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第二十話

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 ――ヴィクトール

「何っ!? バラン公嬢が捕らわれただと!?」

 戦に敗れたヴィクトールはその結果を王に報告するため謁見の間に戻ったワケだが、その凄惨な結果を聞いた途端、王は玉座から転げそうなほど前のめりになっていた。
 当然、その結果を一番聞かせたくはない人物にも聞かせなければいけない。
 ヴィクトールは頭を下げる。

「すまない、バラン公爵。私も尽力しましたが、叛逆者めが卑怯な手を! 此度の敗戦も、ミルラを捕らわれたばかりに……!」

 実際のところ、ミルラが捕らわれる前から敗戦は濃厚であったが、こう言っておけば、敗戦などという不名誉を彼女に押し付けられる。
 なんとなく、ミルラが足を引っ張ったせいで負けたとも、ミルラを狙われたせいで思うような戦ができなかったとも聞こえるように、言葉を選んで回答する。

(そうだ。ミルラがおかしなことさえしなければ負けなかったのだ!)

 ミルラが勝手な行動を始めたのは、戦が敗戦濃厚、撤退を開始している最中であったが。

 バラン公爵は、それを聞いて怒るだろうか、悲しむだろうか。
 果たして、公爵は顔色一つ変えない。

「殿下。頭を上げてください」

 ヴィクトールはパッと顔を上げた。
 しかし、不気味なほど顔色を変えないバラン公に、ヴィクトールとて不気味に感じた。
 どうして平然と居られるのだろうか、と。

 ヴィクトールが話をしている最中、父である国王が間に割って話をしてくる。

「バラン公。そなたの娘は敵の手に落ちた。私が必ずや、人質交渉を成立させよう!」

 国王が自ら人質交渉を行うというのだ。
 ヴィクトールとて、安心が出来る。
 父であれば、敵側のいかなる要求にも応えることが可能だ。
 ミルラの命を救うことなど容易いのである。
 ああ、とそこでヴィクトールにも理解が及んだ。
 バラン公爵は、父の交渉によって、娘の命を助けられると確信していたのだ。
 しかし、その予想はすぐさま外れることとなる。

「陛下。その必要はありません」

 バランは何事もないような顔つきで答えた。

「子供など、また作れば良いのです」

 あまりにも非情な発言を平然と行う。
 さすがにヴィクトールとて、そのような発言には納得はいかない。
 実の娘が捕まったから、また作れば良い?
 そんな言葉、あらゆる意味で許されるものではない。

「バラン公。いくらなんでもそのような発言は……」
「これは戦なのです。陛下」

 だから、切り捨てると。
 そんな馬鹿な話があるか。
 ミルラは大切な一人娘だったハズである。
 そんな存在を簡単に割り切ってしまうなど、いくらなんでも人道に反する。

「バラン公。戦と言えども、私の婚約者を切り捨てるのはどうかと」

 珍しくまともな意見に、国王は驚いたような表情を見せる。余計なお世話だ。
 しかし、バラン公爵は「違うのです」と首を横に振った。

「殿下。もしミルラを救うとなれば、あなた様の多大な失態の尻拭いをすることになる。私はそれを気にしているのです」
「だが……」
「あなた様もこう思われたのではないですかな? ミルラのせいで、このような失敗に繋がったと」
「た、確かに」
「であれば。あなた様はミルラに全ての責任を押し付ければ良いのです」
「そ、そうだな。それで済むのなら」

 ヴィクトールは話しの違和感を覚えながらも、自分を納得させた。
 元々は、自分のせいではなくミルラの失態が全ての原因なのだ。
 ……なんだか、“娘の命を切り捨てる話”と“責任の所在”を良い感じにすり替えられているような気もするが、気のせいだろう。
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