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第三章〘記憶と復讐〙

ギア23、消えた闘志、2人の悲しみ

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「第3章が始まり、皆様、いかがお過ごしですか。私の方は、毎日忙しいですよ。それに、前回の件もありますから……。ということで、前回、この物語の主人公である元宮ナルヤ、またの名をギアヒーローエヴォ。コードネーム:マイナスの彼は、未来から来た自分の息子の1人である元宮ナオタ、ギアヒーロークイップが記憶喪失であるということを、デスブレイドの一員であるヴァンパという戦士に告げられる。そして、その戦士の圧倒的戦闘力に負けた一同は、一時撤退を迫られてしまう。そして、ナオタは自分の過去に対する衝撃に耐えられず、引きこもってしまうこととなる。それは、1人の戦士が死んだことを表すのか、それとも……さて、今回はナルヤ様のもう1人の息子である元宮ナグラ、ギアヒーローダヌア様が主に活動します。ナオタ様が戦闘不能なこの状況、2人はどう戦うのか、見ものですね。」

「おい、成也。」「はいはーい。」「依頼だ。」「ガッテン承知。」
成也達はあれから数日間、直太を差し置いて依頼をこなしていた。しかし、3日ほど経った日、流石に少しは立ち直れた彼ではあったが、「まだもう少し、落ち着かせてください。身体は鈍らないように訓練はしておきます。」と言い、心のリハビリを慎重に行っていた。
「…つーか、直太の奴もすげーな。心が折れそうな言葉というかさ、とんでもない事実を語られてもなお、たった3日で立ち直れるなんてさ。俺なったことないからあんまし何も言えんけど。」「…そもそもだ、あのヴァンパが言った事が本当なのかすら分からないはずだ。なのに、何故お前はそこまで信じている?」「んー、なんて言うかね、あいつの言ってることって偽りが無さそうというか、ただ本当に闘いを求めてるだけのように見えたんだよ。つまり、嘘をついて何の得もないから真実を述べた…的な?」
眉毛をハの字にして、部屋の窓越しに空を眺める。
「…それにもし嘘だったとしてもさ、直太はその嘘を信じるほど素直過ぎるってことじゃん?それを自分で理解できるっていう力を持てればさ、それも成長じゃん。(まぁ、後付けの理由だけど…)」「…ハァ……物事は捉えよう、と言うやつか。」
すると穴闇は、懐からボロボロのロケットペンダントを出す。中には写真が入っていた。
「ん?何それ?」「…見せ物じゃない。」「いやめっちゃ隠しますやん。言葉で説明できるんなら教えてや。つーか見せもんじゃ無いなら普通今出します?」「…忘れたくない思い出であり、忘れたい思い出。…と言っておく。これを見ないと、俺は戦う気力が起きない。」「うわー、まぁーたまぁーたなんか意味深なものを……あのなぁ、大体そういうのが漫画とかアニメとかで伏線になっちゃうもんで…」「これはアニメじゃない。」「あぁ…そう…っすか。へいっス……」
懐にペンダントをしまい、ついでにマスタフォンを取り出し依頼の概要を開く。
「…今回の依頼は、とある漫画家の編集者からの依頼らしいな。『助けてください。まるで猫と人を合わせたかのような怪物が、うちが担当している先生や会社の編集長を襲いました。私は腰が抜けて何もできませんでした。今、先生は重傷を負い、動けなくなっています。どうか、猫の異形の討伐をお願いしたいです。黒猫のような見た目で、黄色い瞳でした。オタシミ社事務所までお願いします。』とのことだ。」「オタシミ社?それってそこそこ有名な週刊漫画を多数作り出しているところじゃん。代表的な漫画は確か[THE NIGHT WORLD]っていう漫画だったはず。」「なんだその漫画は?」
生まれた時代が全く違うためか、まるで有名な漫画を語っても子供全員がちんぷんかんぷんになってしまうみたいな状況が完成していた。
「うーん、ジェネレーションギャップってこういうこと言うんだろうな。特撮しか見てない俺でも流石に知ってる漫画なのに。」「ほう、そんなに有名な漫画なのか。」「らしいよ?社会現象になるくらいだしな。ざっくり説明すると確か、主人公は昼夜逆転生活をしていて、夜中のヤバイ人に目をつけられてしまう的な物語だったはず。半分バトル系で、もう半分が日常系みたいなジャンルらしい。」「ほう、そんな有名な所が、ギアヒーローズに依頼を送るとはな。」「だな。それに、多分何かしら事情があるってことも予想されるし、安心させるためにもさっさと行くか。」
早速家を出る2人。そしていつも通りに、マスタフォンでバイクを呼び出し急遽現場に向かう事となった。直太を置いて。

