婚約破棄されたので国家に反旗を翻す ~許してください? そんな事よりもお前の国を明け渡せ~

かざはなよぞら

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第三十一話

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 アリシアは二階の窓から外の様子を窺う。
 ギルドを取り囲む兵士たちの数はそう多くないが、既にギルドの職員たちに手を出し始めていた。

 一人の髭を生やした男がぶつくさと文句を言う。

「あー、面倒だなぁ」

 髭の男に対して兵士が敬礼をしている。

「ゲブ隊長。ギルドの職員を捕らえています! すぐに制圧完了かと!」

 ゲブと呼ばれた男は、気怠げに捕らえたギルドの職員の襟首を持ち上げると、

「今すぐに反乱者、アリシアを出せ。でなければ、ここにいる連中を一人ずつ斬る」

 中にいるアリシアに向かって、そのようなことを言ってのけた。
 が、既にゲブは刃物を市民の脇腹に刺してしまった。
 悲痛な叫び声がこだまし、ゲブはゴミを棄てるように男を投げる。

「あー。悪い、もう刺しちまった」

 アリシアはすぐに行動を開始する。
 屋内から階段を飛び降り、そのまま剣を引き抜いて、屋内を走る。
 剣をまっすぐに突き立てると、一気に扉を破壊。
 そのままの勢いで、兵士の肩を剣で貫く。

「ぐああああああああっっっ! オレの肩があああああああああっっっ!!!」
「出てこいと言ったから出てきてやったのに、うるさいぞ」

 アリシアに続いて出てきた兵士たちが、次々とメールの私兵たちを一網打尽にする。
 人質など、アリシアやヴェアトリーの兵士には無意味だ。

 隊長がやられたことに、メールの兵士たちはいきり立つ。

「ゲブ隊長! このォ! 火だ! 火を放ちやがれ!」

 その言葉に従い、男たちは手に持っていた松明に火を付けた。
 アリシアは冷たく男を見下す。

「レンガの建物は引火しない」

 屋内から様子を伺っているレオンが顔を出した。

「アリシア! 建物じゃねェ! 狙われているのは農作物だ!」

 なるほど。
 農民たちが時間を掛けて収穫してきたものを潰し、金銭的にも精神的にもダメージを与えたいのか。
 伯爵の収益にも繋がるものを切り捨てる辺り、短絡的と言うべきか、後先考えていないと言うべきか。
 ゲブは傷口を押さえながら下卑た笑いを浮かべる。

「ひひひ……。伯爵様に逆らったバツだ。お前ら農民たちは伯爵様の奴隷なんだよォ!」

 きっと伯爵は、失った農作物の被害金額を全て農民に押し付けるくらいはやるだろう。
 そうでなくても長い時間を掛けて出来た自分たちの収穫物を駄目にされれば、農民たちは苦痛や怒りを覚えるだろう。
 醜悪なことだ。

 アリシアが動こうとした瞬間――ギルドの職員たちと、メルグリスがわらわらと出てきた。
 その手にはマスケット銃が抱えられている。

「ギルドには指一本触れさせるな! 撃てー!!!」

 メルグリスの号令と共に、白煙が周囲に漂った。
 ゲブはその装備している物を見て、目を大きく開いた。

「なっ!? キサマら、銃を!?」

 一発一発はメールの兵士達には当たらなかったにせよ、怯ませることに成功した。

 その一瞬の隙さえあれば、十分だ。
 アリシアたちは火を持った兵士たちを取り押さえて、一瞬にて制圧してしまった。

 メルグリスはゲブに近付く。

「メール伯と隣国のテュルソ副首長が取引しているのは知っている。ならば、我々もその取引に便乗すれば、こうして武器を調達出来る!」

 そのままメルグリスが指示を飛ばすと、銃を持った部下達が負傷したギルドの職員を手当てし始める。
 ゲブは血を流しながら、恨みを込めた視線をメルグリスに向けた。

「メルグリス! 裏切ったな! 伯爵がいなければ何も出来ないくせに!」
「何も出来ないのはお前達だ。伯爵は我々、農民たちに負担だけ掛けさせて何もしない。私たちは、自らの意思で歩き始めるのだ!」

 どうやらメルグリスは伯爵に対して強い不信感を抱いていたのは、以前からだったらしい。
 アリシアが何も言わずとも、メルグリスは何らかの行動を実行していただろう。
 それはそうと、ゲブには聞かねばならないことがある。

「吐け。伯爵はどこだ?」
「れ、令嬢如きに伯爵の居場所を吐くオレじゃねえ! ヒヒヒ」

 どうしてやるか、とアリシアが考えていると、レオンが肩に手を置いてきた。
 代われ、ということか。

「ちと待ってな。こういうことはオレの専門分野だからな」

 拷問ではなく、交渉だと気付くのにアリシアは数秒かかった。
 アリシアからレオンに対する評価はどちらも同じ意味なのだが。
 この場はレオンに任せて、アリシアは聞き耳を立てながら、敵兵士たちの拘束を行う。

「どうしてお前、メールのジイさんに従ってるんだ?」
「あ? オレは伯爵の兵士だからに決まってるだろ」
「だから、伯爵に死ねって言われて賛同したのか。大した軍人さんだ」
「な、なんだと? 死……?」

 レオンはわざとらしく自分の顎を触って、空を眺めている。

「お前さん、どうして自分が殺されないって思ってたんだい?」
「ど、どういう意味だ!?」
「察しが悪いねェ。お前さんは、初めから死地に飛ばされたんだよ」

 ゲブはギョッと目を開いた。

「銃はナシ。それに、前にオレたちを襲った部隊よりも数が少ねェ。つまり、勝算なんざァ初めからない戦に駆り出されたってハナシ」
「なっ……!?」
「あ。全然気付かなかったのか。そりゃすまねェ」

 余計なことを言っちまったとおどけたように言うレオン。
 ゲブは動揺と、怒りの色が目に宿っていく。

「は、伯爵は何のためにオレをここに……!」
「そりゃ陽動、いや、玉砕覚悟のちょっかいだろ」
「ちょっかいって……!」
「だって、勝算がねェんだから、ちょっかいくらいにしかならねェだろ」

 実際、ちょっかいくらいにしかならなかった。

「ま、時間稼ぎくらいにはなったンじゃねェか? 良かったな。目的達成だ」
「…………」
「今頃、ジイさんは我が身のために逃げている最中じゃねェのかな?」

 実際、その通りだろう。
 勝ち目のない陽動など、時間稼ぎを目的だと考えられる。

「あーあ。今頃ジイさん、笑ってるだろうぜ。お前さんたちが苦しんでいるってのに、酒でも呑みながら高飛び決め込んでンだろうぜ。腹ァたつなー」

 ゲブは奥歯を噛みしめて、口を開いた。

「テオ領だ……」
「なんだって?」
「テオ領に向かっている!」
「テオ領に? なんでだ?」

 こうなれば道連れだと言わんばかりのゲブは吼える。

「隣国のテュルソ副首長に助けを求めるためだ! 伯爵は山を登れるほどの体力がないから、平地経由で隣国に向かっている!」
「ふーん。テュルソか」

 アリシアたちが敵兵士たちを縛っている間に話は片付いたようだ。
 レオンは腕を組みながら、顎に手を当てる。

「……ならバランの野郎がメール領をわざわざ経由するのは、山ン中で密輸入するためか。ちょうど、テュルソの屋敷はメール領を山越えしたらあるからなァ」

 どうやらレオンにはどうしてバラン公がメール領を山越えしているのか分かったらしい。
 なるほど、密輸入を行うためにわざわざ遠回りや山登りを繰り返していたわけか。
 メール領の山のことを天然の城塞と呼ぶよりも、天然の談合場所と言い換えた方が良い。

「アリシア。すぐに発つぞ」
「テオ領に辿り着かれて、男爵の部隊と合流されたら面倒だ」

 恐らく同盟関係と呼べるほど密に繋がってはいないが、ヴェアトリーの兵士たちを見れば、テオ男爵とて攻撃を仕掛けてくるのは想像に難くない。
 アリシアたちが馬の準備をしている間、メルグリスもまた馬に跨がっていた。

「レオン。私も同行しよう」
「メルグリス。お前さんが付いてくる理由はねェだろ」
「いや、ある。私にも伯爵と話しをさせて欲しい」

 頼む、と頭を下げてくるメルグリス。

「どうするよ、アリシア?」
「……この領土を治める人間が、メールからメルグリスに変わったことを周知する必要がある」
「メールを取っ捕まえてすぐに世間サマに喧伝するワケか。なら同行して貰う方がてっとり早い、かァ!」

 そういうことだ。
 早くメール領を手に入れて、手早く領営をメルグリスに移乗し、すぐさま農民たちに知らしめないといけないのだ。
 色々と手続きも必要かもしれないが、まず必要なのは、領民達に喧伝しないことには始まらない。

「行くぞ、我がヴェアトリーの兵士たちよ! 圧倒的兵力を持って、メール領を手中に収めるぞ!」
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