5 / 6
第五話
しおりを挟む樹海を抜けた先はのどかな平地が広がっていた。
おどろおどろしい場所にいたからか、空気がおいしく感じる。
緑が豊富な樹海にいたのに可笑しい話だ。
そんな事を考えているプロトを他所にランタンを消してスーはグングンと先に行っている。
「おい小娘、あんまし先にいくんじゃねーよ。
俺がいる意味がねぇーじゃねぇか。」
プロトは、呆れたようにスーの後をついていく。
グングンと進んだ先には団子屋があった。
みたらし団子を作っているようで甘く香ばしい香りが辺りに広がっている。
その団子屋の横でピタッとスーは止まった。
目隠しして視線は分からないが…チラリと此方に顔を向けている。
「はぁ…テメェは主人だ、下の意見なんか気にせず食いてぇなら食えばいい。」
「…コルノに食べすぎると太ったり虫歯になったりするからってダメだって…。
オイラに駄々甘のバルもダメって。」
あのゴリラも知性が多少は備わっていたようだ。
馬鹿にしたような褒めたような思いを心の中でしたプロトは、チラリとスーを見る。
シュン…とあからさまに悲しそうな表情で下を向くスー。
ボリボリと頭を掻いた後にプロトはスーに近づく。
「俺は戦生まれじゃねーから、この団子を食べたことがない。
この仕事をうまく終えたら少しでいいから食べさせてもらえないか?」
ヤレヤレと言った様子でプロトは、スーに建前を用意した。
慣れない異国の触れ合い。
それが一回位ならコルノやバルに口を酸っぱく言われないだろう。
プロトの意図をスーは理解したようで表情を明るくしてスーはプロトの手を握ると力一杯引っ張る。
「しょぉおおがないなぁ。
どれどれ、仕事の合間にこの辺りくらいだったら案内してしんぜよう!」
そう言いながら、スーは目的の村に向かってプロトを引っ張る。
思ったより力あるなぁ…。
そんな事をボンヤリと考えながらされるがままにプロトは引っ張られた。
目的の村は家が20軒あるかないかの小さな村だった。
お役目と言っているが何をするのだろう?
スーの持ち物は、ランタンと腰にあるポーチだけ。
そんな事を考えていると、スーは村に入って直ぐの家の扉をドンドンと無造作に叩いた。
「おんちゃーーーん、御勤めだよおぉ!」
「バカタレ!
テメェは、仮にも屋敷を構えてる人間だ。
少しくれぇーは品のある挨拶をしやがれ。」
思わずプロトは、スーの側まで近づいて扉を叩くスーの手首を掴んで動きを止める。
すると目の前の扉がゆっくりと開いた。
中からは、白髪のヨボヨボの爺さんが見てくる。
「ぉお、スーちゃんご苦労様。」
「おんちゃんのは、まだ交換しなくてもいいからオイラが力を入れ直して終わりだね。」
スーは、そういうと玄関を入って直ぐにしゃがむと地面に置いてある盛り塩に力を…おそらく鬼気を込めているのだろう。
「生命の原点である海は対魔の力が備わっているんだ。
海の力が込められている塩にお役目の人間が力を込めると病気や悪霊とか命を忌み嫌う者を寄せ付けない結界になるんだよね。」
スーはその言うとゆっくりと立ち上がりパンパンと膝を叩く。
そして、老人と軽く会話をした後に報酬を受け取って腰にあるポーチに入れる。
「さぁ、次次。
じゃーね、おんちゃん。」
スーはプロトの手を再び引くと老人に手を振って次の家に向かう。
その後は特に特出する行動はなかった。
交換が不要であれば鬼気を込め直し、交換が必要なら新しい下と交換して鬼気を込めるだけ。
団子の件もあるが…やはり、慣れているだけあって日がくれるより早く終わった。
「まぁ、こんなものでしょう。」
ふぅ…。
満足そうに額の汗を拭う動作をしたスー。
プロトが見るかぎり、スーは汗が出るほどの作業をしていない。
一々、リアクションがオーバーな奴だ。
「さぁーーて、ここからが本番!!
お楽しみのお団子の時間だよおぉ!!
いぇーい、ぱふぱふー!!」
両手を上げて元気よく飛び跳ねるスー。
本番は終わったんだよなぁ…。
楽しみなのはおまえだけなんだよなぁ…。
一応、雇い主だ。
そんな言葉を飲み込んではいたが、呆れたような表情を隠す様子も無く大きくため息を吐く。
村から団子屋から距離はあまり離れていない為に直ぐにたどり着く。
「おねぇーさん、団子を6本ちょーだい。」
団子屋が見えたスーは、駆け足でカウンターに向かい大きく開いた右手と人差し指だけだした左手を店員に突き出した。
6を示すように突き出す手を見た女性店員は満面の笑みで返事をして値段をスーに伝えた後に店の奥からゴソゴソの準備を始める。
「さぁ、プロト君はそこの椅子で座って待ってるといいさぁ!!」
「ぁあ、はしゃぎすぎて落とすんじゃねーぞ。」
椅子に向かってビシッと指を刺すスー。
雇い主のはずだが…今の自分の気持ちはまるで保護者だ。
やれやれといった様子で椅子に座るプロト。
「やあやあ、待たせたねー。」
ニッコニコで、団子の乗った皿と2つのお茶が乗ったお盆を持ったスーがプロトの隣に座った。
団子はみたらし団子のみ。
秘伝のタレが自慢だとか、団子の食感が…などと店員の様に得意げに話すスーの話を聞き流してプロトは団子を口に含む。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる