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第二章、〘飛び交う依頼〙

ギア22、奴来シ時、夜ガ来ル。

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「前回、元宮成也(コードネーム:マイナス ギアヒーローエヴォ)はジャアクドブネズミを見事撃破する。しかし、赤い刀身の剣を持った謎の戦士、ヴァンパ・サクリファイスがその場に舞い降りる。彼の口から告げられた衝撃的な事実、それは、元宮真太(コードネーム:エヌ ギアヒーロークイップ)が記憶喪失だということ。駆けつけた真太と元宮穴闇(コードネーム:ブラック ギアヒーローダヌア)は成也を救出するがその言葉に耳を貸してしまい、一同は困惑してしまう。さて、彼らの運命は如何に。」

「記憶喪失……て……もう何が何だか分からん……なんだこの、まるで急な路線変更した漫画みたいな意味の分からなさは……」「言ってる場合か!」「…僕が……記憶喪失……」
3人はヴァンパによるカミングアウトに戸惑いを見せる。そのうちのマイナスは、何故かカミングアウトの対象であるエヌよりも明らか困惑し、ブラックも思わず喝を入れる。
「…エヴォ!来い!!貴様の強さを見込んで私はここに来た!!それ以外に用は無い!!」「貴様…!何を偉そうに…!!」「あっとちょいちょい!ブラック!待て!」
ブラックはギアを持って突撃しようと1歩踏み出した所、彼は手を横に出して引き止める。
「…まさかお前、あいつの言う通りにするつもりか…?」「…表はな…。見てみろ周りをさ。」「…」
言われた通りに辺りをゆっくり見渡す。困惑に支配された者、明らか強者の者、ふたつに分離して骸となった者、そして、語りかけてくる者。
「…な?今のこの状況、多分だけど絶望的だろ?クイップもヤベェけど、まずあのネズミ野郎。いつもの俺なら、誰か死んだらブチ切れだろ?でも切れてない。なんでだと思う?」「…まさか?」「一か八かだったけど、さっき煙幕出る前に嫌な予感したからとあるギアをあいつの腕のやつにセットしといた。」「…なんのギアだ?」「チャバネゴキブリギア。」「…マジかお前は……」

―煙幕が巻かれる前―
「や、やったァァァ!!!ヴァンパ様ァ!!!流石で…」「…ドブネズミ、貴様は用済みとなった。」「…なんか聞こえた…!ヤベ!ギアシューター!」[ギアシューター!]
銃口にチャバネゴキブリギアを乗せ、エヴォはトリガーに指を置く。
「そこだッ!」

ズバッ!!
ダァンッ!!

「…か、間一髪……だった……(ふたつの意味で…)」

―回想終了―
「…なるほど、ギアシューターで……」「…ホントに一瞬の勝負だったし、成功するとは正直思ってなかったけどね……だから、戦闘不能のクイップと、後でなんとか別のギアで治療させるあのドブネズミ野郎を回収。そして、洞窟こっから逃げる。」「…お前は時間稼ぎか。なるほど。」「あぁ、そして、置いていけ!…とも言わない。アイツヴァンパには申し訳ないけど、こっちも煙幕巻いて逃げる。それはお前に頼んだ。ブラック。」「…ハァ……一応、俺がギアヒーローとしては先輩だと思うんだが……良いだろう。お前に乗ってやる。」「よし!」
2人の話を遮ることもせず、ヴァンパは話が終わるのを待ち、終わったことを確認した彼は、その赤く染った剣を地面から引き抜く。
「…来るか。」「おう!またせたな!」「…まさかだが、貴様、逃げるつもりでは無いな?」「…なんでそう思ったんか、聞いておきたいんすけど?」「……勘だ。だが、それも一興。1対1ということ以外、闘いにルールはない。」「…(こいつ、なんて言うか、武士道っていうの?…すげぇな。…本当にデスブレイドの一員かよ。)」
マイナスは敵であるはずのヴァンパのことをかっこいいと心底思ってしまう。しかし、奴はあのPIG QUEENと一緒に2人の故郷を壊した張本人であることは事実。だから、彼は正直悔しかった。妬ましかった。まるで特撮のヒーローのような、奴のそのかっこよさに。
「…よっし。……それを言われちゃあ俺も手の内明かさんとな!!」「…ほう?」「…俺らはこっから煙幕巻いて逃げる!」「…はぁ?!何言ってるんだ親父!!」「んでもって、お前が切り刻んだソイツドブネズミ野郎も助ける!!俺は時間稼ぎする!!」「…なるほど。理解。そしてその素直なその心、見事。…しかし、それを聞いて私は何かをすると言ったら何もしない。私はただ、闘いを求めるだけだ。」「…やっぱこいつ、初めて会う敵のはずなのに……かっけぇ……」「…御託はいい。こい。ギアヒーローエヴォ。」「…あぁ。」
[エヴォライト!][エヴォレフト!]
「…変ッ身ッ!」
[TRANS FORM.]
マイナスはいつもよりさらに気合を入れて変身する。その身体に無色の鎧を纏い、その纏った鎧は徐々に緑色へと変化する。
「さぁ、お試しで負けイベントを始めようか。」「…勝負ッ!」
「「ウォアアアァァーッ!」」
エヴォは腕のカッターを展開し、赤い剣と火花を散らしながら刀身をガキンッ!とぶつけ合う。
「…ッゥアッ…!」「…フン。」
エヴォカッターはたった一撃で刃こぼれを起こす。それに対して赤い剣は一切変わらず光り輝き、動揺の素振りすらも見せない。赤く魅せるその刀身は、絶対的な誇りを持っているヴァンパを表すようであった。
「ネストさんに緊急用の武器だからあんまし当てにするなとは言われたけど…相手が相手だからか、たった一発で使いもんにならなくなるとはなァ…」「隙だらけだぞ!!」「うぉあァッ?!」
完全に刃こぼれした右手のカッターをしまい、左手のカッターでその一撃に対抗する。案の定左手のカッターも一撃でやられてしまい、そのままの意味で手の内が無くなったのであった。「ゲェッ!?」「ハァッ!」「ちょ、ま、ギアバッシャーッ!!」[ギアバッシャー!]
ガキンッ!と再度ぶつかり合う音を鳴らす。エヴォは冷や汗をマスクの下でかきつつも、ギアバッシャーでその攻撃に対応していく。
「あっぶねー間一髪…本日何度目だ……?」「…ほう、この速さに対応するか。流石だな。」「正直、ギリギリだけどな…!(やっぱこいつ格上かよ……ホワイトライオンでも行けるかどうか……いや絶対無理やな……さっきは短い戦いだったから良いとして、未だにホワイトライオンギアは全然強制変身解除しちゃうし…その度に体がめっちゃ痛いんだからさっきマジでビビってたんよなぁ…)」
表向きはまるでアニメの主人公のようであったが、心底ちょっとだけビビり散らかしていたエヴォであった。
「…しゃーねぇ…ぶちかまぁぁーッす!!」
[白き王者!スラッシュギア!]「ラァァァァーッ!!!」[白き王者!グレートストライク!ズガズガァーン!!]
ギアバッシャーから輝く一筋の斬撃波をぶちかます。その一撃はヴァンパに真っ直ぐ突き進む。
「…甘い!」
ヴァンパの剣は、まるで赤く染まった三日月のように弧を描き、まるで豆腐を斬るかのように斬撃波をスパッと容易く切り裂く。
「…血光切りげっこうぎりッ!」
切り裂かれた斬撃波から、赤黒い三日月状の斬撃波が放たれる。
「…(あ、これ死ぬ?僕死にます?なんか走馬灯が走ってるし、めっちゃ斬撃がゆっくり来てる感じするし…やっぱ終わった?)」
彼の脳裏に走馬灯が走る。家族との思い出、特撮の名シーン、あとは衝撃的すぎた出会い。
「…ん?なんだ、この記憶……」
その時、彼の知らない記憶が走馬灯のように流れる。まるで、成也に語りかけるように。
「…俯瞰の走馬灯……?…あの子は……?」
襖の中、彼は袴を着た角の生えた女の子を見る。
「…君は……誰だ……?」「エヴォッ!」「…は。」
斬撃波の進む道から引っ張り出すように、ダヌアはエヴォを救出する。
「…お、助かった。」「言ってる場合か…!ここは一旦引くぞ!!」
[ギアシューター!]
回収したクイップとドブネズミを隠すように、弾丸を周囲にばら撒き煙幕を焚く。
「…ハァッ!」
ヴァンパは煙幕を斬りつけ、一瞬で晴らす。しかし、そこに彼らの姿は無かった。
「……良いだろう。勝負はお預けだ。急激に成長し、どこまでも対抗しうるその力、私がいつか、この手で斬る。」

