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第十一話
しおりを挟むアリシアたちの目の前に現れた二人組の男たちは帳簿を片手に、金銭を受け取っている。
「今月分の支払いは完了だ」
「来月の支払いまでにキッチリ、ガキを売っておくんだな」
静かにシスターの女は「はい」と答えた。
その姿を見てトテトテと走って行くのはウィストと呼ばれた子供だっった。
「シスターに悪いことするな!」
バッと両手を拡げる姿は、勇敢だ。
しかし、力を持たない少年には何も出来ない。
「ああ、そうだ。ちっと支払いが滞っていたな」
「延滞金を少しばかり貰ってこうぜ、アニキ」
男の一人がウィストの腕を掴む。
「やーめーろ!」
「ウィスト!」
ユリゼンはナイフを袖口から出して――手を止める。
「おい、ウィストから手を離せ!」
男の一人が懐から羊皮紙を一枚取りだして見せ付けてくる。
「テメエにはこの借用書が見えないのかァ!? アアン!?」
ぐっ、と歯噛みして、今度こそユリゼンは動きを止めた。
借用書があるから、借金は正式なもの。
何よりも、ユリゼンたち孤児院の人間は、逆らうことのできない見えない“力”で押さえつけられているようだった。
カルデシア辺境伯による政治の力かどうかは定かではない。
ただ、彼らは辺境伯の言いなりにしかなれないようだ。
悔しそうにしているユリゼンの前にアリシアは立つ。
「そうか。私には見えない」
「ア、なんだ、この女――」
男の前にカネを投げ捨てるアリシア。
「その借用書に書かれている金額分だ。足りるか?」
「なっ!? テメエは一体……」
そのまま馬車に積んでいた鞄を開いて、中を男たちに見せ付ける。
辺境伯と話をつけるために用意していたたっぷりのカネだ。
「後、このカネで私がこの孤児院を買う。これでここは私の孤児院だ。二度と来るな」
アリシアの顔や身なりを窺う男二人組。
動揺しているのか、言葉を探そうと必死になっている。
だからこそ畳みかける。
「お前達はカネさえあれば文句はない。違うか?」
しかし、男たちは引き下がらない。
「どこのじゃじゃ馬か知らねェ。だがカルデシア様に献上する人材を枯渇させるワケにはいかねェな!」
「カネの問題じゃねェんだよ、このアマ!」
男が斧を取りだした。
脅す目的なのか、はたまた本当に怒ったのか。
が、アリシアに武器を向けた時点で、彼女に容赦という言葉はない。
「そうか。実力行使か」
カッ! と音が響く。
「私もカネの問題ではない。ユリゼンを配下に手に入れるか入れないかの問題だ」
アリシアの剣が、斧を弾き飛ばした。
切っ先を鼻先に向けてやる。
男の足下に斧が落ちてきて、二人は同時に尻餅をついた。
「ここの孤児院はヴェアトリー家が買い取った。本日をもって、ヴェアトリー領に引っ越しを行う」
アリシアはスッと剣を鞘に入れて、男たちを鼻で笑ってやる。
男たちは悔しそうに「覚えてやがれ~!!!」と捨て台詞だけ残して走って逃げていった。
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