笹井くんは知らない

秋月みゅんと

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夜更かしと木曜日

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 願いは、あっさりと掛川に受け入れられた。
 笹井は連続三日間ではなく、毎週木曜日を指定した。目的は、カフェで寛ぐ掛川を堪能する事だ。
 カフェに行くなら木曜日だと前から思っていた。笹井は人混みが苦手なので、土日を避け、定休日も考慮しての考えだが、なにより学校が早く終わる。
 曜日はすぐに決まったが、今まで妄想してきたカフェから、実際に見たい店を三箇所に絞るのはなかなかに難しい。
――まさかこんな形で妄想が現実になるなんて……
 笹井はわくわくしながら、ネット検索をしていた。
――自分好みの店内で、気になるメニューがあって、少し落ち着いたカフェがいいな
 メニューを確認しては、ノートにメモを取り、悩んでいた。
 外出ついでに立ち寄ろうと、カフェ近郊の古本屋や映画館もチェックしていく。木曜日が待ち遠しい笹井は、深夜まで妄想しながら店選びをしていた。


 翌朝、笹井は日直だからと早めにセットしていた目覚ましに起こされ慌てる。教壇を拭いたり、花瓶の水かえが仕事なので、そんなに急いで向かう必要はなかったが、人目が気にならない早朝に済ませておきたかった。学校まで急いだ笹井は、教室に入るとすぐに窓を開ける。
「笹井、おはよう」
 ふり向くと倉田が居た。
「え、あ、おはよう」
 倉田は吹き出す。
「何で居るのかって顔してるな。約束しただろ」
 まさか、本当に来てくれるとは思っていなかった。
「あ、ありがとう。は、早くに登校させて、ごめんね」
「早朝の静かな教室を二日も楽しめるから、逆にラッキーだよ」
 倉田は言ってから、笹井の顔を覗き込む。
「なんか疲れて見えるけど、大丈夫か?」
 覗き込んできた倉田に驚いたが、その後の言葉にも笹井は驚く。
「ちよっと、夜更かしして。倉田くんには、すぐバレちゃうね」
 笹井は、前髪で顔を隠そうとしたが、伸びるわけもなくただ指で髪を梳いていた。
「少し休む? 代わりに日直してるよ」
 言いながら倉田は隣の窓を開ける。
「と、とんでもない!」
「なら、さっと終わらせて仮眠とろうか」
 倉田の優しさに心がほわりと温かくなった。
「ありがとう」
「夜更かしって、勉強してたとか?」
「しゅ、趣味の検索を」
「スイーツの?」
 少し違うが、スイーツを見ていたのも確かで、何でわかったのか笹井は驚く。倉田は「やっぱり?」と笑った。


 木曜日。
 掛川との約束は放課後の事なのに、朝から笹井は落ち着かない。
「笹井、おはよう」
「おはよう、倉田くん。……な、何?」
 倉田がじっと顔を見てくるので笹井は、俯いてしまう。
「なんか、良い事あった?」
 倉田は、人をよく見ているのだと感心してしまう。
「う、うん。……今日は、ちょっと、予定があって。う、浮かれてるのかなぁ」
「そっか」
 嬉しさが滲み出る笹井の顔を見て、幸せのおすそ分けを貰った気分の倉田に笹井は気付かない。

 朝のそわそわ感は何だったのか、と思うくらい、気抜けするほど何もない一日で、時間が長く感じる。倉田が話しかけるたび、つい予定を言ってしまいそうになる。
 休み時間に掛川と倉田が廊下で一緒に居るのを見て、二人の傍へ行ってみようかと、ふと思った。掛川も楽しみにしていて、倉田に予定を話しているのではないか、と想像してしまう。だが、近くで女子数名が二人の姿が絵になると言っているのが聞こえた。心の中で頷くと同時に、我に返る。
――危うく絵になる二人の邪魔をしてしまう所だった。何、自惚れた事を考えたのか……
「木下、邪魔ーっ」
 女子の声が聞こえ、木下が掛川と倉田の間に割って入った姿が見えた。

 ようやく放課後になって掛川の席へ向かおうと、早る気持を抑えてふり返る。
 掛川に野田と山野が先に声をかけ、話していた。
 一緒に帰れると思ったので、がっかりした。
「掛川に用? 呼ぼうか?」
 倉田に気付かれて慌てる。
「た、大した事じゃないから、大丈夫だよ。気を使わせて、ごめんね」
「え、帰るの?」
 倉田が何故か少し驚いた様に見えた。
「うん。じゃあ倉田くん、また明日ね」
 早めに準備して掛川の家に向かえばいいと笹井は考え、教室を出ると無意識に早足で歩く。
――服は準備してあるし、家から……十五分くらいで着くかな

 校門を抜けてから、掛川が追いつく。
「笹井! ちょっと待って!」 
 慌てて追ってきたのか、掛川の息が上がっていた。
「何で俺を置いてくの?」
「一度、帰宅してからでも良いかなぁと思って……」
「これもペナルティ的な?」
 掛川は小さく呟いた。
「ん?」
「約束して置いていかれたの初めてなんだけど……」
 まさか、そこを言われるとは思わなかった。掛川にとってはただの罰ゲームみたいなものだろう。友達と会話しているのを邪魔する権利は、笹井にはないと思っていた。
「ご、ごめんなさい。野田さんたちと話してたから、邪魔しちゃいけないと思って……それで、早めに準備して、掛川くんの家に向かおうと、思ったんだ」
 言われて気付いた様子で、掛川は謝る。
「そうかっ! ごめん。んー、確かに、そうだな。家で、待ち合わせても良いかな……」
「どのみち制服で遊ぶのは、良くないからね」
 家に向かう曲がり道で一度立ち止り、笹井は腕時計を見ながら口を開く。
「俺が、掛川くんの家に向かうね」
「その前に笹井、連絡先交換して」
 掛川はスマホを取り出した。
――友だちでもないのに、いいのかな……
 笹井は考えながらもたもたと鞄をあさり、青ざめる。
「ご、ごめんなさい。あまり使わないから、家に置いてきたみたい、です」
「そっか、じゃあ後で」
 時間を決めて、お互い家へと向かう。
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