[オタシミ社事務所前]
「よぉーし!着いたァ!」「これがオタシミ社の事務所か。そこそこ大きいビルだな。」「まぁビル自体は大きいけど、肝心の事務所はあの、3階だけどね。」
マイナス達が着いた場所は、大体5階建てくらいの高さのビルだった。マイナスは上を見上げるブラックの目線を指先で導き、3階の[OTASHIMI]というロゴが貼られた看板まで視線をずらさせる。
「…ふむ、見た感じ惨状は外見だと分からないな。」「というか今思ったんだけど、なんで俺達だけしかここにいないんだ?」「ん?どういうことだ?」「…あぁ、いやーさ、依頼書にそう詳しくは書かれてた訳じゃないんだけど、少し前・・・って書いてあったよね?なんで警察もパトカーも、あの黄色い立ち入り禁止のテープみたいなやつも無いんだ?」「…確かに、色々と考えられることはあるが、そこは依頼人に聞いてみるしかないな。…一先ずはな。」
もしかしたらデスブレイドの罠かもしれない。という僅かながらに頭をよぎった少しの不安が、2人の警戒心を刺激する。しかし仮に罠だとして、デスブレイドがそこまでわかり易い罠を仕掛けるとは思えないのも1つ。ギアをふところに入れ、僅かな不安をできる限り潰せるように彼らは行動に移すことになった。

