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第一話
第一話 13
しおりを挟む矢島は、とっさに下がっていたようで何とか致命傷は避けていたようだが止血をしないと不味い状態だ。
斬られた所を抑え、息を整える矢島の瞳から闘志は消えていない。
どっちが悪者かわからないなぁ。
矢島の姿をみてそうぼやいた優は、右手の八咫を鞘に納めると風を操り先ほど投げた八尺瓊を引き寄せて右手に握る。
「これが最後のチャンスだよ。
剣士として生きてきた君が何故、領主を名乗り不当に人々を支配したのかな?」
「…同じようにチャンスだからと言われたのじゃ。
一介の剣士ではなく、1つの土地を収める主となる為の…とな。
だから、マロは行き場のない者を集めて拠点をつくり先ずは領主が幼い東野を狙ったのでおじゃる。」
思い出したようにおじゃおじゃしい話し方になってきた矢島。
優はそんなのを気にした様子もなく、少し考える。
領主のチャンスをやる…そんな事を言えるのは同じ立場かそれ以上の人間か他国の侵略者。
この戦を統一することを考えている人間が他にもいるようだ。
矢島に話を持ち掛けた人間は少なくとも、話し合いなどではなく力による支配をご所望だ。
優はちらりと護を見ると視線が合う。
考えていることは同じで矢島からはこれ以上情報は得られなさそうだ。
「…誰の差し金かな?」
優がそれを聞くが、矢島は再び静かになる。
そして、刀を構えた。
矢島は降伏より戦う事を望んだ。
やれやれ、そう思いながら優は剣を構える。
後悔はしないでね…。
そんな野暮なことは聞かずに、優は矢島に向かって走り出した。
【暴風(ぼうふう)】
大きく伸ばした左手の剣、草薙の刀と身に強く吹き荒れる風を纏わせて風の動きを圧縮。
それを矢島に向かって横に振った。
矢島はそれに対し、守りではなく攻めで対抗した。
力強く鞘と刀の刀身を擦り火花を起こすと、刀身と鞘の大きな火を纏わせてそれを大きな火の塊にして優に向かって叩きつける。
【饕餮(とうてつ)】
矢島のもつ最大の攻撃なのだろう。
使い手にもダメージを与えるほどの火力があった。
しかし、優はその攻撃ごと矢島を横に切り裂いた。
あの火の塊も硬化させていたようで、ガラスの砕けるような甲高い音響かせて優に消されていく。
「お見事。」
矢島は自分が斬られた瞬間に優にそう言った。
全力を出したからか、どこか満足そうな表情を浮かべて息を引き取る。
優は剣に付着した血を振り払うと2本とも鞘に納めて、矢島に手を合わせた。
彼がしたことは許されることではないが、最後は剣士として散った矢島に同じ剣士として敬意を込めながら。
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