき性癖を告白し私の命に背きます。彼は、ネームプレートのピンで自らの腕に深々と差し貫き、私に対し正面切って叛意をあらわにします。
**********
少年は私に正面きって逆らってきました。自分に逆らわれるというのも変な気分です。だからといって、わたしも、今更、ここで引き下がるわけにもいきません。
「あなたに未来を教えることは出来ないけど、何年かしたら、彼女はあなたの手の届かない遠くに行っちゃうの。きっとあなたはそれに耐えられない筈よ。死んで彼女を守っても意味はないわ。良いこと、これが最後のチャンスなの。」
それを聞いた少年は、不思議な笑みを浮かべたのでした。自分の夢が叶わぬことを自嘲した笑みなのか、それとも別の意味を含んでいるのか、それは彼の心を読めなくなったわたしにも分かりませんでした。
「ううっ……。」
少年は苦悶の表情をしつつも左腕からピンを引抜き、怪我をしていない右腕で改めて少女を強く抱きしめ、言葉を返しました。
「いいさ、それなら余計に生きていても仕方ない。そのショックかどうかは知らんけど、将来、お前のような化け物になるくらいなら、今、抱き締めているこの栄理の温もりを思い出に、いっそ未練なく死んでいける。今なら出来る。それで栄理が自由になれるなら、僕の命なんか惜しくはない。」
少年の頑なさには、もはや手の施しようもありません。確かにわたしは青臭い理想論に傾倒しやすいところがありますし、同時に、変に理屈っぽい性格をしていました。つまりは面倒な性格をしているのです。
「しようのない子ね。誰に似たのやら、面倒くさいこと、この上ないわ。」
少年は、改めて少女を強く抱きしめました。
「ごめん、栄理。僕のためにひどい目に逢わせて。何があっても必ず栄理を無事に帰してあげる。……ごめん。」
そうでした、こんな風に自分の行動に自ら陶酔する性向もあります。ついさっきまで肉欲にまみれていたのに、少女の登場で今更のように常識に目覚めたというのでしょうか。
いやはや、さすがの女装魔法使いも、もう、お手上げです。
「あ~ぁ、くだらない。せっかく、あなたのためにやっていることなのに、バカバカしいったらありゃしない。……わたしも手荒なことは好きじゃないし、もう、勝手にして。」
その瞬間でした。まるで、急に電気のブレーカーが落ちたかのように、少年は漆黒の闇の中に突き落とされたのでした。そして、同時に少年の意識もまた暗闇の中に深く沈み込んでいくのを感じました。
**********
目が覚めると、少年は自分の部屋のベッドの上に寝ていました。既に夜が明け、やわらかく明るい朝日が窓から差し込んでいます。気持ちの良い、優しい朝でした。
しかし、少年は目を開けると同時にガバッと起き上がり、すぐに自分の体を確認しようとしました。
「痛っ! ……。」
すぐに少年の左腕に痛みが走りました。血は既に乾いて止まっていましたが、腕の傷はしっかりと残っていました。
それに改めて身体を確認しても、裸でもないし、女子制服を着ているわけでもありません。いつも寝間着代わりにしているTシャツとハーフパンツ姿でした。周りを見渡しても、制服や下着などの女子の衣類は影も形もありません。
(……あれは? 一体? ……夢……じゃないよなぁ……?? )
夕べはわけのわからないことがたくさんあったような気がします。変な部屋からテニス部室に連れ出され、またどこか分からない部屋に行って……しかも、色んな女子の下着やユニフォームを着せられて、オナニーをさせられて……。
思い出すだけでも少年はその場で赤面してしまいました。そして、その場で、お尻に何かを入れられた? ……中学生の猥談でよく言う、「オカマを掘られた」? ……まさか自分がそれをされたとは信じがたいけれども、お尻にはその時の妙な感触も確かに残っています。
それよりも何よりも、少年にとって深刻だったのは、その場所に現実に栄理がいたのかどうかです。それこそが少年にとっての大問題でした。
なんだか、あの時は夢中で、栄理にとんでもないことを口走ったような気がします。これからの生活、いえ、自分の命にもかかわる大問題のように思えます。
