幻魅桃~げんみとう~

秋月みゅんと

文字の大きさ
3 / 18

木曜日(3)

しおりを挟む
「幻魅桃を使ったのかね?」
 声に振り向くと、窓辺にあの老人が座っていた。
「あ、あんた桃に……毒でも塗ったのか?」
 直史は、青ざめ口が震えているのが自分でもわかった。
「まさか。寝てるんじゃよ。ほれ、早く思い描いた状況を伝えんか」
 老人はふわりと直史の前に降り立つ。
 「寝ている」と聞いて紡が呼吸をしている事に気づき、直史は安堵した。が、今度は疑問符が頭に浮かぶ。
 それに気づいたのか、老人は口を開いた。
「幻魅桃は……いわゆる"ほれ薬"じゃ。目を覚ます前に、なりたい状況をなるべく細かにささやくんじゃよ。桃を食べた者は、目覚めればそれが現実となるはずじゃ」
――ほれ薬だと!?
 驚いて紡の顔を見るが、すぐに老人に視線を戻して、怒鳴った。
「アホか! 俺はコイツにそんな感情持ってねぇよ!」
 しかし、老人の姿は消えていた。

――夢でも、見てるのか……ほれ薬なんて……どう見てもただの桃……こんなの……
 腕の中で寝ている紡を見る。
――ある訳が……ない
 少し冷静になり息を吐く。
 一瞬本気で心配したのに、気持ち良さそうに眠る紡をみて徐々にイタズラ心が湧いてきた。
 直史は、ゆっくりと口を開いた。
「……紡は、俺に告白した。今日、家に来たのはそのためだ。俺の事が好きで、いつも一緒にいたいと思ってる。手をつないだり……ハグしたり、キ……」
――何……言ってんだ俺は……
 自分のとった行動に呆れ、大きくため息をつく。
 こんな事、現実になる訳がない、そう思っているからバカらしいくもありえない事を口走ってみたくなったのだ。
 ただ、それだけだった。

 ゆっくりと紡の目が開く。驚いて、その体を落としてしまいそうになった。
「大、丈夫か?」
「あれ……どうしたんだろ?」
 上体を起こし、目をこする紡。直史は何事もなかったフリをする。
「ちゃんと飯食ってるか? 急に、倒れたんだけど?」
「……ごめん。なんか、頭がフワフワする……」
 直史はグラスに水を入れて渡す。
 まだきちんと覚醒していないのか、紡は一点を見つめたまま水を一口飲んだ。
 ほれ薬の効果なんてあるわけがない、それを証明したくて直史は聞いてみた。
「な、なんかさ……俺がどうのって……その……」
 きっと部活をサボった話になるだろうと、直史はその答えを待った。
 だが、紡は咳込んで赤くなった。
「ごめん。め、迷惑なの、わかってるよ。でも……でも好き、だから」
――……冗談、だろー……
 直史は、青ざめた。
 紡は目を合わせる事なく、水を飲み干し「ごちそうさま」とグラスを置いて去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...