[オタシミ社事務所入口前]
「…エヴォ、この場合はどうする?」「決まってるっしょ、こういう時こそカメレオン。」「だな。一旦俺に貸せ。」「はいよ。」
パンサーカメレオンギアを取り出し、手渡しでブラックの手のひらにグイッと押し込む。渡されたギアはベルトの窪みにセットされ、電子音声と共にブラックはその姿を眩ませる。
[ダーク・ネクサス・アビリティ。[パンサーカメレオン]遺伝子魔改造!]
「へー、ブラックの変身ベルトの能力って生身でも作用されるんや。んじゃ、マスタフォンの共有カメラで……よし、これでブラックの視点が俺のスマホ画面に共有されたから、あとは頼んだっす。厳密に言えば、ベルトのカメラ視点だけどね。」「…俺がお前だったら、『基本的に、俺はここに残る!って言ったやつは先に死ぬんだよ』って言う所だな。」「おっほー笑えんジョークがお得意なようでねあなたは?」「これぞホントの”ブラック”ジョークだ。上手いだろ?」「お、コードネームの”ブラック”と”ブラック”ジョークをかけたのか。なるほどうんうん、言ってる場合か??」
ブラックはスッ…と人差し指を口に当ててサインを送る。マイナスは「はぁ?」と心の中で反発したがその言葉が届くことも無く、ブラックは構わず扉をガチャッ…と開いた。
「…中は綺麗だな……」「パッと見は…だけどな。扉の隙間から見たら確かに綺麗だけど、ベルトのカメラ視点を見てみたらこりゃ参った。資料らしき紙類は散乱し、椅子もコップも倒れちょる。そのオマケとして前を見てみ?血痕がべっとりよ。」「それは大層なオマケだな。しかしマイナス、お前は血を見ても平気なのか?」「ん?あー、なんか知らんけど大丈夫。」「そうか。」
静かな部屋の中、閉め切ったカーテンから指す光にホコリが見える。血の付いた壁にかかった時計の音も鮮明に聴こえる。探索を続けてみればみるほど、先程の「綺麗」という印象は、「惨い」という印象に早変わりした。
「しかし、依頼人もそうだが、何故怪我人も死体も無い?」「まぁ死体があるかどうかは決めつけられんけど、怪我人がいないのはおかしいわな。あと依頼人も。」
ブラックはとりあえず探索を続け、マイナスはカメラも確認しつつ頭をフル回転させてあらゆる考察を思い浮かばせる。
「…これさ、依頼人も怪我してるとか無い?」「…お前もそう思うか。”助けてください”と依頼文に書かれている時点でもしやと思ったが。」「だとしたら、こんなとこでまごまごしてられんわな。」「あぁ。だから今、”抜け道”らしきものを見つけた。」
壁に付いた血痕に引きずった跡らしきものを発見し、その道筋は、蓋が破損した通気口までたどり着いた。
「…通気口……で良いんよな?これ。」
「…変身。」[GEAR HERO DANUA...THE HENSHIN.]
「おぉ、急やな。念の為?」「あぁ、念の為だ。パンサーカメレオンで擬態はしているものの、生身で突き進むメリットは無いからな。」「せやね。俺はどうすりゃいい?」「カメラは付けたままにしろ。そしてそのままこのビルの周囲を探索してくれ。」
ギアヒーローダヌアに変身したブラックは、対象が逃げても大丈夫なようにマイナスに指示を送る。送られた身として、なんやかんや信頼してくれてるんだなと感動することも無理は無い。「んじゃ、後はよろしく!死ぬなよ!」「誰が。」
そんな言葉を交わした彼らは、それぞれやるべきことを遂行するために、颯爽と行動する。体の刺々しいパーツがキィーッと不快な高音を立てつつ、ダヌアは通気口の中を辿る。
「…そういえば、依頼には”猫”とあったな。猫はまるで液体のように、小さな隙間もスラッと通れるほどの生物だ。ジャアクカルマも、その特性が引き継がれているのかもしれないな。だからこんな狭いダクトでさえも、人を引きずって通れるほどの余裕があるのか。だが、攻撃を食らった被害者本人自体は猫では無い、多少このダクトまで運ぶ時に手こずってはいるはずだが……」
ガチャガチャと装甲同士が当たり、突っかかるか突っかからないかギリギリを突きつつ通気口の先を通る。定期的にべっとり付いた血痕らしきものや、被害者が足掻いた時に出来たのか、壁に凹みがそこらじゅうに点々とあった。
「…出口か。」
ダヌアは道の先で、ファンが回っている音に気が付く。うるさい高音を何度も鳴らしつつも、一生懸命這いずってそのファンを破壊する。
「破壊行動失礼。弁償代はネストに頼む。」「お前随分とクラッシャー野郎なんだなァー!」「…マイナスか。」
ダヌアはファンを(無理矢理)外して顔をひょっこり出すと、マイナスが「なんかあったー?」と手を振って呼びかけているのを見て、ここは外に繋がっていたのだと瞬時に理解した。
「まぁダクトは大体外に繋がっているのが普通か。詳しくは一切知らんが。」「おーい!聞こえとるー?なんかあったー?」「何も無かったぞー!血痕は無数にあったが、辿ってみてもここにしか繋がってなかったー!」「…えー……てことは、なんの収穫もなし?」「いや、流石に何かしらあるはずだ。」「あそっか、カメラ繋いでたまんまか。一応電話機能付きなんやなこれ。叫ぶ意味あった?」
ダヌアは通気口から落ちないようにじっくり周りを見渡す。マイナスも何かしらないか、周辺を確認する。しかし、そこでひとつ疑問を思い浮かべる。
「……え、つーかダヌア、なんでファン取れてなかったん?」「…! なるほど。」「もしかしてだけどさ、ファン外れてないってことは、敵は2人いるか、またはそこ通ってないんちゃう?」「…可能性はあるな。2人がかりなら内側から…しかし、そんなことをする意味はないか……なら後者の方か?」「多分。」
そう言ってダヌアは少し道を戻ると、切られたあとの缶詰の蓋のように天井にジグザグの切込みがあった。
「これか!!ここから行ける可能性があるぞ!!」「お、マジ?」「…なんでさっきからそんな冷静なんだ。」「…いや、さ、前から思ってたんだけど、ダヌアってもしかして意外と頭硬い?」「お前滅ぼすぞ。」「だって普通ファンが異常なく回っているのに何も考えずわざわざぶっ壊して通るってどうなんすか?気付かないっすか?ネストさん無駄出費で泣くぞ?」
「うるさい」の一言もいえず、父であるが後輩でもあるマイナスにボロクソ言われ、恥ずかしさでマスクの下で顔を密かに赤らめる。無言でとりあえず見つけた抜け道をグググイッと押し、その先へササッと逃げるように入っていく。
「え、おいちょ、ダヌアー?…行っちまったで。大丈夫かね……あ、また親心が。お控えなさってくれ俺の心。」
心をさすって息を吸って吐く。これを2回繰り返したマイナスは何か無いか、周辺を探索してみることにする。その光景はまるで朝イチの散歩のようであった。

次回ギア24、[器用!凶暴!山の猫!敵はベンガルヤマネコ!]

おまけ
「…ナグラ様……無駄出費は勘弁してください……四の五の言ってられませんね…さて、修理にいくらかかるのか……約”25000円”……まだ家の方が俄然高いですね……ってことはナルヤ様、人の事言えないのでは…?…ハァ……」
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