しかし、どこでどうやってそうなったのかはまるで分かりませんが、少年はそれが夢であったと、そう信じようと思いました。自分の恥ずべき性癖を赤裸々に思い知らされただけに、夢であると信じたかったのです。
お尻の違和感は気のせいだろうし、腕の傷は寝相が悪くて針でも刺したか?……針なんかどこにもないし、その時に痛みで目が覚めない筈もありません。考えれば考えるほど理に合わない事ばかりでしたが、少年はそう思いたかったのです。
第一、あの謎の女性のやることなすことすべてが、そもそも理に合いません。
少年はしげしげと左腕を眺めながら、感慨に耽りました。傷口はそんなに大きくはありませんが、カピカピにこびりついた血が乾いてポロポロと剥がれ落ちる先の皮膚は、皮下出血でもしているのか大きく青黒くなっており、見ているだけでズキズキと痛みがぶり返します。
(今日は、学校……、休もっかなぁ……。腕、痛いし……。)
**********
結局、少年は学校に登校しました。事情なんか知る由もない母親からせき立てられるように家を追い出されます。もちろん、その母親は息子の腕の傷のことさえ知る筈もありません。少年は救急箱の絆創膏1枚を貼り付けただけで学校に向かいました。
登校してすぐ、少年は教室の中に栄理の姿を探し求めました。すると、彼女は自分の席から離れた場所でクラスメートと談笑していました。何事もなく普通に過ごしている彼女の姿を見て、少年はホッとしました。
授業が始まりましたが、左隣の冨塚好江にも、右隣の三条栄理にも、少年は恥ずかしくて顔が向けられませんでした。夢だと思い込みながらも、彼女たちのレオタードや下着や制服を着てオナニーをした生々しい記憶があるだけに、どちらの顔もまともに見られません。
休み時間に栄理の友達の1組の吉村裕美が、教室に来ていたようでしたが、少年は腕の怪我を隠す意味もあって、机に突っ伏して寝たふりをしていました。もちろん、彼女のバレーのユニフォームを着て狂ったようにオナニーをした上に、そこでオカマを掘られた記憶なんて思い出したくもありません。
しかし、少年にとってはもうひとつ不思議なことがありました。夕べはあれだけの狂態を演じ、テニス部室ではたくさんの女子のユニフォームを散らかし汚しまくったのに、不思議なことに変質者による侵入騒ぎも学校に起きた様子がありません。もちろん、女子バレー部や女子体操部の部室もです。どの部であれ、一個所でも女子部員が騒いだら校内は蜂の巣をつついたような騒ぎになるでしょう。
校内は放課後まで平穏なまま、既にグラウンドや体育館では部活動も始まっています。平穏な中学校の日常が流れています。なればこそ、あれは夢だったんだと少年が信じる根拠になります。しかし、未来の自分と称したあの人物なら、証拠を隠蔽するなぞたやすいことだろうとも思われましたが……。
ともあれ、そんな感じで学校での1日を平穏に過ごした少年でしたが、終日、何事もなく過ぎて、ようやく放課後を迎えました。いえ、かなり不自然な雰囲気ではあったかもしれません。いつもなら、両隣の好江や栄理に仲良く話しかけている筈の快活な少年が、この日はまったく会話をしないどころか、ろくに顔も合わせなかったのですから。
とにかく、少年は早々に帰宅しようと、教室から逃げるように生徒用玄関に向かおうとしたのでした。
**********
(おわりに)
少年は遂に未来の存在に打ち勝ち、愛する少女を守り抜くことに成功しました。夜が明け、朝になり、まるで昨夜の出来事がすべて夢であったかのように思われました。しかし、少年の腕には、それが夢ではない現実で起きたことであることを証明する証が残っていました。
様々な衣裳で自慰にふけった少年の前に愛する少女を連れて来て、私が少年の未来の存在である事を伝えます。驚く少年でしたが、目前の愛する少女の誘惑には勝てず、少女の身体を堪能し始めるものの、少女の目に光るものを見つけてしまいます。私は、少女を征服するよう少年に迫りますが、少年は少女に向かい懺悔するかのように、自らの恥ずべき性癖を告白し私の命に背きます。彼は、ネームプレートのピンで自らの腕に深々と差し貫き、私に対し正面切って叛意をあらわにします。