[成也宅:リビング]
「…エヴォのスーツは大丈夫そうっすか?」「大丈夫です。ギアのデータさえ無事であれば。」「んじゃあ…アイツドブネズミは?」「間一髪じゃよぉ。ぅわぁたしが開発したプラナリアギアならねぇ!!生命力を変換して体を再生しぃぃ…真っ二つの体もあらまぁぁあもとどぅぅぅりぃいいい!!!」「…何言ってるか分からんけど、とりあえず、無事ってことはわかったわ。」
リビングのテーブルで、ネスト、イチゲン、成也がパソコンを囲む。
「…それにしても、よくこの方がヴァンパに斬られることが分かりましたね?声が聞こえたにしろ、普通ギアを弾丸に乗せて、的確にギアをバックルにはめるなんて……」「…偶々たまたまだよ。だって、狙ってそんなこと出来ないし。」
成也は「偶々」だと言う。ネストは別にそれが嘘だとは思っていなかった。しかし、幾らなんでも偶然が過ぎると思い、信じられないと言いたげな顔をして俯く。
「…とにかく、ドブネズミの人は大丈夫なんだよな?」「…えぇ。」「…じゃあ、本題・・だ。真太はどうなんだ?」「……」
ネストはパソコンの画面から目を外し、ため息をつく。
「…それが、まだ錯乱しているようで……『思い出せない』の一点張りです。」「…詳しく聞いても?」
彼はその質問に頷き、ゆっくり口を開く。
「…真太様は、出生地も、年齢も、挙句の果てには、自分の名前さえも疑い始めています。」「どこまでが嘘で本当なのか、それさえも分からないって訳だからな。」「…はい。相当、ヴァンパの言葉が効いたようです。」
成也はますます、ヴァンパに対する嫉妬の念が高まる。未来のとはいえ、実の息子にこんな仕打ちをさせて、更には街を壊滅させた。なのに、先程の闘いで彼なりの騎士道を存分に嗜んだ彼は、どう足掻いてもやはりかっこよさが目立つ。それが悔しかった。
「…クソ……」「…成也様…… 」「おっ取り込み中悪いがァァ……私の発明のことについてちょちょいぃっとお話が「黙れアホンダラ。」「がッ…?!」
空気を読まず呑気な口調で話しかけるイチゲンの首を鷲掴みにし、怒りをその手の力で堂々と表す。成也の周りを殺意に塗れた黒いオーラが囲い、彼の目が異常なほど血走る。
「…それ以上口開くなら、お前をさっきのドブネズミ野郎と同じ状態にするのも可能だぞ?なぁ?」「ぐっうぐっ……ぐぅっ……」「(このオーラ……遊園地の時の、フォリカと対面した時のと同じ……?!一体これは……?!)」「成也ッ!!」
異常事態に気付いた穴闇はリビングへと向かい、勢いのまま成也を横から殴る。
「…ッ?! 」「……た、助かったぞぃ……」「…おい、イチゲン。一応言っておくが、お前のことをあのまま放置しても構わなかったんだぞ?俺だって立場をわきまえない貴様を殴りたいが……次は時と場合を考えて物事を言え。分かったな。」「…あ、あぁ…分かったぞ……(この力…ヌフフ……いいぞぉ……)」
穴闇は震える手を抑え、殴られた衝撃で倒れた彼に手を差し伸べる。
「…殴って悪かったな。成也。」「…いんや、ちょうど強めな喝が一発欲しかったところだったんだ。ありがとな。」「…すまない、真太の事だが……」「分かってる。今はとにかく、俺らでやれることをやろう。無理に戦わせるわけにゃあいかんさ。」「…あぁ。」
腕を組んで暗い顔をする彼の肩を優しく叩く。成也も本当は真太に何かしら声をかけたい。でも、記憶喪失というのは人生上めったに経験できないことである。だからこそ、どう言葉をかけていいのかなんてもう専門外であった。
「…あーもう、たった1ヶ月で物事進みすぎだろ……一体どうしたもんかなぁ………」

第二章[飛び交う依頼]、完結。ギアヒーローズはこれからどうなってしまうのか。そして、真太の運命は如何に。

次回ギア23、消えた闘志、2人の悲しみ

おまけ
「第2章はどうだったかなー?面白かった!?☆ …面白かったね!?やったー!☆」「ちょっとあんた黙って。あんたの健気でうるさい声、耳にくるのよ。」「…フン、PIG QUEEN、貴様も大概だがな。」「はぁ?!誰がこいつみたいな……」「そういうところじゃなーい?」「…~ッ!!!こんのガッキッッッ!!!!」「おい、そんなこと・・・・・よりも、まずはやることをやってから殺れ。」「そんなこ…ッ?!ッあーもう!!分かったわよ!!…今回で第二章はおしまいよ。飛び交う依頼の中、突如出会った謎のデスブレイドの戦士、ヴァンパ。彼の口から聞いた信じ難い真実。真太の野郎も最初は信じていなさそうだったけど、彼は徐々にその言葉に飲まれていく。さぁ、第三章もどうなるか、楽しみにしてなさいこの豚ども。」「…ちょーっと最後は要らないなー。もっとこう『楽しみにしててね!キャピン☆』見たいなさー?」「あ”ァ”?!じゃああんたがやりなさいよッ?!」「えーじゃーあー、行くよー?」「と言いたいが、尺が無いからここまでだな。…では、次回も楽しみに待っておけ。以上だ。」
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