コバナシ 樹海譚

鷹美

文字の大きさ
4 / 6

第四話

しおりを挟む
屋敷から少し離れるとすぐに深い深い樹海の入り口が見える。
かなり木々が生い茂っており、日が差している今でも日が沈みかけたような薄暗さがあった。
怪談の元祖と呼ぶにふさわしい不気味さがある樹海だ。

初めてみる大型の樹海に足を止めて眺めているプロトに対して、スーはプロトの先を大きく進み手慣れた様子でランタンの灯りの用意を始める。


「おい、先に進んでいるが大丈夫か?
怪我されても面倒だ、運んでやる。」

「大丈夫だよ。
こう見えても周りは見えてるんだよオイラ。

鬼気をつかって視界は確保しているんだ。」


プロトの言葉を聞いたスーはくるりと後ろを振り返り、灯りを灯したランタンを危なっかしく右手で揺らしながら歯を出してニカっと笑う。

本人がいいのなら、別にいいか。
プロトは呆れたように溜息をついてスーの後をゆっくりとついていく。


「なんだい不満そうにため息なんてついて…。
もしかして、そんなにオイラに触りたかったのかな?
それはねぇ…せくしゅあるはらすめんとっと言うものだよ君ぃ。」


「テメェで欲情するやつなんざ、余程の餓鬼かペドくらいだ。
そんな寝言は出るとこ出てからいいやがれボケ。」


どこか拙い発音でセクハラと呼ぶスーにプロトは樹海に響く位大きな舌打ちを鳴らす。

そんなプロトをクスクスと笑って見ている。
彼の威圧感はかなりのもので、文字通り泣く子も黙りそうな凄みはあるにも関わらずだ。

スー真意が分からず、ややドスの聞いた声で怪訝そうに唸ると落ち着いたスーは言葉を紡ぐ。


「いや、荒々しいくせに一々対応してくれるなんて優しいんだねプロト君は。
本当に嫌なら舌打ちなんかもせずに無視を決め込むじゃない。」


なんて都合のいい解釈だ、救いようがない。
プロトはため息をついた後に静かにスーの後ろを歩く。

スーも樹海の深くまで入ったからか静かに歩いている。
何もかも同じに見える景色もスーには何か違って見えるのだろうか。

暫くすると、奥の方から明かりが見えてきた。
出口なのだろうか?


そんな事を考えていると入り口の光ではなくて、どうやら複数の蛍のようなものがスーの前に浮遊しているみたいだ。
しかも何やら、スーに近づいている。

仮にも雇い主だプロトは、めんどくさそうにスーの前で盾になるように立つ。


「あ、まって。」


スーの静止より先にプロトは蛍の群を振り払うと、プロトの袖が燃え上がる。
驚いたプロトだったが、すぐに服の袖を千切り地面に叩きつけて鎮火した。


「いきなり燃えるなんてどうなってやがる。」

「これも怪異ってやつさ。
蛍が鬼気を浴びて生まれて派生したやつで、君には鬼火といったら通じるかな?」


蛍を睨みながら怪訝そうな声で話すプロトにスーは淡々とそう答えた。

普段からいるタイプみたいで、結構な勢いでプロトの服が燃えていたがスーが取り乱している様子はない。

スーは、プロトの前に行こうとゆっくりと歩き出す。


「放っておけば勝手に消える怪異だけど、振り払って刺激しちゃったし…暴れられても困るからオイラが退治しちゃうよ。

大丈夫、この樹海は簡単には燃えたりしないさ。」


スーのその言葉を聞くとプロトは、左手を伸ばして通り過ぎようとしたスーの動きを静止する。
驚くスーを他所にプロトは禍々しい笑みを浮かべて口を開いた。



「ったく、それならそうと早く言いやがれ。
あぶねーから少し下がってろ小娘。」


プロトはそういうと、右手の掌を鬼火の群れに向けた。


〝ブリッツ〟



バリッと静電気の音がしたと思ったらプロトの掌が激しく光る。
一般の人間だったら初見では分からないだろうが、スーにはプロトの掌から雷の柱のようなものが出ていたのがはっきりと分かった。


「もう少し燃えるとおもったが…思ったより頑丈じゃねーか。」


やれやれといったプロトの視線の先には、焦げて炭のようになった真っ黒な場所が出来上がっていた。
他の仲間も出来ないことはないが、瞬間火力でここまで威力を出せる者はいない。

珍しくコルノが始末しようと言ったわけだ。
そう心の中で納得したスーは、ゆっくりと腕を組んでドヤ顔でプロトを見る。


「ふふふ…まだまだだね。」


「やかましい。」


コツンと頭をプロトに叩かれるスー。
スーはヘブッと情けない声を出した後に、プロトにひょいっと持ち上げられた。

プロトは驚くスーを無視して、テコテコと黒焦げの地面をそのまま進み焦げた地面を通り過ぎるとゆっくりとスーを下ろした。

きょとんとした様子のスーは、少し間をおいてから気が付く。


「せくしゅある…」

「次にそんなことを言うんなら、実際にやってやろーか?」


あぁんと重たい唸り声をあげてスーの言葉を遮るプロト。

俗に言う分からせてやる!!…をやってくれるのだろうか?
そんな事を頭の中によぎったが、これ以上怒らせてもしょうがないから黙っておこう。

「冗談だよ、そんなにムキにならないでよ。
ほら、もうすぐ出口だから逸れないようにね。」


カラカラとランタンを揺らして鳴らしながら、スーは出口に向かって速足で進んだ。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。 「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」 シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。 妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。 でも、それなら側妃でいいのではありませんか? どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...