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少年は私に正面きって逆らってきました。自分に逆らわれるというのも変な気分です。だからといって、わたしも、今更、ここで引き下がるわけにもいきません。
「あなたに未来を教えることは出来ないけど、何年かしたら、彼女はあなたの手の届かない遠くに行っちゃうの。きっとあなたはそれに耐えられない筈よ。死んで彼女を守っても意味はないわ。良いこと、これが最後のチャンスなの。」
それを聞いた少年は、不思議な笑みを浮かべたのでした。自分の夢が叶わぬことを自嘲した笑みなのか、それとも別の意味を含んでいるのか、それは彼の心を読めなくなったわたしにも分かりませんでした。
「ううっ……。」
少年は苦悶の表情をしつつも左腕からピンを引抜き、怪我をしていない右腕で改めて少女を強く抱きしめ、言葉を返しました。
「いいさ、それなら余計に生きていても仕方ない。そのショックかどうかは知らんけど、将来、お前のような化け物になるくらいなら、今、抱き締めているこの栄理の温もりを思い出に、いっそ未練なく死んでいける。今なら出来る。それで栄理が自由になれるなら、僕の命なんか惜しくはない。」
少年の頑なさには、もはや手の施しようもありません。確かにわたしは青臭い理想論に傾倒しやすいところがありますし、同時に、変に理屈っぽい性格をしていました。つまりは面倒な性格をしているのです。
「しようのない子ね。誰に似たのやら、面倒くさいこと、この上ないわ。」
少年は、改めて少女を強く抱きしめました。
「ごめん、栄理。僕のためにひどい目に逢わせて。何があっても必ず栄理を無事に帰してあげる。……ごめん。」
そうでした、こんな風に自分の行動に自ら陶酔する性向もあります。ついさっきまで肉欲にまみれていたのに、少女の登場で今更のように常識に目覚めたというのでしょうか。
いやはや、さすがの女装魔法使いも、もう、お手上げです。
「あ~ぁ、くだらない。せっかく、あなたのためにやっていることなのに、バカバカしいったらありゃしない。……わたしも手荒なことは好きじゃないし、もう、勝手にして。」
その瞬間でした。まるで、急に電気のブレーカーが落ちたかのように、少年は漆黒の闇の中に突き落とされたのでした。そして、同時に少年の意識もまた暗闇の中に深く沈み込んでいくのを感じました。
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目が覚めると、少年は自分の部屋のベッドの上に寝ていました。既に夜が明け、やわらかく明るい朝日が窓から差し込んでいます。気持ちの良い、優しい朝でした。
しかし、少年は目を開けると同時にガバッと起き上がり、すぐに自分の体を確認しようとしました。
「痛っ! ……。」
すぐに少年の左腕に痛みが走りました。血は既に乾いて止まっていましたが、腕の傷はしっかりと残っていました。
それに改めて身体を確認しても、裸でもないし、女子制服を着ているわけでもありません。いつも寝間着代わりにしているTシャツとハーフパンツ姿でした。周りを見渡しても、制服や下着などの女子の衣類は影も形もありません。
(……あれは? 一体? ……夢……じゃないよなぁ……?? )
夕べはわけのわからないことがたくさんあったような気がします。変な部屋からテニス部室に連れ出され、またどこか分からない部屋に行って……しかも、色んな女子の下着やユニフォームを着せられて、オナニーをさせられて……。
思い出すだけでも少年はその場で赤面してしまいました。そして、その場で、お尻に何かを入れられた? ……中学生の猥談でよく言う、「オカマを掘られた」? ……まさか自分がそれをされたとは信じがたいけれども、お尻にはその時の妙な感触も確かに残っています。
それよりも何よりも、少年にとって深刻だったのは、その場所に現実に栄理がいたのかどうかです。それこそが少年にとっての大問題でした。
なんだか、あの時は夢中で、栄理にとんでもないことを口走ったような気がします。これからの生活、いえ、自分の命にもかかわる大問題のように思えます。
しかし、どこでどうやってそうなったのかはまるで分かりませんが、少年はそれが夢であったと、そう信じようと思いました。自分の恥ずべき性癖を赤裸々に思い知らされただけに、夢であると信じたかったのです。
お尻の違和感は気のせいだろうし、腕の傷は寝相が悪くて針でも刺したか?……針なんかどこにもないし、その時に痛みで目が覚めない筈もありません。考えれば考えるほど理に合わない事ばかりでしたが、少年はそう思いたかったのです。
第一、あの謎の女性のやることなすことすべてが、そもそも理に合いません。
少年はしげしげと左腕を眺めながら、感慨に耽りました。傷口はそんなに大きくはありませんが、カピカピにこびりついた血が乾いてポロポロと剥がれ落ちる先の皮膚は、皮下出血でもしているのか大きく青黒くなっており、見ているだけでズキズキと痛みがぶり返します。
(今日は、学校……、休もっかなぁ……。腕、痛いし……。)
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結局、少年は学校に登校しました。事情なんか知る由もない母親からせき立てられるように家を追い出されます。もちろん、その母親は息子の腕の傷のことさえ知る筈もありません。少年は救急箱の絆創膏1枚を貼り付けただけで学校に向かいました。
登校してすぐ、少年は教室の中に栄理の姿を探し求めました。すると、彼女は自分の席から離れた場所でクラスメートと談笑していました。何事もなく普通に過ごしている彼女の姿を見て、少年はホッとしました。
授業が始まりましたが、左隣の冨塚好江にも、右隣の三条栄理にも、少年は恥ずかしくて顔が向けられませんでした。夢だと思い込みながらも、彼女たちのレオタードや下着や制服を着てオナニーをした生々しい記憶があるだけに、どちらの顔もまともに見られません。
休み時間に栄理の友達の1組の吉村裕美が、教室に来ていたようでしたが、少年は腕の怪我を隠す意味もあって、机に突っ伏して寝たふりをしていました。もちろん、彼女のバレーのユニフォームを着て狂ったようにオナニーをした上に、そこでオカマを掘られた記憶なんて思い出したくもありません。
しかし、少年にとってはもうひとつ不思議なことがありました。夕べはあれだけの狂態を演じ、テニス部室ではたくさんの女子のユニフォームを散らかし汚しまくったのに、不思議なことに変質者による侵入騒ぎも学校に起きた様子がありません。もちろん、女子バレー部や女子体操部の部室もです。どの部であれ、一個所でも女子部員が騒いだら校内は蜂の巣をつついたような騒ぎになるでしょう。
校内は放課後まで平穏なまま、既にグラウンドや体育館では部活動も始まっています。平穏な中学校の日常が流れています。なればこそ、あれは夢だったんだと少年が信じる根拠になります。しかし、未来の自分と称したあの人物なら、証拠を隠蔽するなぞたやすいことだろうとも思われましたが……。
ともあれ、そんな感じで学校での1日を平穏に過ごした少年でしたが、終日、何事もなく過ぎて、ようやく放課後を迎えました。いえ、かなり不自然な雰囲気ではあったかもしれません。いつもなら、両隣の好江や栄理に仲良く話しかけている筈の快活な少年が、この日はまったく会話をしないどころか、ろくに顔も合わせなかったのですから。
とにかく、少年は早々に帰宅しようと、教室から逃げるように生徒用玄関に向かおうとしたのでした。
**********
(おわりに)
少年は遂に未来の存在に打ち勝ち、愛する少女を守り抜くことに成功しました。夜が明け、朝になり、まるで昨夜の出来事がすべて夢であったかのように思われました。しかし、少年の腕には、それが夢ではない現実で起きたことであることを証明する証が残っていました。
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